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1章
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第2話 その刃は、選ばれし者にのみ応える
「まさか、魔物の巣を通ってたなんて……っ」
馬車を引いていた御者の叫び声と共に、木製の車体が大きく傾いた。エレシアは外套ごと地面に投げ出され、視界が暗転する。
目を開けると、そこは洞窟のような――いや、“ダンジョン”と呼ぶにふさわしい空間だった。
「……っ、ここ……どこ?」
どうやら魔物の奇襲で馬車ごとダンジョンへ落とされたらしい。御者の姿は見えず、気配すらない。残されたのは自分一人。
胸がひどくざわついた。冷たい岩肌。無数の分かれ道。異様な静けさ。
(剣も、魔法も、何も持っていない私に、何ができるの?)
追放され、家族にも拒絶され、国からも捨てられた。魔法の素養もないと断じられ、魔力制御すらまともに習えなかった。武器ひとつ持たぬ今、自分にできることなんて――
「……結局、私は何もなかったのね」
呟いたその時、背後から“気配”が走った。ザザッ、と足音が鳴る。影がうごめく。
飛びかかってきた獣型の魔物。逃げ場などない。
(ここで終わるの? こんな形で――)
その瞬間だった。
「……貴様の声、ようやく届いたか」
鈍く、低い、けれどどこか静謐な“声”が脳内に響いた。
何かに引き寄せられるように、エレシアは足元の裂け目に近づいた。地面に亀裂が走っている。岩の隙間に、何かが突き刺さっていた。
それは一本の剣だった。
禍々しくも美しい、黒鉄に赤い文様が刻まれた――まさしく“魔剣”と呼ぶにふさわしいそれ。
「その手を伸ばせ。“名もなき者”よ。貴様にふさわしい名を――この刃が授けよう」
一瞬、時間が止まった気がした。
「私は、名など……価値もないと捨てられたのに……」
「ならば、それを証明してみせろ。――この刃を、振るう資格があるのか」
エレシアは震える手で、その剣の柄に手をかけた。
手にした瞬間、世界が反転する。
魔力が迸り、亀裂から赤黒い光が溢れ、魔物が怯えたように後ずさる。
「貴様の名は、エア――追放された女の名ではなく、“選ばれし剣士”の名だ」
そして、魔剣は彼女の中に宿った。
静かに、確かに、唯一無二の絆として。
「……ありがとう、エルグレイド」
この時、エレシアはまだ知らなかった。
この剣が、自分を“世界最強のギルド剣士”へと導く運命の鍵となることを。
そして、かつて自分を見下した者たちが、この刃に跪く未来を――
「まさか、魔物の巣を通ってたなんて……っ」
馬車を引いていた御者の叫び声と共に、木製の車体が大きく傾いた。エレシアは外套ごと地面に投げ出され、視界が暗転する。
目を開けると、そこは洞窟のような――いや、“ダンジョン”と呼ぶにふさわしい空間だった。
「……っ、ここ……どこ?」
どうやら魔物の奇襲で馬車ごとダンジョンへ落とされたらしい。御者の姿は見えず、気配すらない。残されたのは自分一人。
胸がひどくざわついた。冷たい岩肌。無数の分かれ道。異様な静けさ。
(剣も、魔法も、何も持っていない私に、何ができるの?)
追放され、家族にも拒絶され、国からも捨てられた。魔法の素養もないと断じられ、魔力制御すらまともに習えなかった。武器ひとつ持たぬ今、自分にできることなんて――
「……結局、私は何もなかったのね」
呟いたその時、背後から“気配”が走った。ザザッ、と足音が鳴る。影がうごめく。
飛びかかってきた獣型の魔物。逃げ場などない。
(ここで終わるの? こんな形で――)
その瞬間だった。
「……貴様の声、ようやく届いたか」
鈍く、低い、けれどどこか静謐な“声”が脳内に響いた。
何かに引き寄せられるように、エレシアは足元の裂け目に近づいた。地面に亀裂が走っている。岩の隙間に、何かが突き刺さっていた。
それは一本の剣だった。
禍々しくも美しい、黒鉄に赤い文様が刻まれた――まさしく“魔剣”と呼ぶにふさわしいそれ。
「その手を伸ばせ。“名もなき者”よ。貴様にふさわしい名を――この刃が授けよう」
一瞬、時間が止まった気がした。
「私は、名など……価値もないと捨てられたのに……」
「ならば、それを証明してみせろ。――この刃を、振るう資格があるのか」
エレシアは震える手で、その剣の柄に手をかけた。
手にした瞬間、世界が反転する。
魔力が迸り、亀裂から赤黒い光が溢れ、魔物が怯えたように後ずさる。
「貴様の名は、エア――追放された女の名ではなく、“選ばれし剣士”の名だ」
そして、魔剣は彼女の中に宿った。
静かに、確かに、唯一無二の絆として。
「……ありがとう、エルグレイド」
この時、エレシアはまだ知らなかった。
この剣が、自分を“世界最強のギルド剣士”へと導く運命の鍵となることを。
そして、かつて自分を見下した者たちが、この刃に跪く未来を――
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