黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第二章 シヴァール国の黄金の実

早く言ってよ!

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 私とエレナはそのままギルドを出て水銀堂本店に向かった。
 ホーマーさんにおばあちゃんの容体を伝えるためと、エレナを紹介するためだ。
 一連の話を聞き終わったホーマーさんは、あきれた顔で問いかける。

「じゃあ婆さんはミーナちゃんに何も言ってなかったのかい?」

 とっくに「ミランダの娘」じゃないって知ってたんだって!

 おばあちゃんに頼まれて、養子縁組の委任状をギルドに届けたのもホーマーさんだった。
 アキツでは、いやこちらの世界では、ダンジョンを回って旅から旅への冒険者夫婦の子供が取り残されることはよくあるらしい。出生の届けをちゃんと出してなくて戸籍がない場合もあるという。どうやら私はそういう孤児だと思われたみたい。

「なあに、婆さんもしばらくして勘違いに気づいたのさ。君の父親は小さい頃に事故で亡くなったんだって? でも、ミランダと旦那さんは…」

「一緒に。魔洞窟ダンジョンの奥で。私はもう独り立ちして別のパーティに居たから最後は分からない」

 少し辛そうな目でエレナが言う。そうか。その違いで気がついたんだ。
 そんなら早く言ってよ!

「いつ本当のことを言うべきか、真剣に悩んだのに…」

「きっと婆さんもそうさ」

「もう心配ないね。ああ、でも……ああ言ったけど、アンタは出ていった方がいいかもしれない」

「え?」

「おい!?」

「あの借金さ。血縁者じゃないなら逃げた方がいい。50万シエルはさすがに多すぎる」

「エレナだって一緒じゃない? 聞かなかった事にして逃げれば……」

「おばあちゃんを置いて?」

「うっ……私だって、おばあちゃんを放っておけないよ」

 あのおじさんは、体調の悪いおばあちゃんにも酷いことを言いそうだ。
 いや、あの調子じゃもう言ってるんだろう。
 だからおばあちゃんは娘と親子の縁を切って「孫は死んだ」っておじさんに言ったのかも。巻き込まないために。

「あの借金ね、もしかしたら……あたしのせいかも知れない」

 エレナの目が泳ぐ。

「10年位前に、薬草を買ったって言ってたよね? 病気を治す薬を作るための。…あたし……10年前に難病にかかったんだ。ダンジョンから湧いて出たモンスターの攻撃を受けて…」

 ダンジョンの奥深くに居た強いモンスターの討伐に失敗して、外まで這い出て来たのだそうだ。
 そしてエレナが狙われた。たまたま洞窟ダンジョンの前に居たから。
 ちょうどその日は両親が冒険から帰って来る予定日で、エレナは二人を待ちながらダンジョンの近くで遊んでいたそうだ。

「疫病と呪いが混ざった最悪のヤツで、モンスターが倒されても治らなかった。何日も高熱が出て、身体中を切り刻まれるような痛みと激しい頭痛で、何度もいて、のたうち回って。麻酔も睡眠薬も効かないの。つらかった。あとは死を待つだけ、いっそ死んだ方がマシだって時、母さんがおばあちゃんに手紙を書いたら見たことも聞いたこともない薬が届いた」

 当時の事を思い出したのか、エレナが身震いする。
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