しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第108話 ルールは簡単。ゴールは明確。後は覚悟を決めるだけ。

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「皆さんにしてもらうのは、ルールの定まった戦争です」


 ルエルの手の動きに合わせ、幾つもの大きな光の板がそこかしこに生み出される。

 数にしておおよそ千と数百。四から五柱に一枚が割り当てられ、私達の分はテラスの手すりに立てかけられた。まるで家族団欒でテレビを見ているような感覚に、心に愛の飢えを感じて両隣の二柱を抱き寄せる。

 肌を伝わる熱が、私の渇きを癒して潤す。

 彼女達も同じようで――――いや。もっと感じようと私の身体に手をかけた。

 ヴィラは頭を抱いて胸に押し付け、キサンディアは横になって膝に頭を乗せてくる。鼓動と吐息はやや興奮気味にあり、周囲の目が無ければと残念で残念で残念にならない。

 仕方ない。真面目に説明を聞いて気を紛らわせよう。


「ご存知の通り、神は尖兵と命運を共にします。片方が滅されればもう片方も滅される。基本にして私達の全てです。これを利用して適度に間引き、優秀な神々で世界を運営するというのが目的となります」

「説明が迂遠に過ぎるわ。要は、神自身は直接手を出さず、尖兵と信仰者同士でやり合わせて勝ち残れという事。それ以外の細かいルールは一切無し。何をしても良いし、誰を相手にしても良い。ただし、無期限にやると原初世界ノクフィルナのように更地になるから、開戦から三年で強制的に終戦を迎える」

「因みに、ルエル神国とアイシュラ魔王国がグランフォート皇国を挟んで在るのは、前回の戦争の名残だったりします。互いの本陣と戦場の関係だったんですよ、アレ。もう二万年くらい前の事ですけれど」


 何とも不穏過ぎる内容に、私は逆に気が気でなくなった。

 私の神としての管轄域は第四軍の支配域に加え、属神であるキサンディアの支配域も加わる。端から端までは普通の人間の足で四ヶ月という広さになり、川や山地、樹海、火山、湿原に平原に荒野にと、海以外の地形は何でもある。

 侵攻を受けるルートや要衝は限られるものの、戦力の振り分けと配置は一苦労どころでは済まされない。

 巫女と眷属全員を尖兵に召し上げるとして、兵站、募兵、給金、侵攻、防衛、内政に外交等々、やるべき事と任せるべき相手の選定と委任にどれほどの時間がかかる?

 規模が大きすぎて逆に不利だ。派手にヘイトを稼いでしまっているし、幾つもの勢力が大挙として押し寄せる可能性もある。とても私一人では――――イタタタタッ!


「キ、キサンディア? 太腿を抓られると痛いんだけど……」

「パニックに陥ると思案に没するのは貴方の悪い癖ですよ? 近隣勢力と自陣営の規模は常に把握していますから安心してください。それと、防衛だけなら巫女達は不要です」

「繁栄の私と知のキサンディアが揃えば、兵站と防衛と内政で叶う勢力などいない。武力を担当していたアーウェルはいないが、そこはお前と眷属と巫女達を頼りにしているぞ?」

「ぁぁ~…………うん。わかった。ヴィラ、キサンディア、内向きの事はお願い。外向きは任せて」

「任せてください」

「任された」


 主に上半身で纏わりつく二柱に、言われるがまま、自陣の運営を委任する。

 長年地球で女神をやってきた彼女達だからこそ、その言葉には説得力があった。『任せても問題がない』ではなく、『安心して任せられる』と評せる程に。

 ならば、私は私がすべき事を全力で尽くそう。

 議場の上に浮かぶ地図を見上げ、現在の管轄地の境界線をスゥッと眺め見る。北は侵攻中の敵国が二つ、中立三つ。東は陥落寸前が一つと友好国が二つ。西は――――たった今、交戦のマークが三つ同時に現れる。

 ピエロが描かれた舌、カビに覆われた塔、折れた剣を煮込む鍋。どれも邪教系の神の管轄地に隣接していて、僻地という事もあって先手を取りに来たようだ。


「詐欺神と腐敗神と反逆神だね。君の上位神就任をルエルに抗議してたから、早速追い落としに来たみたい。いやぁ、人気者は大変だねぇ?」

「殴って良いか、琥人?」

「おぉ、怖い怖いっ。ま、あの分なら三陣営とも炎帝火山を通るから――――アレ?」

「ん?」


 唐突な琥人の間抜け面に、原因と思われる視線の先を私も見る。

 目と顔の角度からして、先程の侵略を受けている箇所のようだ。ただ、ほんの少し目を離した隙に何かが変わっていて、それが何なのかがわかっているのだが、今一自身が無くて目を擦って何度も見直す。

 …………交戦マーク、減ってない?


『ギィャアアアアアアアアアアッ!』


 議場の入り口辺りで叫び声が上がった。

 紛う事なき断末魔に、何が起こったのかと皆の目が向く。下位神の一柱が苦しそうに胸と首を掻いてもがき、目から光を発して煙のように散り消えた。

 まさか滅神?

 そんな馬鹿な。あの辺りは活火山だから町なんてない。朱巫女の巡回ルートからも外れていて、侵入とほぼ同時に一陣営を滅ぼせる戦力なんて配置していない。

 出来る可能性があるとすると、火口に住む精霊王『炎帝』くらいだ。

 でも、彼は火山周辺の地脈制御で手が離せない。物理的に対応は不可能で、しかし、他に考えられるとすると一体何がある?

 困惑に疑問を積み重ね、目を凝らして地図上の判断材料を探して探す。

 あ、また一つ、いや、二つとも消えた。


『グギャァアアアアアアアアアアアアアッ!』

『ギィイイイイイイイイイイイイイイイッ!』

「ん? あぁ、カーマか? 何? ドルトマと里帰りしていたら戦争ふっかけられてムカついて消し飛ばした? そうかそうか、良い子だ。ドルトマもよくや――――天然温泉でやってるのを見られた? そいつらを弾けば見られた事にはならないだろう? もうやったみたいだが」


 満面の笑みを浮かべるヴィラは、私の顎を上機嫌に擦った。

 ドルトマとカーマから連絡が来たようだ。神への直接通話は尖兵にしか出来ないから、いつのタイミングかで二人を召し上げていたのだろう。

 私が神になれば、ヴィラは尖兵がいなくなるからな。

 それにしても、北の最強勇者夫婦が後釜とは、何とも贅沢な話だ。

 親友として、義父として、安心して信頼できる。


「しなずち。西はカーマ達が抑えてくれる事になった。最寄りの村や町を幾つか奪って、ドルトマのアマゾネスハーレムと一緒に駐留するらしい」

「私も尖兵達から連絡が来ました。同盟国の国境にドラゴニックゴーレムの守備隊を配置し、一週間以内に防衛線を構築するとの事です。カルアンド帝国から魔導鎧の技術提供も受けているので、一ヶ月もあれば、周辺国全部が敵に回っても押し返せるようになるでしょう」

「北はラスタビア勇国のミサとミカを尖兵にして指揮を取らせよう。十二尾白狐が二人もいれば、そうやすやすと攻め入られはしまい」

「どう考えても過剰戦力です。私だって相手にしたくないよ、そんなの」


 東西と北の防衛戦力の説明を受け、私は意識を攻めの方に傾けた。

 ひとまずの目標をどこにするのか。北は女戦王国と蛮国があり、東はたった今できた空白地を挟んで未開拓地と下位神の管轄地が一つだけ。西は下位神五柱と中位神三柱が入り乱れ、警戒しているのか交戦のマークは上がっていない。

 三年の期間で、どこまでやる?


「いっそ、三方に同時侵攻でもしようか……?」

「なら、マヌエル山脈から北の陸地は全部頂きましょう。東のジャヌテュール王国は必ずお願いします。元デザイナーの転生者が立ち上げたユエンテ工房の最新モデルは一見の価値がありますから」

「エルッスエル海国の大怪魚のから揚げも良さそうだ。女戦王国のハチミツ酒とブラッディベアの串焼き、ヅメルク国のツタ触手の天ぷら、ジャイアントドードーの腿照り焼き…………しなずちはどれが気になる?」

「女戦王国かな。アマゾネスが食べたい。じゃあ、最初は北進して海まで行こ――――」



『――――し、しなずち様! わわわ私をぞ、属神にし、しいししてください!』



 いきなり頭の中に流れた言葉に、私達は揃ってテラスの向こうを覗き見た。
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