『妹に婚約者を奪われた令嬢、今は魔剣と共にギルド最強です』

miigumi

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2章

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第23話 この命で、守りたいと思った

 

それは、帰路の林道で起きた。

シュトレール邸での任務を終え、街への帰還途中。

風は穏やかで、空も青く澄んでいた――
まるで、嵐の前触れを誤魔化すために、天が取り繕ったかのように。

 

「……妙ね。さっきから鳥の声がしない」

アデルの声に、エアは反応した。

「鳥……確かに、さっきまで小さな囀りが――」

 

その瞬間だった。

 

「跳べっ!」

アデルが叫び、風が一陣、三人の身体を弾いた。

次の瞬間、地面が爆ぜ、罠が起動。

鋭い杭と毒針が、彼らのいた地面を容赦なくえぐった。

 

「くっ……! 伏兵!?」

リルが身を起こし、大鎌を構える。
周囲の茂みから、仮面をかぶった黒装束の数人が現れる。

 

「狙いは……私たち?」

「いや。エアだ」

アデルが即答した。

「……やっぱり、あの男。文書だけが目的じゃなかった」

 

敵は、戦闘に慣れていた。

魔導具による爆撃、攪乱煙幕、連携した動き――すべてが“準備された襲撃”だった。

だが。

 

「やらせるかぁぁぁ!!」

リルの大鎌が唸りを上げ、前衛を薙ぐ。

「風鎖《エア・バインド》」

アデルの魔法が、敵の足を封じて後衛の動きを止める。

 

エアは剣を構えながら、ただ、必死に考えていた。

(どうすれば、二人を守れる? この状況で、私にできることは?)

(私、戦えるの? 震えてない?)

 

敵の一人が突っ込んでくる。

動きは、見える。けれど、身体が――遅い。

 

(違う、違う! 私、戦いたいんじゃない。守りたいの)

(この二人を――リルを、アルを、絶対に)

 

「っ、来ないで――ッ!!」

魔剣が閃く。

風が爆ぜるような斬撃が、敵を薙ぎ払った。

 

刃が血に濡れても、手は震えなかった。

ただ――

 

「エアッ!」

リルが叫ぶ。振り返ると、別方向から矢が飛んできていた。

動けない。避けられない距離。

 

その瞬間――アデルが前に立った。

「……させるか」

風が収束し、矢が逸れる。

その代償として、アデルの肩口に赤が滲む。

 

「アル……!」

「大丈夫、掠っただけ」

「でも……っ!」

 

(私は、なんて……)

(私がもっと早く――)

 

涙が滲みそうになる。

でも。

アデルは、静かに言った。

「泣かないで。僕たちは、君を守るためにいるわけじゃない」

「君と、並んで立つためにいるんだよ」

 

リルも叫ぶ。

「エア! あんたはもう、うちらの仲間なんだからね!」

「泣いてる暇あるなら、もう一発ぶった斬れーッ!」

 

――そうだ。

私には、もう独りじゃない居場所がある。

 

「……泣きませんよ。だって、私――あなたたちの仲間ですから!」

 

魔剣を構える。
心が、震えていた。でも、それは恐怖じゃない。

誰かと生きるって、こんなにも力になるんだ。

 

「エルグレイド、力を貸して!」

《“共に斬れ。仲間を守るために”》

 

エアの剣が、風を纏う。
その一撃は、敵を怯ませ、戦場を切り裂いた。

 

伏兵は撤退していった。

けれど、エアの中には確かなものが残った。

 

――私はこの手で、守ると決めた。

この二人と、生きると決めた。

それが、私の“新しい誓い”。
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