14 / 43
2章
2
しおりを挟む
第14話 眠る刃と、目覚める知恵
ギルドの上階、重厚な扉の奥で、エアたち《クロノ・フェイル》は正式な依頼を受けていた。
「遺跡……ですか?」
エアが問い返すと、ギルド幹部の一人が頷いた。
「ザルグレア北西にある“ウィルゼの廃遺跡”――300年前に封印された魔導文明の遺構だ。
この前の大雨で、一部の扉が開いた。その調査を、君たちに任せたい」
「魔物は?」
「おそらく“自動防衛式”の魔導罠。それと……まだ確認されていない“守護者”が存在する可能性もある」
アデルは視線を鋭くした。
「つまり、探索と戦闘、両方の対応力が必要ってことですね」
「その通りだ。……君たち《クロノ・フェイル》の連携に期待している」
任務の紙を手にしたとき、エアは静かに、でも確かに覚悟を決めた。
(これは……ただの昇格じゃない。試されてる)
「……受けさせてください」
***
遺跡の入り口は、苔むした石の階段の奥、崩れかけた門の影にひっそりと口を開けていた。
「うわ~、不気味だねぇ……」
「まあ、こういう場所は“雰囲気が9割”だよ」
アデルが軽口を叩きつつ、手のひらを掲げる。
そこに魔法陣が浮かび、淡い光が一行を包んだ。
「光球展開、風探知起動。……よし、進もう」
最初の数部屋は静かだった。
だが、奥へ進むにつれ、床に走る魔導式、天井に仕掛けられた穴、壁に描かれた不自然な模様――
明らかに“トラップ”の気配が濃くなる。
「この部屋、なにかおかしい……」
エアがそう呟いた瞬間、足元の石が沈んだ。
「……踏んだ?」
ゴゴゴ、と鈍い音。
上から、鋭い鉄の杭が落下してくる。
「エア、動かないで!」
アデルが叫ぶ。
彼が放った風の魔法が、空間をねじ曲げるように渦を巻き――
杭の角度を微妙に逸らす。
「っく……!」
そのすきに、エアは床を転がり、ぎりぎりで避ける。
「……ありがとう、アル!」
「油断は禁物。遺跡の罠は“反応してから”じゃ遅いんだよ」
その後も、回転床、魔力感知型の毒針、落とし扉などが容赦なく襲いかかる。
(このままじゃ、進めない……)
焦りがつのる中――
《“迷えば、刃を研げ。道を塞がれても、斬れぬものはない”》
エルグレイドの声が脳内に響いた。
「……斬る?」
「……アル、罠の魔力構造は見える?」
「見えるよ。魔導式の柱に集中してる」
「なら――あの構造ごと、破壊する!」
エアが魔剣を抜く。刃に魔力が集い、赤黒く輝き始める。
「エルグレイド、いける?」
《“当然だ。この手で、道を切り拓け”》
「――破斬!」
一閃。
魔剣から放たれた魔力の衝撃波が、罠の魔力核を斬り裂く。
バチン、と音が弾け、足元の仕掛けが沈黙する。
「おぉ、やったじゃん!」
リルが笑いながら拍手する。
アデルも頷いて、静かに言った。
「見事な判断だったよ、エア。……“君らしい戦い方”になってきたね」
その言葉に、エアの胸が少しだけ熱くなる。
“ただ振るう”だけだった剣が、
今は“仲間と進むために振るう刃”になってきている――そう感じた。
ギルドの上階、重厚な扉の奥で、エアたち《クロノ・フェイル》は正式な依頼を受けていた。
「遺跡……ですか?」
エアが問い返すと、ギルド幹部の一人が頷いた。
「ザルグレア北西にある“ウィルゼの廃遺跡”――300年前に封印された魔導文明の遺構だ。
この前の大雨で、一部の扉が開いた。その調査を、君たちに任せたい」
「魔物は?」
「おそらく“自動防衛式”の魔導罠。それと……まだ確認されていない“守護者”が存在する可能性もある」
アデルは視線を鋭くした。
「つまり、探索と戦闘、両方の対応力が必要ってことですね」
「その通りだ。……君たち《クロノ・フェイル》の連携に期待している」
任務の紙を手にしたとき、エアは静かに、でも確かに覚悟を決めた。
(これは……ただの昇格じゃない。試されてる)
「……受けさせてください」
***
遺跡の入り口は、苔むした石の階段の奥、崩れかけた門の影にひっそりと口を開けていた。
「うわ~、不気味だねぇ……」
「まあ、こういう場所は“雰囲気が9割”だよ」
アデルが軽口を叩きつつ、手のひらを掲げる。
そこに魔法陣が浮かび、淡い光が一行を包んだ。
「光球展開、風探知起動。……よし、進もう」
最初の数部屋は静かだった。
だが、奥へ進むにつれ、床に走る魔導式、天井に仕掛けられた穴、壁に描かれた不自然な模様――
明らかに“トラップ”の気配が濃くなる。
「この部屋、なにかおかしい……」
エアがそう呟いた瞬間、足元の石が沈んだ。
「……踏んだ?」
ゴゴゴ、と鈍い音。
上から、鋭い鉄の杭が落下してくる。
「エア、動かないで!」
アデルが叫ぶ。
彼が放った風の魔法が、空間をねじ曲げるように渦を巻き――
杭の角度を微妙に逸らす。
「っく……!」
そのすきに、エアは床を転がり、ぎりぎりで避ける。
「……ありがとう、アル!」
「油断は禁物。遺跡の罠は“反応してから”じゃ遅いんだよ」
その後も、回転床、魔力感知型の毒針、落とし扉などが容赦なく襲いかかる。
(このままじゃ、進めない……)
焦りがつのる中――
《“迷えば、刃を研げ。道を塞がれても、斬れぬものはない”》
エルグレイドの声が脳内に響いた。
「……斬る?」
「……アル、罠の魔力構造は見える?」
「見えるよ。魔導式の柱に集中してる」
「なら――あの構造ごと、破壊する!」
エアが魔剣を抜く。刃に魔力が集い、赤黒く輝き始める。
「エルグレイド、いける?」
《“当然だ。この手で、道を切り拓け”》
「――破斬!」
一閃。
魔剣から放たれた魔力の衝撃波が、罠の魔力核を斬り裂く。
バチン、と音が弾け、足元の仕掛けが沈黙する。
「おぉ、やったじゃん!」
リルが笑いながら拍手する。
アデルも頷いて、静かに言った。
「見事な判断だったよ、エア。……“君らしい戦い方”になってきたね」
その言葉に、エアの胸が少しだけ熱くなる。
“ただ振るう”だけだった剣が、
今は“仲間と進むために振るう刃”になってきている――そう感じた。
68
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。
私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?
榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」
“偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。
地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。
終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。
そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。
けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。
「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」
全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。
すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく――
これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
追放されたヒロインですが、今はカフェ店長してます〜元婚約者が毎日通ってくるのやめてください〜
タマ マコト
ファンタジー
王国一の聖女リリアは、婚約者である勇者レオンから突然「裏切り者」と断罪され、婚約も職も失う。理由は曖昧、けれど涙は出ない。
静かに城を去ったリリアは、旅の果てに港町へ辿り着き、心機一転カフェを開くことを決意。
古びた店を修理しながら、元盗賊のスイーツ職人エマ、謎多き魔族の青年バルドと出会い、少しずつ新しい居場所を作っていく。
「もう誰かの聖女じゃなくていい。今度は、私が笑える毎日を作るんだ」
──追放された聖女の“第二の人生”が、カフェの湯気とともに静かに始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる