黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第一章 迷子と子猫とアガサ村

薬師見習い

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「それでね、ラルって猫じゃなくて闇豹っていう魔獣なんだって!」
「あら、そうかい。通りで賢いと思ったよ」

 水銀堂でお昼をご馳走ちそうになった後、おばあちゃんに頼まれた塩と小麦粉と卵を買い、すぐに山の家に戻った。
 「もっとゆっくりして来ても良かったのに」とおばあちゃんは笑ったけど、なんだかみんなに観察されてるようで落ち着かないのでさっさと帰ってきたのだ。

「でもね、そのせいでラルをペットとして飼うことはできないんだって。それで私、冒険者の登録をすることになったの。ラルは畑や食料をかじるネズミを獲ってくれるでしょ? そういう仕事をさせるテイマーってのがあるんだって」
「テイマーは確かに魔獣を使役する職業だけど、ネズミ取りとは、ずいぶんとサービスしてくれたもんだねぇ。でも二人とももう少し大きくなって訓練を積めば、魔物とも立派に戦えるようになるかもしれないね。ミーナもダンジョンに行くのかい?」
「違うの。テイマーはラルを飼うのに必要な資格なんだって。私はおばあちゃんの薬作りを手伝いたいって言ったら、薬師見習いってのも入れてくれたよ。ほら」

 登録事項が記載された冒険者手帳をおばあちゃんに見せると、

「まあ……」

 と言ったきり黙り込んでしまった。

「それで……ちょっとお願いがあるの。冒険者の登録に必要なお金を貸してもらえませんか? 必ず働いて返しますから。どうしてもラルと一緒にいたいの」

 そう頼むと、ラルも私の隣に来てきちんとお座りし、おばあちゃんを見てニャアと鳴く。

「なんだね、二人とも他人行儀たにんぎょうぎに。薬師見習いということは私の弟子になるんだろ? 登録料くらい出してやるさね。その代わり、明日からもっと手伝ってもらうよ」
「うん!」
『ありがとう、ばあちゃん!』

 私とラルは大喜びで抱き付き、おばあちゃんは照れ臭そうに笑った。


 翌日から、薬師見習いとしての生活が始まった。
 作業場でおばあちゃんの薬作りを手伝う。
 まずはリストにある七種類の薬草を、それぞれ決まった量で取り分ける。
 乾燥した薬草のかけらが乗った小皿を10個づつ7種類、きれいに並べる。

「できたよ」
「おや早いね。あたしゃもう、細かい目盛りを見るのがつらくてね」

 薬草を量るのは液晶画面に数字が出るような電子天秤てんびんではない。
 手動の両皿天秤だ。小学校の実験室で見たことがある。

 左右に物を乗せるお皿があって、片方にピンセットで重りを乗せ、反対側には量る物を乗せる。
 それが釣り合えば重りと同じ重さってわけ。
 左右のバランスを見るための細い針が中央にあり、その動きを見る目盛りはとても細かい。ひと目盛り1mmもない。

「七種類を一皿ずつ鉢に入れて軽く混ぜたら、薬包紙で包んどくれ」
「これ、お薬なの? ゴツゴツして飲みにくそう」
「これは煮出してお茶にして飲む薬さ。ちょっと苦いけど、風邪の引き始めにはよく効くよ」
「もしかして葛根湯かっこんとう? 飲んだこと、あるかも」
「そうさ。よく知ってるね」
「えへへ」

 日本で飲んだのは顆粒かりゅう状の薬だったけど、抽出ちゅうしゅつしたエキスで作ったと書いてあった気がする。こんな感じの変なニオイがして苦かった。でも寒気と頭痛がすぐに治る。

「10個分を一度に混ぜてから分けちゃダメなの?」
「細かな粉薬ならいいけどね。これはかけらが大きいから、均等に混ざらないんだよ」
「ああ、そうか」

 薄くてハリのある薬包紙やくほうしで、教えてもらった通りに五角形に薬草を包む。

「ミーナ、今のをもう10個、作れそうかい?」
「同じでいいの? うん、できるよ?」
「水銀堂からは、もっと作って欲しいと言われてたんだが面倒でね。ミーナが余分に作ってくれるなら助かるよ。わずかだけど手間賃は出すよ。それにそのレシピはあげるから、大事におし」
「うわあ、ありがとう!」

 手間賃は葛根湯を1つ作って10リル。100リルで1シエルだから本当にわずかだ。
 でも100リルあれば安いおにぎりやパンが一個買える。
 量って混ぜて包むだけで一個10円もらえるバイトだと思えば悪くない。
 そもそも、簡単でも材料とその比率が分からなければ何も作れないから、レシピが一番の報酬かもしれない。

(ピロリーン! ミーナはカッコントウのレシピを手に入れた! ……な~んて。ふふ)

 心の中で勝手に効果音とメッセージをつける。
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