しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第116話 お義父さん、娘さんは頂きました。絶対に返しません。

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「こんのクソ親父っ! さっさと帰れ!」


 水脈から水中に出、おおよそ一キロの水深から水面に出ると酷く騒がしかった。

 三百六十度を見回して、近い陸地はかなり遠い。十キロ先か二十キロ先か、巨大なはずの樹海の樹々はまぁまぁ大きい程度にしか見えず、この水溜りの大きさを間接的に表して見せる。

 これ、池じゃない。

 湖というか、巨大湖の域だ。


「目を覚ませ、アシィナ! アンクリストやレッディン達もお前の事を待っているんだぞ!?」

「私はもう第二闇団副団長のアシィナ・リサイアじゃなくて、しなずち様の巫女で眷属で嫁でもうすぐママなの! あとちょっとでしなずち様の精を飼い慣らして私の卵子と合わせられたのに、何てタイミングで来るのよ、ふざけんなっ!」

「いや、上位神の子を身篭るのは世界の方が認めてくれないぞ?」

「世界が相手でも私は欲しいの!」


 頭上で弾ける衝撃波の嵐の中、龍眼の白巫女が黒刃を腕から生やした男神と大声で言い合いやり合っている。

 飛行魔術を行使しながら攻撃魔術の撃ち合いなんて、技術的に相当難しいのによくやるものだ。そうでもしないと威力的に周囲への余波が酷いのだろうが、やってることはただの親子喧嘩なのでただただ迷惑でしかない。

 …………岸で偵察している、何名かの熱も見える。

 さっさと介入して終わらせるとしよう。罷り間違えばアシィナを連れていかれるかもしれない。そんなことになったら、何を置いてでもケイズの管轄地をぼろくそのメッタメタに叩かずにはいられない。

 私は身体から千近い触手を上に撃ち出し、九割をケイズへの攻め、一割をアシィナの防御に差し向けた。


「っ!?」

「え!? これって――――」

「ケイズ神。神自身の直接的な介入はルール違反でしょう? 私の尖兵に手を出すなら、そちらも尖兵にやらせてください」

「これは親子の問題だ! 再編戦争のルールとは関係ない!」

「ふざけんな、親馬鹿」


 極めて苦しい言い訳に、私はケイズに向ける触手を更に増やす。

 空中は地上と違い、横三百六十度に加えて縦三百六十度の感覚が必要になる。具体的には上と下に出来る視覚外の領域で、後方の死角と合わさって奇襲のリスクが非常に高い。

 前後左右上下、斜め方向も加えて二千五百を時差で一気に攻める。


「その程度はソウで経験済みだ!」


 腕の黒刃が三十に分かれ、ケイズを球形に包んで高速で回転し始めた。

 迫る触手を全て刻んで防御する――――のかと思ったら、そのままアシィナに突っ込んで行った。刻まれて内側に入った分で拘束しようと考えていたのに、当てが外れてちょっと面白くない。

 アシィナに巻く触手に自分を移し、特大の拳を生成して思いっきり叩きつける。

 手数対手数の状態から威力対手数に切り替えられ、ケイズは防御がままならず殴り飛ばされた。かなりの勢いで宙を行き、水面に接触してバウンドする事七回。それでも勢いは止まらず、対岸の樹海に土煙を上げながら派手に突っ込む。

 擦過傷が酷そうだ。後で治療しておこう。


「しなずち様っ!」

「久しぶり、アシィナ。早速だけど、助けて」

「色々と台無しだからやりなおしっ! 『頑張ったご褒美に今すぐ孕ませるよ』くらいの事は言ってっ!」


 アシィナは不満気に私の腕に抱かれ、胸に顔を埋めて息を大きく吸って吐いてを繰り返した。

 鼻から入れて肺に通し、喉から口に送って舌で味わってから吐き出しまた吸う。私の服に徐々に徐々に濃縮していき、良い頃合いといった所で口を当てて痛いくらいに吸い付いてくる。

 しばらく会わない内に変態度が増している。

 依存と独占欲も多分凄い。胸に当てられていた手はもう後ろに回って私を抱きしめ、二度と逃がさないと言わんばかりにギュッと力が込められている。

 舐め回す舌遣いも表面だけでは飽き足らず、奥まで押し込んで貫こうと言わんばかりだ。

 …………彼女を頼る選択は拙かったか?

 まぁ、良いか。

 どうせ早いか遅いかだ。なるようになってしまえ。


「じゃあ、一緒にお義父さんに挨拶する?」

「孫が出来てからでいいんじゃない? そうすれば絶対に仲を裂けないし」

「その言い方だと裂く手段があるみたいで面白くないなぁ? 私の信条には反するけど、ケイズの目の前で真っ白に染めちゃおっかな?」

「あぁ~……流石に私でもそれはちょっと…………」


 仲睦まじさを知らしめる提案に、アシィナは苦い顔をして視線を逸らした。

 実の父親の目の前でアヘ顔を晒す程度、天下の往来であっても私に二本挿れてくる彼女からしたら、全然大したことないと思っていたのに……。

 僅かばかり残念に思い、また別の方法でも思案しようと気持ちを切り替える。

 数時間もしたらシムナとアンジェラが追ってくる。邪魔者にはさっさとお帰り願って、用意できるだけの戦力をかき集めないとならない。

 とはいえ、ここにいるのはアシィナを除くとリザとヒュレインしかいないけど……。


「――って、そうだっ! 勇国攻めでシムナを眷属にしたから、巫女同士の戦力バランスが崩れてるんだった! リザとヒュレインを眷属にしないと絶対負ける!」

「シムナを眷属って、何やってるのよ!? 戦闘技能だけなら巫女の頃から私より上だったのよ!? 勝ち目無いじゃない!」

「アシィナかヒュレインに私を着て貰えば何とか…………ならない?」

「シムナの強化の仕方による。何したの?」

「全体的に身体、感覚、回復能力の強化と羽衣の含有血液量三倍増し」

「むーりーっ」


 初っ端から負けを見越し、アシィナは腕を交差させて×字を作った。

 シムナは荒くれ巫女達を集めた朱巫女衆を、抜きんでた戦闘能力で抑え付けて纏めている。二番頭のヒュレインはさておき、三番頭以下の巫女達が総掛かりでかかっても、掠らせもせずに制圧していた。

 対して、アシィナは確かに強い方だが、そもそもが医療部門のトップだ。

 求められるのは戦闘技能ではなく、医療技術と知識の進歩蓄積。怪我をされると困るので戦場にはほとんど出さず、眷属の力は戦闘向きでない感覚鋭敏化と羽衣含有血液量十倍増しとなっている。

 人間と魔族という地力の違いはあれど、戦闘面ならどちらが強いかは明白だ。

 いっそ、戦闘にしない形に出来ないものか?


「良い手ない?」

「皆で一緒に考えて――――あっ」


 スッと一方を指差され、つられてそちらに顔を向ける。

 未だ土煙が晴れないランディングポイント。

 高さ数十メートルの大樹が三本倒れ、その先の四本目の幹に中位神の一柱がめり込んでいる。身動きも反撃もしてこないから気絶でもしているらしく、今の内に捕縛して送り返せば楽だろうか?


「どうかした?」

「しなずち様。父さんの神名、知ってる?」

「ん? 確か――――あっ」


 『賢神』か。
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