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第51話 レスティの鬼! 悪魔! 魔王!
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「で、主は私達の気持ちを理解できたか?」
シーツ一枚以外の着衣を認められず、色々とびちゃびちゃになった私を暗く冷たい視線が貫いた。
出元のレスティは、片手に愛用の魔剣を持ち、剣の腹で自身の頭を叩いている。まるで取り立てに来た借金取りのように『わかってんな、おら?』とでも言いだしそうな、壮絶な表情をしていた。
普段の凛々しく、時折恥じらいを見せる可愛らしさはどこにいったのか。
私はベッドの上に丸まって、頭からシーツを被って視線を遮る。
僅かな抵抗にもならないだろうが、そうでもしないと精神が裂かれそうだった。それほどまでに今のレスティは怖くて怖くて怖くて怖い。
「粉火は薄火に。広く広く」
レスティの指先から火の粉が飛び、シーツに触れるとゆっくり燃え広がった。
私やベッドには移らず、シーツだけを焼いて素肌を露わにする。
したくはないが、犯される前の生娘のように恥部を隠し、じりじり後ずさるくらいしか今は出来ない。涙目を浮かべて上目遣いをすればユーリカ辺りは許してくれそうだが、目の前の魔王は真に魔王らしく、非情の塊にしか見えなかった。
助けて。
「ごめんなさい」
「謝るだけなら子供でもできる。埋め合わせはキッチリしてもらうからな。搾り尽くされないようにしっかり貯めておけ」
「はい、わかりました」
「よし。じゃあ、出かけるぞ。こんな都を落とすのに悠長にやっている暇はない。さっさと終わらせて、私とシムナの貞操を奪って眷属にしろ。拒否権はないからな?」
邪悪な笑みの舌なめずりを見せられ、これからどうなってしまうのか恐怖ですくむ。
レスティの背後に控える巫女達に視線を送り、助けを求めてもそっぽを向かれるだけだった。さっきまであんなに愛と欲を交わし合い、全員互いの頂きの成果を下の口から垂れ流しているというのに見捨てるなんて酷過ぎる。
悲しみを頬に幾筋も伝わせる。
そんな私を、レスティは乱暴に掴んで脇に抱えた。まだ何も着ていないのに、事後の後始末も何もせず、窓から跳び出して都の中央に飛翔する。
何をする気なのか、何となく予想がついた。
「レスティ、恐怖政治は長続きしないんだよ?」
「私はきっかけを作るだけだ。この都に喰い捨てられた命が、正当な権利をもって報復する。大惨事になるだろうが、主が救うから大事になり過ぎはしない」
「詭弁だな」
「そうか? 地に染み死に消え燻る無念。散り散り集いて散り散り喰らえ。産、産、産、産、産、産――――」
地中に潜む死者の残留思念が、詠唱に応えて地上に産まれる。
人間をすっぽり覆えるくらいの大きさの、真っ黒で丸い闇の塊。
レスティが使うのだから死霊魔術なのだろう。行き交う人を見つけるとゆっくり近づいて音もなく取り込み、吐き出したと思ったらミイラのように干からびていた。
そんなのが、都の至る所に数え切れないほど出現している。
吸熱をしているらしく、熱感知で場所の把握は簡単に出来る。しかし、いくら何でも数が多すぎて、被害の拡大が止まらない。
真下を見ると、幼いラミアの姉妹が襲われていた。
見ていられず、全身を不定形に変えてレスティの手から離れ、二人の前に降り立つ。向けられる警戒と怯えを無視して、人型を取り直して闇に触手を撃ち込んだ。
対不死の血で穿たれ、甲高い絶叫と共に闇が霧散する。
アンデッドとしては低ランクらしく、大した抵抗も反動もない。
「二つ壁の白石屋敷に避難しろ! 私の巫女達が保護してくれる! 道中、生き残っている者達に会ったら同じように伝えるんだ!」
「あ……え…………?」
「急げっ!」
曲がり角から出て来た追加にも触手を突き入れ、姉妹の退路を確保する。
躊躇する姉妹の背中を押し、一跳びで近くの家の屋根に上がって周囲を探った。
区画内のアンデッドはおよそ三百程度。五十人分の熱が今取り込まれ、百三十人分が既に吐き出されている。動きが鈍いからと迎撃したは良いが、攻撃した所で包まれ、返り討ちにでもあったのだろう。
無謀にも程がある。
「主、手伝おうか?」
「不要だ。全滅させるだけなら容易い。後の事を考えて、効率良く、印象深くしないといけないんだよ」
生存者がいる通りを見つけ、レスティを置いて最短距離を跳躍し、急行する。
空中で出来るだけ派手に、三十本の触手を伸ばし貫いて半数を処理する。生存者達の視線を引いて着地を果たし、更に三十を生やして残りを排除し知らしめた。
初撃で全て倒した場合、その瞬間を見逃してしまう者が多く出てくる。
二撃に分ける事で露出の時間を増やし、命の恩人が誰かをわかりやすくするという寸法だ。正義の味方みたいで凄く嫌だが、今回ばかりはそんな事を言っていられない。
絶体絶命のピンチに駆けつけるご都合主義展開は、大体はこうやって作られた演出だ。
だが、それを知らない者達を味方につけるには最適な演目と言える。見事演じ切って、後の好意に繋げて見せよう。
「残りは三十区画と住宅密集地が七箇所。一か所十五秒として、四百五十秒足す百五秒、合わせて五百五十五秒、おおよそ十分っ」
救い切るまでの間に失われる命の冥福を祈り、私は次の場所に駆けた。
勝手な都合で勝手に殺し、勝手に救って勝手に恩を売る。
罪悪感がないではないが、もうそうなってしまったので仕方がない。
出来るだけ多くを救えるように努めよう。
そして、奪う前よりずっと豊かに。
「償える方法は、それくらいしかないからな……」
シーツ一枚以外の着衣を認められず、色々とびちゃびちゃになった私を暗く冷たい視線が貫いた。
出元のレスティは、片手に愛用の魔剣を持ち、剣の腹で自身の頭を叩いている。まるで取り立てに来た借金取りのように『わかってんな、おら?』とでも言いだしそうな、壮絶な表情をしていた。
普段の凛々しく、時折恥じらいを見せる可愛らしさはどこにいったのか。
私はベッドの上に丸まって、頭からシーツを被って視線を遮る。
僅かな抵抗にもならないだろうが、そうでもしないと精神が裂かれそうだった。それほどまでに今のレスティは怖くて怖くて怖くて怖い。
「粉火は薄火に。広く広く」
レスティの指先から火の粉が飛び、シーツに触れるとゆっくり燃え広がった。
私やベッドには移らず、シーツだけを焼いて素肌を露わにする。
したくはないが、犯される前の生娘のように恥部を隠し、じりじり後ずさるくらいしか今は出来ない。涙目を浮かべて上目遣いをすればユーリカ辺りは許してくれそうだが、目の前の魔王は真に魔王らしく、非情の塊にしか見えなかった。
助けて。
「ごめんなさい」
「謝るだけなら子供でもできる。埋め合わせはキッチリしてもらうからな。搾り尽くされないようにしっかり貯めておけ」
「はい、わかりました」
「よし。じゃあ、出かけるぞ。こんな都を落とすのに悠長にやっている暇はない。さっさと終わらせて、私とシムナの貞操を奪って眷属にしろ。拒否権はないからな?」
邪悪な笑みの舌なめずりを見せられ、これからどうなってしまうのか恐怖ですくむ。
レスティの背後に控える巫女達に視線を送り、助けを求めてもそっぽを向かれるだけだった。さっきまであんなに愛と欲を交わし合い、全員互いの頂きの成果を下の口から垂れ流しているというのに見捨てるなんて酷過ぎる。
悲しみを頬に幾筋も伝わせる。
そんな私を、レスティは乱暴に掴んで脇に抱えた。まだ何も着ていないのに、事後の後始末も何もせず、窓から跳び出して都の中央に飛翔する。
何をする気なのか、何となく予想がついた。
「レスティ、恐怖政治は長続きしないんだよ?」
「私はきっかけを作るだけだ。この都に喰い捨てられた命が、正当な権利をもって報復する。大惨事になるだろうが、主が救うから大事になり過ぎはしない」
「詭弁だな」
「そうか? 地に染み死に消え燻る無念。散り散り集いて散り散り喰らえ。産、産、産、産、産、産――――」
地中に潜む死者の残留思念が、詠唱に応えて地上に産まれる。
人間をすっぽり覆えるくらいの大きさの、真っ黒で丸い闇の塊。
レスティが使うのだから死霊魔術なのだろう。行き交う人を見つけるとゆっくり近づいて音もなく取り込み、吐き出したと思ったらミイラのように干からびていた。
そんなのが、都の至る所に数え切れないほど出現している。
吸熱をしているらしく、熱感知で場所の把握は簡単に出来る。しかし、いくら何でも数が多すぎて、被害の拡大が止まらない。
真下を見ると、幼いラミアの姉妹が襲われていた。
見ていられず、全身を不定形に変えてレスティの手から離れ、二人の前に降り立つ。向けられる警戒と怯えを無視して、人型を取り直して闇に触手を撃ち込んだ。
対不死の血で穿たれ、甲高い絶叫と共に闇が霧散する。
アンデッドとしては低ランクらしく、大した抵抗も反動もない。
「二つ壁の白石屋敷に避難しろ! 私の巫女達が保護してくれる! 道中、生き残っている者達に会ったら同じように伝えるんだ!」
「あ……え…………?」
「急げっ!」
曲がり角から出て来た追加にも触手を突き入れ、姉妹の退路を確保する。
躊躇する姉妹の背中を押し、一跳びで近くの家の屋根に上がって周囲を探った。
区画内のアンデッドはおよそ三百程度。五十人分の熱が今取り込まれ、百三十人分が既に吐き出されている。動きが鈍いからと迎撃したは良いが、攻撃した所で包まれ、返り討ちにでもあったのだろう。
無謀にも程がある。
「主、手伝おうか?」
「不要だ。全滅させるだけなら容易い。後の事を考えて、効率良く、印象深くしないといけないんだよ」
生存者がいる通りを見つけ、レスティを置いて最短距離を跳躍し、急行する。
空中で出来るだけ派手に、三十本の触手を伸ばし貫いて半数を処理する。生存者達の視線を引いて着地を果たし、更に三十を生やして残りを排除し知らしめた。
初撃で全て倒した場合、その瞬間を見逃してしまう者が多く出てくる。
二撃に分ける事で露出の時間を増やし、命の恩人が誰かをわかりやすくするという寸法だ。正義の味方みたいで凄く嫌だが、今回ばかりはそんな事を言っていられない。
絶体絶命のピンチに駆けつけるご都合主義展開は、大体はこうやって作られた演出だ。
だが、それを知らない者達を味方につけるには最適な演目と言える。見事演じ切って、後の好意に繋げて見せよう。
「残りは三十区画と住宅密集地が七箇所。一か所十五秒として、四百五十秒足す百五秒、合わせて五百五十五秒、おおよそ十分っ」
救い切るまでの間に失われる命の冥福を祈り、私は次の場所に駆けた。
勝手な都合で勝手に殺し、勝手に救って勝手に恩を売る。
罪悪感がないではないが、もうそうなってしまったので仕方がない。
出来るだけ多くを救えるように努めよう。
そして、奪う前よりずっと豊かに。
「償える方法は、それくらいしかないからな……」
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