【完結】こんにちは、君のストーカーです

堀川ぼり

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大丈夫って君が言ってくれると安心する

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モテる人が彼氏だと悩みが尽きないとか直ぐに不安になるとか、そういう事を言ってる女の子を何人か見た事がある。
相手が凄くかっこいい有名人なら尚の事。私も正直、そういう悩みは尽きないだろうなと思っていた。
そんな心配が杞憂で終わったのは、紀広さんが疑う余地もないくらいに全身で好きだって伝えてくれるからだ。
悩みを持つ暇がないくらい紀広さんは頻繁に会いにきてくれるし、私が不安にならないように先回りして言葉を尽くしてくれる。撮影で京都に行くから三日程会えないけど連絡は毎日するからとか、今度キスシーンがある映画に出る事になったけど出来れば君には見て欲しくないとか。多分、私が不安になるような要素は事前に芽を摘むようにしてくれてるんだと思う。
だからこそ、こんな不安そうな顔で何を言い出すんだろうって、少しだけ驚いてしまった。

「普通にデートしたいとか、そういう事は思わない?」
「……へ?」

不意に言われた言葉に思わず間抜けな返事をしてしまう。
今更何を言っているんだろうって、そんな風に思ってしまった。二人で外に出掛ける事を避けた方がいいって事くらい、流石に私だって分かってるのに。

付き合い始めてからもうすぐ一ヶ月になるけど、二人で外に出掛けた事は今まで一度も無い。
大体『○時頃に行ってもいい?』って事前に連絡がきて、返事をしたら約束の時間に紀広さんが家を訪ねてくる。恐らく予定が空いてる日は殆ど私に会うのに使ってくれていて、会う頻度は平均すると週に三回くらい。同棲もしてない社会人カップルの会う頻度としては十分に多い方だろう。
一緒にご飯作ったり映画を見たりゲームをしたり、あとはまあキスしたり、とか。家の中で出来る事しかしてないけれど、退屈なんてする事なくかなり恋人らしく過ごせていると思う。

「今の感じでも凄く楽しいですよ、私」
「うん、楽しそうにしてくれてるのは分かってるんだけどね」

それでも、と続けながら、コツンと軽く額が合わさる。
もう大分慣れたけれど、相変わらず距離感が近いなぁ、この人。

「君が行きたいって言ってた店とか連れて行ってあげれてないなぁって思って」
「……私、何か言いましたっけ?」
「直接は言われてないけど、よくTwitterでこの店気になるとかリツイートしてるでしょ」
「は? えっ、ま、まだ見てたんですか?」
「鍵かけないし見せてくれてるのかと思ってた。こういう所行きたいっておねだりかなぁって」
「そんな嫌味ったらしい伝え方しませんよ!」
「うん、分かってるんだけどね……」

はぁぁと深く息を吐いて、正面から軽く抱き締められる。何を落ち込んでいるのか、首元にぐりぐりと顔を埋めてくる行動はまるで甘えられてるみたいだ。

「昨日、お友達と行ってたでしょ」
「……駄目、でした?」
「ううん、君が楽しんできてくれたなら何よりだよ。ただ、そういうのに俺は直ぐに付き合ってはあげられないから、君が他に一緒に行きたいって思う男とかそのうち出来たら嫌だなぁって思っただけ」

視線を合わせられると、下から顔を覗かれる形になるから自然と上目遣い。大好きな顔でそれをやられると破壊力が凄まじくて、心臓がぎゅううっと締まる。
基本的にいつも余裕があるのは紀広さんの方で、経験値の低い私は翻弄されるばっかり。それでも最近少しだけこういう顔を見せてくれる事が増えて、たまに物凄く可愛く見える事がある。
こんなに心臓潰されそうになってる時点で結局翻弄されてるのは私の方なのかもしれないけど、それはそれでいいや。私に出来る事があるならそれだけでも嬉しい。

「そんなの、本当にならないです。一緒に居たいって思う男の人、これから先ずっと紀広さんだけだと思いま、っん」

最後まで言い切る前に、嬉しそうに目を細めた紀広さんに唇を塞がれる。ちゅ、ちゅっと角度を変えながら何度か唇が触れ合うと、最後に下唇を軽く舐めて紀広さんが離れていった。

「えっ、と……」
「嬉しくて直ぐ触りたくなっちゃうな。本当可愛い……」
「あっ、ん……ふぁ、」

逃げられなくてもう一度唇が奪われると、今度はいつもの深い方。勝手に甘えてるみたいな声が出て、空気が酷く甘いものに変わっていく。

「ねえ、本当にこれからずっと俺だけが好き?」
「う、ん……」
「良かった、嬉しい。君に言ってもらえると安心する」

とろんと溶けた目が私を捉えて、動く。
再び息ごと食べられると段々酸素が回らなくなって、頭の中が痺れたみたいにぼうっとする。
好きな人に触れてもらうのってまるで麻薬みたいだなぁって、呑気な頭でそう思った。

言質取れて嬉しいな、なんて。
そんな台詞はきっと私の気のせいだ。


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