『妹に婚約者を奪われた令嬢、今は魔剣と共にギルド最強です』

miigumi

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2章

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第18話 噂の向こうから、誰かが来る

 

リステルの街には、今、ささやかな“風の噂”が流れている。

魔剣を携えた少女、風を操る青年、大鎌の女戦士――
結成からわずかでCランクに昇格し、遺跡で守護者を斃したパーティがいる、と。

その噂が、ある一人の耳にも届いていた。

 

***

 

エアたちは、昼下がりのギルドの食堂で遅めの昼食をとっていた。

「エア、今日はスープ残さなかったじゃん! やるじゃん!」

「……朝から鍛えられて、さすがに空腹でしたので」

「鍛えたのはあたしだけどね!」

「そして突っ込むのが僕の役目なんだよね」

 

そんな会話を交わしていたとき――

「失礼、少しよろしいですか?」

 

その声は、空気を切るように澄んでいた。

振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。

深い青のローブを纏い、銀の留め具が胸元で光っている。
肌は浅黒く、瞳は琥珀に輝いていた。

 

「《クロノ・フェイル》の皆さんですね?」

「……そうですが、あなたは?」

エアが身構えると、青年は礼儀正しく一礼する。

「私は、フロスト王国から来た調査使節団の一員――ノア・ヴェルトと申します」

「王国……?」

「えっ、なんでそんな遠いとこから?」

「貴方がたが討伐された遺跡“ウィルゼ”は、我々の側でも封印監視対象となっておりまして。
近隣の動きと噂を確認し、調査の必要があると判断した次第です」

「つまり……私たちの名前が、他国にまで?」

「はい。そして特に気になったのは――“魔剣の剣士”という部分です」

 

その言葉に、エアの背筋がすっと冷えた。

「何が目的ですか?」

「確認です。魔剣の名、力、そして――“選ばれし者”としての適性」

「それってどういう意味?」

リルが前に出ようとするが、アデルが手で制する。

「……君は、どこまで知っている?」

アデルの声が低くなった。

ノアは、その問いに静かに微笑む。

「すべてを語るには、まだ時が早いでしょう。ですが、
我々の王国ではすでに、“この世に残された最後の三本の魔剣”の動きが活性化していると確認されています」

 

「あなたの剣、《エルグレイド》もそのひとつ――そう考えています」

 

エアの手が、無意識に剣の柄へと伸びた。

けれど、魔剣は静かに沈黙していた。

 

「今後、何かあった際には、正式な書簡を通じてご連絡させていただきます。
今日は、ご挨拶だけにて失礼を――」

 

そう言って、青年は一礼し、食堂をあとにした。

 

「……なに、あれ……」

リルがぽつりと呟く。

アデルは腕を組んでいた。

「……王国間の“魔剣を巡る思惑”が、動き始めてるかもね」

「……私が、関係してる……?」

「エア」

アデルは目線を合わせる。

「もし、世界が君を中心に回り始めたとしても――
僕は“君の仲間”でいるつもりだよ」

「もちろん、あたしもね!」

 

エアは黙って、二人の顔を見た。

そして、ゆっくりと小さく、頷いた。
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