しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第112話 死と安息の神アンダル(上)

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 ユーリカの悪態に思考を巡らせ、ドガとアンダルのどちらに向けてか推測する。

 野郎、という言葉は主に男性に向けての物。ドガは名前のイメージに反して女神だから、おそらくアンダルが矛先だろう。

 理由は何だ?

 死と安息の神。相応に多方面から恨みを買っていておかしくない。故郷の里にいた頃か、ギュンドラの裏部隊にいた頃か、尖兵とやり合って仲間を失いでもしたのだろうか?

 ――――ん? ギュンドラ?


「あ、そうか」


 本殿の階段を上る途中で立ち止まり、後ろにつくユーリカの顔を見る。

 唐突に振り返った私に戸惑いつつも、優し気な笑顔で迎えてくれた。だが、僅かに引き攣る頬の肉は盛大な無理を隠せておらず、彼女の愛の深さと強さを改めて認識させられる。

 大鎌の勇者、アンダル。

 ギュンドラ王国建国の英雄で、ユーリカの里の長だった黒百合のミュウの片想いの相手。思い切り汚く言えば、彼女の大切な家族を振り捨てた甲斐性無しのクズ男だ。

 どういう経緯で神に成り上がったかはわからない。しかし、家族愛に満ち満ちた黒巫女衆にとっては、邪神であり悪神であり神敵と言っても過言ではない。

 でも、それを前面に出されると纏まる話も纏まらない、か。


「ユーリカ。黒巫女衆総出で、農園から食材をたくさん収穫してきて。水も出来るだけたくさん汲んで、肉とかもあると凄く良い」

「……お気遣い感謝致します。ですが、私は大丈夫です。お邪魔にならないよう、自らを律して見せます」

「出発前に、時忘れの牢獄で一ヶ月分くらいって思ってたんだけど…………いらない?」

「いりますっ! アンジェラ様、しなずち様の護衛をお願い致します!」

「あいよ、任された」


 いつかの如く、ユーリカは階段の壁を三角跳びで一気に跳び下り、見事に着地して風より速く駆け去った。

 最初に出会った頃は階段を踏み外して転げていたのに、成長してくれていて嬉しい限り。床の技術の向上も目覚ましく、黒巫女衆だけで何回くらい絞られるだろう?

 楽しみであり、怖くもあり、素直に言えば待ち遠しい。

 白とピンクと褐色のグラデーションは、一月と言わず何年だって飽きはしない。

 最初は全員で一度にしよう。


「浸ってるとこ悪いけど、客が待ってるんじゃないかい?」

「そうだそうだ。ありがと、アンジェラ」

「構わないけど、アンダル神はともかくドガ神には気を付けな。暴神と言われるだけあって、かなり滅茶苦茶な御方だよ」

「ヴァテアとどっちがマシ?」

「どっちもダメだねぇ…………」


 比べるまでもないと、首を振ってアンジェラは先を行った。

 『問題児と問題児を比べても問題しかないよ』と、世界的な問題児と神界の問題児が同列に並べられる。言葉に含まれた諦観から大体の程度が察せられ、仲良くできるんじゃないかと勝手に思う。

 だって、ねぇ?

 私も似たようなものだから。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「男と女が気持ち良くって女と女が気持ち良いなら、男と男だって気持ち良いよなぁ? なぁ? なぁ? なぁ? なぁ?」

「ヤダこの娘、何言ってるの……?」


 目をキラキラ輝かせ、タンクトップに短パンという出で立ちの絶壁女神が好奇の狂気を私に向ける。

 私の食指が全く動かない、金髪ショートの真っ平ら。神という不老の存在でなければ将来が見込めただろう幼い身体は、私の腕に絡みついて全く離そうとしなかった。

 触れ合う褐色の肌が、どこまでも勿体なく勿体ない。

 ツインテで爆乳で眼鏡をしていれば最高の至高という逸材を前に、沸き上がるのは嫌悪の極み。愛や嗜好を否定はしないが、男と男というカップリングは繁栄の糧にも礎にもならず、ただただ燃え続ける命の灯でしかない。

 理解は出来ても、認めることは出来ない。


「お前、性の神だろ? 良いから教えろよ、なぁ? 俺がここまで言ってんだから教えてくれたって良いじゃんかぁ?」

「その辺にしておけ、というかしろ、この愚神。貴様の無遠慮な態度が我らの立場を悪くすると何度言ったらわかるのだっ」

「えぇ~? トルミアだって気になるだろ? 昨日だって、少年性奴同士を絡ませた春画で三発決めて――――」

「いい加減黙れ、馬鹿駄女神っ!」


 魅力的な褐色の美貌が、乏しい幼体を私から引っぺがして床に叩きつける。

 プロレスに在りそうな、身体を上下逆さまにして頭から落とすアレ。かなりの威力があるのか、引っかかる凹凸もない身体は木製の床をぶち抜き、下の階へと消えていった。

 一秒か二秒して、本殿全体を震わせる程の振動が轟音と共に響いて響く。

 他人の家で何をやっているのかと言いたかったが、先にアンジェラとシムナが元凶の頭を掴んでいた。二人で左右から絶妙な強力で挟み込み、骨の軋む音がここまで聞こえてくる。

 ガルマスアルマを除く最高筋力の合わせ技は、中々の見ごたえだ。


「痛い痛い痛い痛い痛い潰れるって痛いっ! アンジェラ、ソフィア、加減するか離せ!」

「トルミア? ドガ様の尖兵になって少しは丸くなったかと思ったら、全然変わって無いようだねぇ? 叔母様の代わりに躾けてやろうか?」

「従姉妹として恥ずかしい限りだな。そんなだからドルトマに見向きもされないんだ。しかもどうせまだ処女だろう? いっそしなずち様にもらってもらえ。マグロな性奴共よりずっと良くしてくれるぞ?」

「断固断る! 我の雄はドルトマ以外にありえん! 四肢を侍女達に押さえさせて上から下まで舐め回して、泣いて懇願した所を無慈悲に奪う! 私が終わったら一人ずつ跨って搾り取って、溢れた分をあの可愛らしい顔に塗りたくってやるのだ!」

「残念だけど、もうやられてるよ、ソレ。シムナ、アンジェラ。彼女達を宜しく。彼と先に話してるから、終わるまで相手をしておいて」

「「了解」」


 悲痛の叫びを捨て置き、私はピリピリした感覚を正面に見据えた。

 近くにいるだけで感じる終焉の気配。

 私と真逆の性質を持つ物静かな青年は、生あるものを呑み込むるつぼを思わせる。草を編んで作った座布団に正座しているだけなのに、不死なる生を否定して輪廻の渦へと誘おうとして来る。

 存在自体が対不死。

 厄介この上ない。


「お待たせしました、アンダル殿」


 裏が感じられない柔らかい笑顔を前に、警戒は解かずに私は座った。
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