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お盆休みが終盤に近づいてきたせいもあって、一般国道は高速道路の渋滞から逃れてきた長距離トラックの長い列が出来ていた。このままでは高原咲恵の店に18時に着くのは難しい。継人が悪態をつくと、芳田はメイン道路を避け、山沿いのバイパスを通って石積町を目指すルートを提案した。
すると、かつての古戦場の真ん中を緩やかに流れる道路は、1度もブレーキを踏む機会すら与えず、あっという間にSUVを石積町の口元まで導いた。継人は思わず口笛をヒューと鳴らした。400年以上も前に行なわれた日本の歴史上最も重要な戦いがわずか6時間で決したように、ここでは時間の流れが速くなっているのかもしれない。
「ずいぶん早く着いちまったな。まだ20分もある」石積町の駐車場に着くと、芳田は車外に出て煙草に火をつけた。『スナック 咲恵』はここから歩いて2分ほどの距離だ。
「ここに来たのは小学校の遠足以来だ」継人が駅舎の向こう側を見ると、『石積ウォーランド』の大きな看板が目に入った。「あそこって、まだやってるのか?」
「やってるなんてもんじゃない。いまや日本一の珍スポットとかで、SNSじゃ結構な評判らしいぞ」
「あの『ウォー』ってのは、戦のWARなんだよな。オレはずっと鬨の声を上げる『ウォー』だと思ってた」
「オレもだ」芳田は笑った。「でも、どっちとも取れるところが味があっていいじゃないか」
「そうだな」継人も笑って商店街のほうに目を向けると、『スナック 咲恵』から長い髪の女性が飛び出し、急いで車に乗り込むのが見えた。「いま、店から女が出てきた」
「高原咲恵か?」
「いや、痩せ型の女だ。本人じゃない」継人はSUVのキーを握りしめた。女の車はすでに最初の角を曲がって、視界から消えている。高原咲恵との面談の約束がなければ追いかけたいところだった。「なにか、イヤな予感がするな」
「店に行こう。そういう予感は大抵当たるもんだ」
「そうだな」
喋り終わるまえに2人とも走り出していた。待ち合わせの時間まではまだ10分あったが、そんなことはどうでも良かった。
人口大理石の壁の真ん中に同じ色合いの片開きドアがあったが、チャイムは付いていない。芳田がノックすると、継人が大声で呼んだ。
「高原さん。栗村です。いらっしゃいますか?」
少し間を置いて、耳を澄ませる。何の反応もない。もう一度声を掛けようとしたとき、芳田が手を上げて制した。
「待て。鍵が開いてる」
芳田がノブを回し、ドアをゆっくりと開けると、店内はバーカウンターの周りを除いてほとんど真っ暗だった。ひんやりした壁を恐る恐る手で伝いながらバーカウンターの脇にあるスイッチに辿り着く。どれが電源用なのかが分からないので、下に倒してあるスイッチをすべて跳ね上げると、室内のすべての照明と空調が一斉に作動し始めた。
「ひっ!」突然明るくなった芳田の足元のすぐ先、シンクとキャビネットの間に女性が倒れているのが見えた。「ウソだろ」
後ずさる芳田と入れ替わるように、継人が駆け寄った。「高原さん! 高原さん! 聞こえますか!」
うつ伏せになった身体を軽く起こそうとすると、高原咲恵は目を見開いたままグッタリと首を垂れて、口からは白い泡のようなものを吹き出している。
「とにかく救急車だ!」
継人が叫ぶと、芳田は急いでスマホを取り出して119をタップした。すると、芳田は間違いに気付いたように、いったん耳から離した。「警察のほうがいいんじゃないか?」
「事件性があるかどうかは救急隊員が判断して警察に連絡してくれる。だから、見たままを話せばいい」
「なるほど」芳田はもう一度耳に当てた。「あっ、もしもし」
事件性があるに決まってるだろ。自分が吐いた言葉にもかかわらず、継人はそう思った。さっきの女だ。顔も車種もナンバーもよく見えなかったが、振り乱れる栗色の長い髪だけは眼に焼き付いている。まさか、あれが高原夏美なのか?
救急車は、芳田が連絡を入れてから約5分で着いた。たぶん消防署がすぐ近くにあるのだろう。救急隊員は場所だけを訊くと、すぐに店内に入っていった。それからすこし遅れてパトカーが到着し、小柄で年配の制服警官が2人の顔を覗きこんだ。
「連絡をくれたのは?」
「オレです」芳田が言うと、継人はすぐに付け加えた。「私も一緒です」
「ふん」警官は鼻を鳴らした。身体が他の警官より小さいぶん、足りない分を知力と狡猾さで補ってきたような男だ。その表情には、余所者に対する嫌悪感が滲み出ている。「石積の人間とは思えんが、どんな用件で来られたんかね。開店にはまだ随分と早いように思えるが」
「彼女の妹さんの消息をお尋ねしようと、ここで待ち合わせをしていました」継人は正直に答えた。「妹さんは私たちの同級生なんです」
「巡査部長」
背中で呼ぶ声がして、警官は振り返った。2人の救急隊員が高原咲恵の身体をストレッチャーに固定し終わったところだった。「心配停止状態ですが、このまま病院へ搬送します」
隊員が一礼すると、警察官はストレッチャーに駆け寄った。そして匂いを嗅ぐ仕草をしたあとハンカチを出して咳き込んだ。「ご苦労さん」
救急車のサイレン音が遠ざかり、現場は3人だけになった。警官は手を後ろに組んだまま、店内を歩き回った。2人は立ったまま、その姿を目で追った。
「手続き上、病院に送ったが、まず助からんだろうな」警官は高原咲恵がいた辺りを凝視した。「ありゃ毒物だ。おねえちゃんの身体から甘酸っぱい匂いがしとった。間違いない。そうなれば一応、事件っていう線も考えにゃならん。いま鑑識がこっちに向かっとるから、もうちょっと付き合って貰うようになるで、お2人さん」
継人は芳田と顔を見合わせた。第1発見者転じて容疑者ということらしい。この状況なら致し方ないところだ。
しかし、それより気になるのは、なぜ高原咲恵が命を狙われなければならなかったのかだ。これがもし口封じを狙ったものだとすれば、命に関わるほどの秘密を握っていたということだ。
「ところで、あんた達がここに来る前に誰か見かけなかったかね?」
継人は一瞬ためらった。もしあれが高原夏美だったら、彼女を容疑者として官憲に引き渡すことになる。
その様子を見て、芳田が代わりに答えた。「待ち合わせの時間の10分前に女がひとり、この店を飛び出していくのを見ました。えーと」
「痩せ型で、茶色い毛の、髪の長い女です」継人が堪らず割って入った。あとで齟齬が出れば面倒なことになるかもしれない。「駅の駐車場から見たので顔は確認できていません。服は水色のワンピース。車は黒い軽乗用車で、ナンバーや車種は分かりません」
「つまり、あんた達の知らない女だったってことやな」
「そうです」2人は異口同音に答えた。
プルルルルルッ
警官の携帯電話が鳴った。「唐木です。はい、そうですか。なるほど。ええ、居ますよ。分かりました」2分ほどのやり取りが終わって電話を切ると、警官はつまらなさそうに2人を見た。「ご協力感謝する。念のため、名前と住所と電話番号を教えて貰えんかね。お引き留めして悪かった」警官はメモを1枚引きちぎり、ボールペンと一緒にカウンターの上に置いた。「それに書き終わったら帰ってもらっていい。まあ、短い連休の残りを愉しんでくれ」
警官はソファーにどっしりと腰を下ろし、投げやりな様子でカラオケの目次本をパラパラと捲った。
「何があったんです?唐木さん」継人は名前を書きながら訊いた。
「あんた達は知らんでええ事や」警官は顔を上げずに言った。「それに、わざわざ名前で呼んでもらう必要もない」
「そういう言い方はないだろ!」芳田は怒鳴った。「かりにもオレ達は、倒れている人を見つけて救急隊や警察に協力したんだ。最低限の情報は知る権利があるんじゃないのか?」
「高原咲恵は亡くなったよ。死因は青酸中毒。たぶん自殺やないかっていう話や。これで充分かね?」
「自殺なんて、そんなバカな! あの女はほんの数時間前にオレ達をこの店に呼びつけて、飲み代をむしり取ろうとしてたんだぞ!」
芳田が興奮すると、警官は冷静に答えた。「きっと、誰かに発見して欲しかったんかもしれん」
「あなたはそれで納得できるんですか?」
継人が落ち着いた口調で言った。警官はちょっと動揺したように見えたが、すぐに佇まいを直した。
「いいか、お2人さん。テレビドラマかなんかだと、青酸化合物を飲み物に入れて殺すヤツがおるが、あんなのは嘘っぱちや。いくら少量で殺せる猛毒や言うても、希釈すれば効力は落ちる。かと言って大量に放り込めれば、独特の刺激臭でとても飲めたもんやない。すぐに何か入っとるのがバレちまう。大抵は、少し飲んだだけで吐き出すらしい。実際にそれで助かったもんもおるくらいやからな。人ひとりを殺すってのは、そんなに簡単やないっちゅうことや」
「つまり、自分の意思で飲んだと?」継人はまだ納得がいかない。
「その通り。胃の中からは、少量の水と高濃度の毒物だけが出てきたらしい。つまりあのおねえちゃんは、まるでカゼ薬でも飲むみたいに自分から進んで毒を飲み込んだと推測できる訳や」
「じゃあ、さっきここから出ていった女のことはどうなるんです?」
「その関連を調べるのは、私服組の仕事や。それぞれ持分ちゅうもんがあるからな」警官はそう言うと、腕時計を見た。時間は19時を回ったところだった。
「帰ろう」芳田が言うと、継人はもどかしそうに呟いた。「そうだな」
もうこれ以上、何も言うことは無かった。このままでは、自殺という判断で幕が下ろされるかもしれない。事件性を裏付けるサインはいくつもあるのに、ピースは依然としてバラバラなままだ。憶測だけでは警察は動かせない。
店を出ると、鑑識専用のワンボックスが到着したところだった。2人はそれを恨めしそうに流し見しながら、駅前の駐車場に駐めてあるSUVに乗り込んだ。
「決めた」ハンドルを握りしめて、継人は言った。「今夜、麻倉邸に侵入する」
芳田はニヤリとした。「そうこなくっちゃ」
すると、かつての古戦場の真ん中を緩やかに流れる道路は、1度もブレーキを踏む機会すら与えず、あっという間にSUVを石積町の口元まで導いた。継人は思わず口笛をヒューと鳴らした。400年以上も前に行なわれた日本の歴史上最も重要な戦いがわずか6時間で決したように、ここでは時間の流れが速くなっているのかもしれない。
「ずいぶん早く着いちまったな。まだ20分もある」石積町の駐車場に着くと、芳田は車外に出て煙草に火をつけた。『スナック 咲恵』はここから歩いて2分ほどの距離だ。
「ここに来たのは小学校の遠足以来だ」継人が駅舎の向こう側を見ると、『石積ウォーランド』の大きな看板が目に入った。「あそこって、まだやってるのか?」
「やってるなんてもんじゃない。いまや日本一の珍スポットとかで、SNSじゃ結構な評判らしいぞ」
「あの『ウォー』ってのは、戦のWARなんだよな。オレはずっと鬨の声を上げる『ウォー』だと思ってた」
「オレもだ」芳田は笑った。「でも、どっちとも取れるところが味があっていいじゃないか」
「そうだな」継人も笑って商店街のほうに目を向けると、『スナック 咲恵』から長い髪の女性が飛び出し、急いで車に乗り込むのが見えた。「いま、店から女が出てきた」
「高原咲恵か?」
「いや、痩せ型の女だ。本人じゃない」継人はSUVのキーを握りしめた。女の車はすでに最初の角を曲がって、視界から消えている。高原咲恵との面談の約束がなければ追いかけたいところだった。「なにか、イヤな予感がするな」
「店に行こう。そういう予感は大抵当たるもんだ」
「そうだな」
喋り終わるまえに2人とも走り出していた。待ち合わせの時間まではまだ10分あったが、そんなことはどうでも良かった。
人口大理石の壁の真ん中に同じ色合いの片開きドアがあったが、チャイムは付いていない。芳田がノックすると、継人が大声で呼んだ。
「高原さん。栗村です。いらっしゃいますか?」
少し間を置いて、耳を澄ませる。何の反応もない。もう一度声を掛けようとしたとき、芳田が手を上げて制した。
「待て。鍵が開いてる」
芳田がノブを回し、ドアをゆっくりと開けると、店内はバーカウンターの周りを除いてほとんど真っ暗だった。ひんやりした壁を恐る恐る手で伝いながらバーカウンターの脇にあるスイッチに辿り着く。どれが電源用なのかが分からないので、下に倒してあるスイッチをすべて跳ね上げると、室内のすべての照明と空調が一斉に作動し始めた。
「ひっ!」突然明るくなった芳田の足元のすぐ先、シンクとキャビネットの間に女性が倒れているのが見えた。「ウソだろ」
後ずさる芳田と入れ替わるように、継人が駆け寄った。「高原さん! 高原さん! 聞こえますか!」
うつ伏せになった身体を軽く起こそうとすると、高原咲恵は目を見開いたままグッタリと首を垂れて、口からは白い泡のようなものを吹き出している。
「とにかく救急車だ!」
継人が叫ぶと、芳田は急いでスマホを取り出して119をタップした。すると、芳田は間違いに気付いたように、いったん耳から離した。「警察のほうがいいんじゃないか?」
「事件性があるかどうかは救急隊員が判断して警察に連絡してくれる。だから、見たままを話せばいい」
「なるほど」芳田はもう一度耳に当てた。「あっ、もしもし」
事件性があるに決まってるだろ。自分が吐いた言葉にもかかわらず、継人はそう思った。さっきの女だ。顔も車種もナンバーもよく見えなかったが、振り乱れる栗色の長い髪だけは眼に焼き付いている。まさか、あれが高原夏美なのか?
救急車は、芳田が連絡を入れてから約5分で着いた。たぶん消防署がすぐ近くにあるのだろう。救急隊員は場所だけを訊くと、すぐに店内に入っていった。それからすこし遅れてパトカーが到着し、小柄で年配の制服警官が2人の顔を覗きこんだ。
「連絡をくれたのは?」
「オレです」芳田が言うと、継人はすぐに付け加えた。「私も一緒です」
「ふん」警官は鼻を鳴らした。身体が他の警官より小さいぶん、足りない分を知力と狡猾さで補ってきたような男だ。その表情には、余所者に対する嫌悪感が滲み出ている。「石積の人間とは思えんが、どんな用件で来られたんかね。開店にはまだ随分と早いように思えるが」
「彼女の妹さんの消息をお尋ねしようと、ここで待ち合わせをしていました」継人は正直に答えた。「妹さんは私たちの同級生なんです」
「巡査部長」
背中で呼ぶ声がして、警官は振り返った。2人の救急隊員が高原咲恵の身体をストレッチャーに固定し終わったところだった。「心配停止状態ですが、このまま病院へ搬送します」
隊員が一礼すると、警察官はストレッチャーに駆け寄った。そして匂いを嗅ぐ仕草をしたあとハンカチを出して咳き込んだ。「ご苦労さん」
救急車のサイレン音が遠ざかり、現場は3人だけになった。警官は手を後ろに組んだまま、店内を歩き回った。2人は立ったまま、その姿を目で追った。
「手続き上、病院に送ったが、まず助からんだろうな」警官は高原咲恵がいた辺りを凝視した。「ありゃ毒物だ。おねえちゃんの身体から甘酸っぱい匂いがしとった。間違いない。そうなれば一応、事件っていう線も考えにゃならん。いま鑑識がこっちに向かっとるから、もうちょっと付き合って貰うようになるで、お2人さん」
継人は芳田と顔を見合わせた。第1発見者転じて容疑者ということらしい。この状況なら致し方ないところだ。
しかし、それより気になるのは、なぜ高原咲恵が命を狙われなければならなかったのかだ。これがもし口封じを狙ったものだとすれば、命に関わるほどの秘密を握っていたということだ。
「ところで、あんた達がここに来る前に誰か見かけなかったかね?」
継人は一瞬ためらった。もしあれが高原夏美だったら、彼女を容疑者として官憲に引き渡すことになる。
その様子を見て、芳田が代わりに答えた。「待ち合わせの時間の10分前に女がひとり、この店を飛び出していくのを見ました。えーと」
「痩せ型で、茶色い毛の、髪の長い女です」継人が堪らず割って入った。あとで齟齬が出れば面倒なことになるかもしれない。「駅の駐車場から見たので顔は確認できていません。服は水色のワンピース。車は黒い軽乗用車で、ナンバーや車種は分かりません」
「つまり、あんた達の知らない女だったってことやな」
「そうです」2人は異口同音に答えた。
プルルルルルッ
警官の携帯電話が鳴った。「唐木です。はい、そうですか。なるほど。ええ、居ますよ。分かりました」2分ほどのやり取りが終わって電話を切ると、警官はつまらなさそうに2人を見た。「ご協力感謝する。念のため、名前と住所と電話番号を教えて貰えんかね。お引き留めして悪かった」警官はメモを1枚引きちぎり、ボールペンと一緒にカウンターの上に置いた。「それに書き終わったら帰ってもらっていい。まあ、短い連休の残りを愉しんでくれ」
警官はソファーにどっしりと腰を下ろし、投げやりな様子でカラオケの目次本をパラパラと捲った。
「何があったんです?唐木さん」継人は名前を書きながら訊いた。
「あんた達は知らんでええ事や」警官は顔を上げずに言った。「それに、わざわざ名前で呼んでもらう必要もない」
「そういう言い方はないだろ!」芳田は怒鳴った。「かりにもオレ達は、倒れている人を見つけて救急隊や警察に協力したんだ。最低限の情報は知る権利があるんじゃないのか?」
「高原咲恵は亡くなったよ。死因は青酸中毒。たぶん自殺やないかっていう話や。これで充分かね?」
「自殺なんて、そんなバカな! あの女はほんの数時間前にオレ達をこの店に呼びつけて、飲み代をむしり取ろうとしてたんだぞ!」
芳田が興奮すると、警官は冷静に答えた。「きっと、誰かに発見して欲しかったんかもしれん」
「あなたはそれで納得できるんですか?」
継人が落ち着いた口調で言った。警官はちょっと動揺したように見えたが、すぐに佇まいを直した。
「いいか、お2人さん。テレビドラマかなんかだと、青酸化合物を飲み物に入れて殺すヤツがおるが、あんなのは嘘っぱちや。いくら少量で殺せる猛毒や言うても、希釈すれば効力は落ちる。かと言って大量に放り込めれば、独特の刺激臭でとても飲めたもんやない。すぐに何か入っとるのがバレちまう。大抵は、少し飲んだだけで吐き出すらしい。実際にそれで助かったもんもおるくらいやからな。人ひとりを殺すってのは、そんなに簡単やないっちゅうことや」
「つまり、自分の意思で飲んだと?」継人はまだ納得がいかない。
「その通り。胃の中からは、少量の水と高濃度の毒物だけが出てきたらしい。つまりあのおねえちゃんは、まるでカゼ薬でも飲むみたいに自分から進んで毒を飲み込んだと推測できる訳や」
「じゃあ、さっきここから出ていった女のことはどうなるんです?」
「その関連を調べるのは、私服組の仕事や。それぞれ持分ちゅうもんがあるからな」警官はそう言うと、腕時計を見た。時間は19時を回ったところだった。
「帰ろう」芳田が言うと、継人はもどかしそうに呟いた。「そうだな」
もうこれ以上、何も言うことは無かった。このままでは、自殺という判断で幕が下ろされるかもしれない。事件性を裏付けるサインはいくつもあるのに、ピースは依然としてバラバラなままだ。憶測だけでは警察は動かせない。
店を出ると、鑑識専用のワンボックスが到着したところだった。2人はそれを恨めしそうに流し見しながら、駅前の駐車場に駐めてあるSUVに乗り込んだ。
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