しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第91話 時忘れの牢獄(下)

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「何がどうなって……?」


 私から何かを吸っていた彼女は、少女から女の身体に成長していた。

 小さくも雌を主張する緩やかな起伏が、私好みの大きな魅惑と豊かな凹凸に変じている。幼さしかなかった可愛らしい顔は男を惑わす傾国の色香と儚さを纏い、垂れる目尻と口端は涙と唾液より白濁を垂らすに相応しい。

 長く長くかかる黒髪も、食べ応えのある白肌と大き目の乳輪乳首を隠し切れていない。

 横からくる無言の制止が無ければ、私の理性は弾け飛んでいた。むしろ、今すぐにでも爆発しかねず、私は血の羽衣を作って彼女に羽織らせる。しかし、完全に隠しては折角の淫靡が台無しで、わざと前を開いて谷間と下乳下の奥行きに手を伸ばす。

 柔らかなお腹を撫で回し、下へ下へ下していく。

 途中で余計な触手に遮られ、あまりの無粋さに私は強めの睨みをくれた。ぱっつんぱっつんに張った爆乳の下にある、茂み濃い柔らかと柔らかの谷底。手を突っ込めばぐちゅぐちゅチュグチュグいやらしく鳴って、無意識だろうと雄の味をぶち込まれて咥え込む。

 ――――ダメだ。我慢したくない。

 大事に大事に監禁されて育てられ、初めて客を取らされる処女の娼婦が彼女の形容。『乱暴にしてください。無理矢理が良いです。泣きも叫びもしませんから使って使って無責任にナカに出して』と言いたいから、この無気力な瞳はハイライトを消して誘っているんだ。

 こんなの、絶対美味しいに決まっている。

 シムカの最初もそうだった。

 程良い農作業の毎日から生まれた締まった肉の芯に、たっぷり盛られた新鮮な果実。指を入れれば瑞々しく、優しく嬲れば性の本能が強く香った。痛みが無いようトロトロになるまで舐めて撫ぜて抓って捏ねて、ドロドロのぐちゃぐちゃでベッドに果てた顔が丁度こんな瞳をしていた。

 まだ初心だったあの頃が懐かしい。

 思い出したら、本当に本当にきつくなってきた。内側から張り裂けそうな衝動に胸が痛み、血潮が猛って猛って猛って猛る。

 『ヤらせてよ』とソウに目を向けると、『こいつどうしようもねぇな』と怠そうな瞳で返された。

 否定する必要はないので、私は触手で彼女を巻いて抱き寄せる。前世で子猫を拾って親に見せた時のように、愛しさと愛しさと愛しさを重ねて言霊に乗せた。


「食べちゃダメ?」

『駄目』

「私は何かを彼女に食べられたのだから、私も彼女を食べないと釣り合わない。妖怪相手に奪ったら、覚悟は無くても奪われるのが自然の摂理だ」

『等価交換を主張するなら後にしろ。君がマタタキに喰われた時素はざっと百万年分だ。やるなら百万年やらないと等価にならないぞ?』

「え?」


 ソウの言葉に、触手の中でもぞもぞ動くマタタキの顔を覗く。

 口に近い辺りに舌を伸ばし、しゃぶりつくように吸い付いていた。嚥下の音がする度にまた私の何かが吸われて呑まれ、落ち行く感覚が大波のように押し寄せる。しかし、体調自体は大して変わらず、捕食されている不安は少しも無い。

 そもそも、時素って?

 何それ?


『時学を知らないか…………時素は時の源だ。生物、非生物、概念、神、世界、ありとあらゆる物が持ち、緩やかに消費していく。その消費を『時間が進む』と言い、時素が少なくなると老いが来て、やがて果てる。君は今、現在進行形で時素を喰われ、転生後一歳六か月に百万歳が追加された』

「そ、それって、どうなの……?」

『安心して良い。不死はガン細胞のように時素を無限に生み出す。君は中でも上等な部類だから、数百兆年くらいは問題ないだろう。――――実の所、本当に助かった。彼女の食事事情の改善は死活問題だったんだ。あと百年もしたら封印の時素を食い尽くして、私の言う事も聞かずにディプカントそのものを喰らい尽していた筈だからな』

「………………」


 とんでもないレベルの爆弾発言を聞かされ、私はマタタキの顔を掴んで触手から離した。

 まだ食べ足りないのか、彼女は腕を回して無理矢理引き寄せようとする。仕方なく胸の下を巻くように高さをずらし、しかし、何とか口に運ぼうと力ずくで引っ張られる。喰った分大きくなったIカップが間に在るのに、最短距離の上へ上へと持ち上げ引き擦る。

 本当に、三大欲求以外の要素がないのか。

 これが子供なら、思い通りにいかない事に腹を立てて癇癪を起こす。昂った感情で行為へのストップ信号が送られ、憤るか諦めるかを選択する。

 対して、彼女はずっと食べようと続けていた。

 間に何があろうと関係ない。呻き声を上げながら本能だけで動いて動き、結果だけを追い求める。そこに知性は感じられず、知的生命としての要素は欠片も無い。

 純真無垢?

 違う。これは欠落だ。

 染まる染まらない以前に土台となるキャンパスがない。これでは感染しない即死ゾンビと変わらず、ここから出しても食欲に任せて貪るだけ。

 基点を与えないとならない。


「言う事を聞かせるのに使ったのは寄生?」

『正解。私の血肉で作った外部脳を身体に繋げて、本体を寝かせて乗っ取っていた。空腹になると本体が覚醒して封印の時素を喰らって、寝て乗っ取っての繰り返し』

「本当に荒療治になりそう。――――おいで、シハイノツルギ。お前の力が必要だ」


 掌から刀身だけ生やして、私は自分からマタタキの唇を奪った。

 シハイノツルギも不死に属するものの、材料に使った血液量から考えると喰い尽くされかねない。私を喰わせている間に胸に突き刺し、支配の力の結晶を体内に生成する。

 支配は『志は意』。

 身に宿せば副次効果として意志が生まれる。借り物であっても長期間持てば彼女自身の意志も生まれ、理性ある行動をとれるようになる。


「ん……ちゅるっ」

「むぅ~……んむぅ~……」


 絡み合う舌が熱情を帯び、吸われる感覚が急激に減った。

 食から性に欲が移り、ただ吸い付くだけだった口内の動きが性感を貪る蠢きに変化している。

 明らかに知性が感じられる仕草に、もう大丈夫と唇を離す。マタタキは名残惜しそうに潤んだ瞳を上向かせ、内股をもじもじと擦り合わせて水音をクチュクチュ鳴らしていた。

 そこに、本能に任せたがっつきは見られない。

 あるのはどうすればいいのかわからず、迷い惑う心の揺らぎ。ここを始点にして心を育てれば、彼女はもう世界の脅威になりはしない。

 ひとまず、成功だ。


『お見事』

「このくらい、貴方にも出来たのでは? 見た所、私に似た種族のようだし」

『私はぬっぺらほふと吸血鬼の混血なだけで、長命ではあるが不死ではない。五千万年も喰われればさすがに果てるから君に任せたんだ』

「そっか。じゃあ、報酬の話だけど――――?」
 

 天の川から一際輝く光球が逸れ出て、私達の間にピタリと留まる。

 ソウが手を差し伸べている所を見ると、どうやらこれが報酬のようだ。だが、過去を見せて対価が釣り合うとはとても思えず、追加で何を要求するか考えながら青白い光を覗きこむ。


「…………なん、で……?」


 思いがけない過去の記録に、『俺』は膝と腰を抜かして崩れ落ちた。
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