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第4章

歓喜・臨戦態勢

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ギルド公認の素材採取専門家による素材採取競争が開催される。
ベルカイム唯一のランクB素材採取専門家であるリンド・ワイムスと、頭角を現したランクF素材採取専門家であるタケル。

両名が己の意地とプライドをかけた熱きバトルを


「したくない…」

屋台村の一角にあるイートインスペースで、俺は机に突っ伏して大いに拗ねていた。
ギルド公認の素材採取競争だなんて、この俺がホイホイ了解すると思うか?エンジンかかったグリットにやめてよして言っても一切聞く耳を持ってくれず、話はウェイドに飛び火。そりゃ面白そうじゃねぇかと乗ってしまった熊さんが、ギルド公認としてしまったのだ。これに喜ぶギルド職員一同。久しぶりのお祭りだと万歳。

こうなってしまったら俺が頑なに拒んだところで批判を受けるのは俺。
素材採取競争ってそもそも何だよ。借り物競争みたいなものか?競って勝敗決めてどうすんのほんとに。

「今後も難癖をつけてくるであろうから、良い機会ではないか」

すっかり気に入ったじゃがバタ醤油を丼に山盛りよそったクレイが、完全に他人事として言ってくる。俺の面倒くさがりな性格を知っていてこれだからな。口元笑ってるじゃないか。くそ。

「お前が気に入らぬのでしたら、わたくしが少し殺しますよ?」
「少しがどのくらいなのか気になるが、そこまでのことじゃない」
「人の子はつまらぬことで諍いをするのですね」

そうですよね。
ほんと、つまらないことだよ。

ワイムスに素材採取家としての確固たるプライドがあったなら、こんなことにはならなかった。
他に活躍している人がいるな、ようしボクも負けずに頑張ろう、えいえいっ、ってなっていれば平和だったのに。
しかし残念ながらこの世界にそういう性格の人種は希少らしい。弱肉強食が当たり前の世の中に譲り合いなんてやっていられないのだろう。

冒険者の殆どが妙ちくりんなプライドに固執している。
俺の仕事は絶対だ。俺より活躍するやつが許せない。だったら邪魔をしてやろう、っていう。
冒険者といえばこういう連中が多い。人の邪魔をする前に自分の仕事をこなせと普通なら思うが、そういう感性が無い。それゆえ、ランクAからの冒険者が尊敬とされるのだ。彼らはギルドが公的に認めた人格者。相応の活躍と名声、支持がなければどれだけ腕に自信があろうともランクAにはなれない。

ランクA冒険者は貴族や王族とも面談を許される存在。ただのアホじゃ認められないのだ。

「勝負というが、どのように勝負をするのだ。お前なら大抵のものは手に入るであろう?」
「それなんだよなー…」

・・・ ・・・

勝負となった段階で、それじゃあお題はどうなるのかと。
俺はあくまでもランクF、相手はランクB。公平に採取が出来るお題でないとスタートラインが変わってしまう。ただでさえ相手はベテランの域に達しているんだ。ランクFの俺でも採取してもよいとされる素材でなくては不公平。
俺には優秀な先生方のご支援がありますから何でも来いなのだが。

「ランクBの月夜草でどうだ!」

ワイムスが声高々に提案したが、俺とグリットは顔を見合わせて苦笑い。

「それがいいなら、それでいいけど」
「タケルさんの採取した月夜草を貴方見たことありますか?彼の採取した月夜草の薬効成分が優れているおかげで、ベルカイム産の高位回復薬は最高品質に認定されたんですよ」

グリットの熱意ある説明を聞いたワイムスの顔が青くなった。

「そそ、それじゃあ、アレだ!ハンマーアリクイの糞!ランクCだぞ!」

俺もグリットも互いに目を閉じ、そしてため息。

「………ハンマーアリクイの糞を三日で十個採取したタケルさんにそれを言いますか」
「うんこ採取得意です」

流石に在庫は保管していないが、何かと注文が耐えないうんこ採取は得意になっていた。今では探査(サーチ)をしなくても在処がわかるくらいに。嬉しくない。

「それじゃあミスリル鉱石!」
「タケルさんはランクFですよ?」
「鉱石採取はランクDから」

探して来いと言われれば探すことは容易いが、そこはグリットが制止させた。あくまでもギルド公認とするならば、ランクと採取内容は守らなくてはならないと。

グリットは勝負などしなくても勝敗はわかっているのだろう。俺も負ける気はしない。だがわざわざこの場を設けたということは、ワイムスに現実を知って欲しい為だ。

グリットの優しさだとどうして気づかないかな。何でそんなに余裕がないんだ。

結局勝負のお題はギルドが考えることになり、俺とグリットとワイムスは解散した。


・・・ ・・・


お題が何であれ俺は負けない。プライドとかそういう問題じゃなくて、現実問題として、物理的に俺が有利だからだ。
異能(ギフト)として貰った探査能力は優秀すぎるほど優秀。例えるならば、今日からお前は勇者です、世界を恐怖に陥れようとしている悪魔の居場所を探しなさい、はいわかりました見つけたよ、って言えるくらいなのだ。なんだそれ、ってくらい凄いのだ。

諸々の恩恵で生活出来ているからこそ、必要最低限の仕事にしている。欲は絶対に出さない。出る杭は打たれるものだ。
頼られたら応えたいと思うし、喜ばせたいとも思う。広く浅くではなく、狭く深く。
それは気に食わないから止めろと言われても、はいそうですかとは聞けない。

「勝負をするのならば、俺は同行出来ぬのか?」
「ピュッ?!」
「そうなるのかな。ビーはどうなるかわからんが、きっと駄目って言われるかもしれない」
「ピュイ!ピュイイィ!!」
「仕方が無いだろ?相手だって単身で勝負に挑むんだから。こっちにはドラゴンが居るとなったら不公平だとかなんだとか噛み付いてくるに違いない」

ビーと出会う前までは単身で採取をしていたのだから、何とかなるだろう。
必死にすがりついてくるビーを宥め、意気揚々と豊かな胸を張るプニさんを見る。

「わたくしは必要ですよね?なんせわたくし、馬、ですから?」
「馬も駄目」
「ええっ」
「全部同じ条件下での勝負になると思う。もしも相手が馬車とか持っていたら話は別だが、たぶん徒歩じゃないかな」
「馬も連れずに何処へ行くと申すのですか?う、馬は必要でしょう?」

馬のこととなるとウマが変わるプニさんも置いておいて。というかプニさんを使ったら絶対に楽勝。なんせ神様だし。

俺は何処まで力を抑えればいいのだろうか。抑えたところで公平にすらならないかもしれないが、勝負は勝負だからなあ。
魔法全面禁止だったらどうしよう。そういうことはあえて聞かないほうがいい。

探査(サーチ)や調査(スキャン)をするなと言われたら流石に困るな…。採取したことのない未知なるものだったら、何処に行けばいいのかすらわからない。
お題が出たら図書館に走るか。

「ピュイィ…」
「古代竜(エンシェントドラゴン)の鱗を持って来いとか流石に言われないだろうよ。1日か2日でこなせるお題に決まっているって」
「ピュイ!ピューイ!ピュピュ、ピュイィ!」
「いや、お前の鱗はいらんから。話を聞きなさい」
「神獣のたてがみはどうでしょう」
「ないから」
「ドラゴニュートの抜け牙はどうだ」
「ないから」

大量のじゃがバタ醤油を消費しながら、チーム『蒼黒の団』はお題について考えた。
クレイもビーもプニさんも俺の異常な力のことは知っている。それに、俺のことを信じてくれている。
たとえ俺が勝負に負けてもこの関係が揺らぐことは無いだろう。面倒だから不戦敗で、って言い出したらクレイが怒るだろうからそれはナシにする。


そうして数日後、ギルドで大々的な発表が成された。



ぷっぷくぷーぷっぷっぷっぷっぷくぷー


ギルド職員スッスのラッパと共に開かれた、巨大な横断幕に書かれた巨大文字。

『 リンド・ワイムス 対 タケル 素材採取一本勝負 ギルド公認 』

その横断幕を高々と掲げるのは。

「おうタケル!俺が留守にしている間、おもしれぇこと考えやがって!!」

偉大なるギルドマスター別名暇ぶっこきおっさん。あなたどっかの街に出張中だと聞きましたが?
誰だこのおっさんにチクったヤツ。一番面倒で一番熱苦しいじゃないか。

「グリットさん?」
「私じゃありませんよ!私はただ、勝負の内容をウェイドに相談しただけで…」

視線をウェイドに移すと、ウェイドは悪びれも無くニカッと笑ってサムズアップ。こいつか。

依頼を受けたら即行で街を出るはずの冒険者がたくさん集っていた。
顔見知りの上位冒険者から気さくに挨拶してくれる下位ランク冒険者たち。ギルドマスターのお祭り好きの犠牲になったことで同情してくれるギルド職員達。屋台村や職人街といったベルカイム住人も集っていた。

完全なお祭りだ。
だから定期的に何か催し物をやれと領主に…言っておけば良かったな。せめて大通りでバザーとか開催すりゃいいのに。他に娯楽が無いばかりに、こんなくだらない勝負さえ立派な娯楽になってしまう。

そうだ、もっと娯楽を増やせばいいんだよ。それこそ庶民が楽しめる、夢中になるような。奥様方の編み物大会とかどうだ?父ちゃん達による綱引き大会でもいいじゃないか。お子さん達のパン食い競争とか。ベルカイム秋の運動会とかどうだ。
…領主に勧めてみるかな。

「よく逃げずに来られたもんだな!」

登場から小物感ばりばりのワイムス氏の登場。
低ランク冒険者達は露骨に嫌な顔をし、高ランク冒険者達は冷めた顔をしている。どうやらこのワイムス、俺の想像以上に嫌われているんじゃなかろうか。
ペンドラスス工房の可愛い猫耳リブさんも、俺に依頼をした理由はコレだった。ランクB冒険者の素材採取専門家は仕事を選ぶことで有名なのだと。どうせ頼んだところで貧乏工房の頼みなんて引き受けるわけが無いと。
だから最低ランクでも指名依頼の多い俺に依頼してきたのだ。俺は大体の依頼は断らないから。

「聞いてんのか!」

でも、3軒隣の美人に懸想文(ラブレター)を書いてくれないかと頼まれた時は流石に断ったなあ。代筆は出来るが恋愛小説家のような文章はとてもじゃないが書けない。愛する女性を花に例えたり星に例えるんだろ?無理無理無理無理。恥ずかちい。
そういう文章はそうゆう手紙を欲しがる女性に聞けばいいじゃないかと言ったら、彼は俺の言う通りロマンチックなものに憧れる女性に相談したらしい。
そしてその相談に乗ってくれた女性とお付き合いを始めたとか。なんだそれ。

「ピュイッ?」
「ん?ああ、はいはい。聞いてます。で、何?」
「ふざけんじゃねぇよ!」

朝っぱらから元気いいなあ。
今朝の朝ごはんは肉厚のパンにバターと目玉焼き、とどめに醤油で楽しむつもりだったんだ。秘技パズー飯。それをギルドの呼び出して目玉焼きナシになったんだぞ。俺だって機嫌の1つくらい悪くなってもいいよな?

「ワイムスさん、また問題行動ですか?私、言いましたよね?これ以上タケルさんに喧嘩を売るような真似をしたらエウロパから除名処分もありうると」
「だってコイツが!俺の話を!」
「貴方のつまらない挑発に乗らないだけでしょう」

仲裁に入ったグリットも嫌気が差しているようだ。
まさかのギルドからの除名処分にワイムスが慌てる。一度冒険者としての資格を失うと、一生涯冒険者として再登録することは出来ない。除名処分というのはある意味で死刑よりも厳しいと言われている。前科みたいなものかな。

「タケルさん、不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません」

グリットが深々と頭を下げる。目をかけてくれている人にこんな真似させて、恥ずかしいと思わないのかねワイムス君。
そもそも何で俺ばっかり敵視するのかな。そりゃ指名依頼の顧客は俺に流れたかもしれないが、ランクB用の採取依頼はランクFとは比べられない。基本報酬だってランクBのほうがずっといいだろうし、俺に仕事を取られたと言っても大したことは無いと思う。
それこそ、素材採取専門家は他にもいるのだから。

「よおし!それじゃあ勝負の内容を発表するぞ!」

ギルドマスターのでかい声が狭くないギルドに響き渡った。
その声を合図に、横断幕の隣に設置されていたボードがひっくり返される。そこには見覚えのある美麗な男の肖像画。

「うーん、うんっ、うんっ、では及ばずながら俺が説明する」

何故か赤い蝶ネクタイをしめたウェイドが嬉しそうに差し棒を手にボードを示す。

「今回の依頼はベルカイム領主、ルセウヴァッハ伯爵直々のご依頼だ!」
「「「うおおおおお!!」」」

何しれっと参加してんだイケメン領主!
なにこれ領主公認なわけ?
ギルド公認どころか領主公認?!

「最近までご病気で伏せっておられた伯爵夫人がご回復された話は聞いてるよな!その麗しの奥方様を喜ばせるため、ルセウヴァッハ卿はレインボーシープの七色ウールをご所望だ!!」
「「「うおおおおお!!」」」

なにそれ。
俺も隣に居たワイムスもキョトン顔。良かった、彼も知らない素材で。

「真夏に抜け落ちるレインボーシープの毛だ!こいつは期間限定の品だが、難題と言うわけでもない!とても暖かく、それはそれは美しい毛らしいぞ!」
「「「うおおおおお!!」」」

七色の抜け毛か。領主も妙なものを依頼したな。
獰猛なモンスターの臓物が対象でなければ、なんとかなるかもしれない。レインボーシープがどんな動物なのかわからないが、凶悪な肉食動物ってことは無いだろう。クレイに聞けば…聞いていいのかな。図書館で調べるのは有り?

「これはランク関係なく希少な品だ!知識と経験が必要となる!ランクFのタケルが不利かと思われるが、テメェらタケルの実力は知っているだろう!」
「タケルの採取する月夜草は最高品質よ!」
「冒険者になる前にモンブランクラブを倒したのはアイツなんだぜ!」
「「「うおおおおお!!」」」

ギルドマスターがでかい声で皆を煽る。
祭りに飢えていたヤツらはここぞとばかりに騒ぎ立てた。
娯楽ってほんとだいじ。不満や怒りというものは定期的に発散しなければ鬱憤となって溜まるだけ。そう考えるとこの世界の住人は我慢強いと言える。今ある現状に不満はあれど、そういうものだからと素直に受け入れる傾向にある。現状に不満があるものの多くは冒険者となって新天地を求めるのだ。
そうして無駄に散っていった命はあまりにも多い。

「両者ともに異論は無いか?ワイムス」
「それらしき動物なら見たことがある!余裕だぜ!」
「タケルはどうだ」

問われ、さてどうするかと考える。
お肉が美味しいモンスター以外は興味が無かったからほとんど知識が無い。生息地はもちろんのこと、どんな見た目なのかもわからない。背後でクレイとプニさんが意気揚々と挙手をしているのは置いておく。アイツら対象物を知っているな。

「ギルドマスター、質問」
「うん、何でも言ってみろ」
「対象物の生態を調べることは許容範囲内?」
「そうだな。知らねば探しようがねぇだろう」
「誰かに聞くことは?」
「それはならねぇ。採取家の知識と経験で戦うんだ。安易に教えてもらっちゃ意味がねぇからな」
「えっ」

今の「えっ」は俺じゃない。ワイムスだ。
愕然とした顔をしている。誰かに聞くつもりだったな。知識と経験、って言っていた時点で他人に頼るなってことだろう。

「他に質問は」
「移動手段は徒歩?」

背後の美人が素敵な笑顔で手を振っているから一応聞いてやる。

「うむ…。馬の性能で速さが決まる場合もあるからな。乗り合いの馬車か貸し馬ならば許そう」

背後の美人が膝をついて落ち込んだ。お気の毒。

「今回はチーム戦じゃないからな!え、栄誉の竜王やドラゴンの手伝いは禁止だろ!」
「当然のことだ。タケルもいいな?」
「もちろん」

俺自身が恩恵を受けている身だ。これ以上手助けがあったら勝負にすらならないだろう。クレイに生息地聞くだろ?プニさんに乗ってモーレツ滑走するだろ?したくないけど。ビーに警戒してもらって採取。転移門(ゲート)で帰って終了。
だめだ数十分で終わりそうだ。せめて転移門を使うのは止めておくとするか。

領主の奥方様は順調に回復したようだな。それは良いことだ。
何故動物の抜け毛を贈るのかはちょっと意味がわからないが、特別な思いがあるのだろう。
それならばより良質なものを探そう。時間がかかってもかまわない。そうしていいもん見つけて恩売って、また風呂に入らせてもらう。
勝負は…ついでで。

「よおし!それじゃあ行くぞ!期限は三日後の夕刻、陽が沈むまで!誰かに頼ったり金で解決した時点で失格だ!いいな!」
「「「うおおおおお!!」」」

なんでこうなっちゃったんだろかと冷静にハニワ顔をしつつ、やる気満々で俺を睨みつけるワイムスに愛想笑い。
余裕があるわけではないが、勝負事というのは焦るとろくなことにならない。やる気ばかりが空回りして盛大にコケた徒競走。可愛いあの子に笑われた鼻血と秋の空。

落ち着いて対策を練ろう。大丈夫だ。三日の猶予があるのだから。

「位置について!よぉーーーーーいっ」



ぷっぷくぷー










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