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第134話 不死と対不死
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ギュンドラを攻めていた頃なら捉え切れなかったろう速度で、不可視の大鎌が無数に煌めく。
いや、見えていないから『煌めく』はただの比喩表現に過ぎない。
秒間二十か三十か、手足胴体など様々な部位に幾筋もの斬痕が刻まれ続けている。少しでも再生を怠れば削り切られそうな勢いで、この速度と手数は脅威とみなして相違無い。
しかし、彼の本命は全くの無害だ。
「五千以上死を刻んだのに、何故まだ死なないっ!?」
『だから何度も説明している通り、不死と言っても色々あるから適合した対不死を当てないと効果がないんだって。その大鎌は蓄積している死を分け与えて死なせる能力を持ってる。でもそれだと、死を否定する私の言霊に弾かれるだけなんだよ』
「そんな馬鹿な話があるか! コイツとアンダルは私達と共に戦ってきた! コイツに殺せない不死など、在る筈がないっ!」
『それは死を操れるアンダルだから出来るんだってば…………』
無駄を続けるユーゴに、上から樹の腕を叩きつける。
衝撃で地面が揺れ、散った葉が霧と共に宙を舞う。葉は重力に引かれてゆったり落ち行き、霧から実体へと戻ったユーゴは頭の部分を三百回以上刻んで刻んだ。
でも無駄。
私の名に含まれる『しなず』は死の否定だ。
幾ら死を与えられても死ぬ事はなく、逆説的に生き続ける。相性的に最悪の組み合わせと言って良く、これにアンダル本人が持つ『死を操る』能力が加わっていなくて心の底からホッとした。
前世の私は、兄の死から不死を夢見、研究した事がある。
不死になるにあたり、不死とは如何なる存在か。古くはエジプトの死生観から新しい物はライトノベルまで、思いつく限りの調査と考察と思案を纏めた。果てに得た結論はたった一つで、その一つから派生する分類の多さに編纂を途中で投げ出したのだ。
不死とは基本的に、『生命』と『死』のバランスが『生命』に寄った存在の事。
他者の命を吸い取るヴァンパイアや悪魔の類は『生命過多』の不死。
スケルトンやデュラハンなどの悪霊は死を失った『死欠如』の不死。
転生・黄泉返りは自身の命をリサイクルする『生命還流』の不死。
過剰再生者や復元者などの死ぬ前に命が復元する『生命復元』の不死。
他にも『死忌避』、『死消費』、『死克服』、『生命固定』、『多重生命』、『生死変質』、『生死反転』などなどなど、ただの一言で表される理外の理想はただの一言では表し切れない。
そして、私は『死否定』の不死。
致死性の攻撃に含まれる死を片端から否定し、非致死性の攻撃にしてしまう。アンダルの大鎌が持つ『死付与』の対不死にとっては天敵と言え、逆に『しなず』の派生である『死無不』の『不死否定』に非常に弱い。
私を殺したければ、もっと適切な武器の選定をすべきだった。
『それと、神喰いの防御性能はあくまで神の力に対してだけだから、神が持ち上げただけの樹とか岩とかは普通に武器としてダメージを与えられる。試しに一発喰らってごらんよ。そうすれば、私の言う事が理解できると思うよ?』
「枝の一つ一つを削って杭に仕立てて、ヴァンパイア相手に『喰らって見ろ』だと!? 馬鹿も休み休み言えっ!」
『白木の杭は駄目? 流れる水の上は? 十字架は? ニンニクは大丈夫だよね? 銀製の武器は今度仕入れて試してみるとして――――あっ。太陽光が効かないのって、もしかして太陽神を喰らったから? 喰らった神によって得られる能力が変わるって、なかなか面白いシステムだよね、神喰い』
「無駄に喋るな、死んでろっ!」
『やーだよー』
胴体を軸に回転してダブルラリアットを繰り出し、半径七メートルの範囲を薙ぎ払う。
シムナの様にスピードがないから、全くと言って良い程当てられていない。もう少し工夫が必要かと触手で動きを封じようとするが、生やした端から斬り刻まれて土の肥やしになっていく。
肥えた土は私がまた取り込んで同化して、また繰り出してまた刻まれてまた肥えてまた取り込んで…………。
面倒だな。将棋の千日手染みて来た。
『お? 下半身がやっと辿り着いたみたい。少し待ってて。同化したら手数三倍にするから』
「ふざけるなっ! 大人しく滅びろっ!」
『運が悪かったと諦めなって。もしくは、ちょっと離れた所にいるお仲間に助けてもらう? 三人くらいが神喰いの気をちょくちょく当てに来てて、気が散ってしょうがないんだよね』
「っ! ジェン、二人を連れて空に逃げろっ!」
向こうに送っていた両手を地中から上に出し、数百の触手に変えて観察者達を襲わせる。
勘で移動と配置をしたのに、飛び上がった場所を見るとなかなか的確な位置だったらしい。
最初に伸びた一本が脚の先の先を掠めた。ユーゴの警告がもう少し遅れていれば、三人とも捕らわれて性と繁栄の虜になっていただろう。
惜しい。
でも、十分だ。
『捕えたよ』
「ちぃっ!」
土をぬかるませてユーゴの両足を地中に埋め込み、真下から大蛇を生やして丸ごと呑ませる。
霧になろうが何になろうがもう無駄だ。ぴったり閉じられた口からは何も出られず、神喰いの力で出ようにも蛇の体は筋肉の塊。締め付けられて指一本も動かせず、逃れる事は実質不可能。
さて。どうしようかな?
残念な事に、神喰いの抵抗力のせいで私が生成する薬は一切効かない。今までの敵達の様に快楽漬けにする事が出来ず、他の手で戦う気を削がないとならない。
何か、良い方法はないかな?
ないかなぁ?
あるよねぇ?
ねぇ?
『そこの貴方達。ちょっとオハナシしませんか?』
いや、見えていないから『煌めく』はただの比喩表現に過ぎない。
秒間二十か三十か、手足胴体など様々な部位に幾筋もの斬痕が刻まれ続けている。少しでも再生を怠れば削り切られそうな勢いで、この速度と手数は脅威とみなして相違無い。
しかし、彼の本命は全くの無害だ。
「五千以上死を刻んだのに、何故まだ死なないっ!?」
『だから何度も説明している通り、不死と言っても色々あるから適合した対不死を当てないと効果がないんだって。その大鎌は蓄積している死を分け与えて死なせる能力を持ってる。でもそれだと、死を否定する私の言霊に弾かれるだけなんだよ』
「そんな馬鹿な話があるか! コイツとアンダルは私達と共に戦ってきた! コイツに殺せない不死など、在る筈がないっ!」
『それは死を操れるアンダルだから出来るんだってば…………』
無駄を続けるユーゴに、上から樹の腕を叩きつける。
衝撃で地面が揺れ、散った葉が霧と共に宙を舞う。葉は重力に引かれてゆったり落ち行き、霧から実体へと戻ったユーゴは頭の部分を三百回以上刻んで刻んだ。
でも無駄。
私の名に含まれる『しなず』は死の否定だ。
幾ら死を与えられても死ぬ事はなく、逆説的に生き続ける。相性的に最悪の組み合わせと言って良く、これにアンダル本人が持つ『死を操る』能力が加わっていなくて心の底からホッとした。
前世の私は、兄の死から不死を夢見、研究した事がある。
不死になるにあたり、不死とは如何なる存在か。古くはエジプトの死生観から新しい物はライトノベルまで、思いつく限りの調査と考察と思案を纏めた。果てに得た結論はたった一つで、その一つから派生する分類の多さに編纂を途中で投げ出したのだ。
不死とは基本的に、『生命』と『死』のバランスが『生命』に寄った存在の事。
他者の命を吸い取るヴァンパイアや悪魔の類は『生命過多』の不死。
スケルトンやデュラハンなどの悪霊は死を失った『死欠如』の不死。
転生・黄泉返りは自身の命をリサイクルする『生命還流』の不死。
過剰再生者や復元者などの死ぬ前に命が復元する『生命復元』の不死。
他にも『死忌避』、『死消費』、『死克服』、『生命固定』、『多重生命』、『生死変質』、『生死反転』などなどなど、ただの一言で表される理外の理想はただの一言では表し切れない。
そして、私は『死否定』の不死。
致死性の攻撃に含まれる死を片端から否定し、非致死性の攻撃にしてしまう。アンダルの大鎌が持つ『死付与』の対不死にとっては天敵と言え、逆に『しなず』の派生である『死無不』の『不死否定』に非常に弱い。
私を殺したければ、もっと適切な武器の選定をすべきだった。
『それと、神喰いの防御性能はあくまで神の力に対してだけだから、神が持ち上げただけの樹とか岩とかは普通に武器としてダメージを与えられる。試しに一発喰らってごらんよ。そうすれば、私の言う事が理解できると思うよ?』
「枝の一つ一つを削って杭に仕立てて、ヴァンパイア相手に『喰らって見ろ』だと!? 馬鹿も休み休み言えっ!」
『白木の杭は駄目? 流れる水の上は? 十字架は? ニンニクは大丈夫だよね? 銀製の武器は今度仕入れて試してみるとして――――あっ。太陽光が効かないのって、もしかして太陽神を喰らったから? 喰らった神によって得られる能力が変わるって、なかなか面白いシステムだよね、神喰い』
「無駄に喋るな、死んでろっ!」
『やーだよー』
胴体を軸に回転してダブルラリアットを繰り出し、半径七メートルの範囲を薙ぎ払う。
シムナの様にスピードがないから、全くと言って良い程当てられていない。もう少し工夫が必要かと触手で動きを封じようとするが、生やした端から斬り刻まれて土の肥やしになっていく。
肥えた土は私がまた取り込んで同化して、また繰り出してまた刻まれてまた肥えてまた取り込んで…………。
面倒だな。将棋の千日手染みて来た。
『お? 下半身がやっと辿り着いたみたい。少し待ってて。同化したら手数三倍にするから』
「ふざけるなっ! 大人しく滅びろっ!」
『運が悪かったと諦めなって。もしくは、ちょっと離れた所にいるお仲間に助けてもらう? 三人くらいが神喰いの気をちょくちょく当てに来てて、気が散ってしょうがないんだよね』
「っ! ジェン、二人を連れて空に逃げろっ!」
向こうに送っていた両手を地中から上に出し、数百の触手に変えて観察者達を襲わせる。
勘で移動と配置をしたのに、飛び上がった場所を見るとなかなか的確な位置だったらしい。
最初に伸びた一本が脚の先の先を掠めた。ユーゴの警告がもう少し遅れていれば、三人とも捕らわれて性と繁栄の虜になっていただろう。
惜しい。
でも、十分だ。
『捕えたよ』
「ちぃっ!」
土をぬかるませてユーゴの両足を地中に埋め込み、真下から大蛇を生やして丸ごと呑ませる。
霧になろうが何になろうがもう無駄だ。ぴったり閉じられた口からは何も出られず、神喰いの力で出ようにも蛇の体は筋肉の塊。締め付けられて指一本も動かせず、逃れる事は実質不可能。
さて。どうしようかな?
残念な事に、神喰いの抵抗力のせいで私が生成する薬は一切効かない。今までの敵達の様に快楽漬けにする事が出来ず、他の手で戦う気を削がないとならない。
何か、良い方法はないかな?
ないかなぁ?
あるよねぇ?
ねぇ?
『そこの貴方達。ちょっとオハナシしませんか?』
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