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第5章

桃花染の行方

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*つきそめのゆくえ*



外の世界を拒み、他の種族を軽視し侮蔑し続けたエルフ族。
神秘のエルフ族などと言われていたが、ただただ引きこもりの世間知らずなだけだった。種族の血脈を重んじるあまり近親婚を繰り返し、種の存続が危うくなってやっと危機感を覚えた。
唯一助けを求めたのは、ハイエルフ族である両性種のブロライト。郷の掟を破り、同族に疎まれても必死で種を滅亡から回避しようと模索し続けたんだ。
同族に嫌われても探し続けることを止めなかったブロライトは、リザードマンの竜騎士ドラゴンナイト、クレイストンと出会った。それは一時的な出会いに過ぎなかったが、クレイストンは俺と出会い、俺はブロライトと出会ったわけで。

この出会いは、俺をこのマデウスに飛ばした『青年』に感謝しなくもない。いや、感謝してやろう。
うさんくさい俺のことを全面的に信用して共に危険な旅をしてくれている。目的は素材採取だっていうのにさ、有難いことだよ。

「ネコミミシメジを出来るだけ多く、との依頼だったな」

女王様との謁見をすませブロジェの弓を無理やり贈与された俺たちは、採取したネコミミシメジをギルドマスターであるサーラさんに見せた。通常のネコミミシメジの数倍の大きさがあるらしいが、濃い魔素の影響は受けていないようなので安全安心。
1メートルはあるかという巨大なシメジを鞄からカウンターにどさどさと取り出すと、サーラさんは頬を赤らめて感動してくれた。

「やぁん……なにこれぇ…すっごぉい…おっきい…」
「うん、依頼品だね?依頼品が大きくて驚きだね?」
「私、こんなおっきぃのはじめてよ?凄いわ、タケルちゃん」
「採取したネコミミシメジが驚くほど大きかったんですよね!頼むから主語を入れてお話ししてくれませんか!」
「あらぁ。つまんなぁい」

狙って言ったなこんちくしょう。
ギルドマスターとは思えない妖艶さでばちーんとウインク。頼むよ、俺はこういう冗談に慣れていないんだから。元日本人の純情を弄ばないでください。

「魔素が濃すぎてキエトの洞には誰も近づけなかったのよぉ。しばらく採取していなかったから、ここまでおっきくなったのよ」

小さくても大きくても味や効能は変わらないらしく、大きければ大きいほど価値があると。
依頼主は巨大なのを四本もあればじゅうぶんだろうということで、ギルドマスターの贔屓もあって五万ゴールドの報酬となった。
ランクSモンスターを討伐した上での採取だったが、ギルドもまさか採取場所にランクSモンスターがいたとは予想していなかっただろう。

「ランクSモンスターは王都で取り扱ってくれるらしいわよ。研究している調査機関があるんですって」
「へえ。それじゃあ、高値で売れますかね」
「そうねぇ。今の相場は詳しくないけれど……最低でも大陸紙幣数枚にはなるんじゃないかしら」

ふおおお、数千万レイブ!
金に困ってはいないが、正直言って収入より支出のほうが微妙に多い現状。主に食費に消えるのだが、食事だけはケチらず美味いものを食いたいし、食わせてやりたい。
そのうち王都にも行くだろうし、その時のために巨大ナメクジはへそくりとしておこう。
キエトにしか生息しない毒モンスターもいくつか高額で買い取ってもらえた。ネコミミシメジの在庫はまだまだあるから、何に料理してやろうか楽しみだ。

「タケルちゃんの腕は素晴らしいわぁ。このままダイモスの所属になっちゃわない?」

甘い匂いを漂わせながらサーラさんが俺の頬を指でつつく。腕に腕がするりと絡まり、腕に、胸が、ぽよん、腕に、あああたる。

「やわらか…いやいやいや、俺の所属はエウロパのままで。あのギルドにはいろいろとお世話になっているし、便宜も図ってもらっているから」
「そうぉ?あそこのマスターって巨人タイタンのロドルちゃんでしょ?使えるモノは親でも使っちゃう子だから、迷惑かけられているんじゃなあい?」

ええまあそれはもう。
しかし、エウロパのマスターまでも子供のような呼び方。サーラさんの年齢がますます気になる。
サーラさんの質問をひきつった微笑で交わし、依頼クエスト完了としてもらった。やれやれ。
それぞれのギルドリングに依頼クエスト完了の記録をしてもらい、さて次はどうしようかと模索する。次の目的のついでに消化できる依頼クエストがあれば受注するつもりだが、そのためには今回の元凶に問いたださなければならない。

そう。エルフの郷に来た目的を。

「エルフの郷が濃い魔素に飲み込まれることはなくなったけど、根本的な解決は何もしていないっていうのは覚えているのか?」
「ふぇっ?」
「ふぇじゃねーよ」

口の中に大判焼きを詰め込んだブロライトが振り返り、何のことやらと大きな目を瞬かせている。

「今プニさんがいないのは何のためだ?女王様の謁見が面倒くさいってのもあるが、僅かに感じたリベルアリナを探しにいってくれたんだろう?」
「もがんぐっ、わ、忘れてはおらぬ!リベルアリナの捜索じゃ!」
「それもちげーんだわな?ブロライトのお姉さんの捜索だろうが」
「あっ」
「あじゃねーよ……」

完全に忘れていたな。
そもそものはじまりが、ブロライトのお姉さんを探すための旅。
決してエルフの郷の滅亡を阻止するとか、毒まみれモンスターとの連戦とか、ランクSモンスター討伐とかが目的なわけではない。それは全てついでのお話。

「あらぁ?ブロライトちゃん、説明していなかったのぉ?」

それぞれのカップに赤いワインを注ぐサーラが、ブロライトの額を指で弾いた。
ちなみにこの赤ワイン。これまたエルフの郷特製であり、渋味が控えめで甘さが際立つ飲みやすいジュースのようなワインだ。樽で四つ買い取ったのは言うまでもない。

「どうしたブロライト。何か理由があるのか?」
「ピュイピュイ」

水のようにごくごくとワインを飲み干したクレイが心配そうに伺う。クレイはブロライトのお姉さんのことを忘れていたわけではないようだ。
正直に言いましょう。俺もすっかり忘れていました。今朝、女王様の謁見前になってクレイから問われて思い出したのだ。『出奔したブロライトの姉は如何するのだ』と。

「わ、わたしは、貴殿らを謀ったわけではないのじゃ。姉が出奔したのは真実じゃ」
「うん。ブロライトに騙されたなんて思っていないから、安心しろよ」
「ただ、その……居場所がわからなかっただけで、安否は確認していたのじゃ」

指先をもじもじと弄りながらブロライトが言うには、エルフの郷からこっそりと逃げ出したブロライトの姉、リュティカラさんは秘密裏にサーラさんと連絡を取り合っていたらしい。サーラさんは独立組織ギルドのマスター。例え種族がエルフだとしても、ギルドに所属している以上立場は公平でなければならない。だからリュティカラさんはサーラさんに連絡を取り、心配をして後を追わないようブロライトに伝言を残した。

―――半年ほど経過した頃、探すことを許す。

なんじゃそら、と思ったが、リュティカラさんは本気だったらしい。
ブロライトはその言葉を信じ、先ず己の力量を図りギルドの依頼クエストで精進し、ランクアップをしたと。
そして、探し物と言えば俺じゃね?ってことで、ベルカイムを目指したらしい。

「ピュヒイ…プププ…」

俺の膝で丸いアルマジロ状態になって眠るビーを撫でながら、ワインを飲む。

「薄々は気付いていたんだよ。ブロライトはリュティカラさんを探さなくても、その無事を知っているんじゃないかって」
「なにゆえ!」
「心配しているわりには慌てていなかっただろ?もし安否がわからなかったら、どうにかして探そうと躍起になるはずだ」

なるほどな~、と深く頷くブロライトとクレイ。いやいや、考えなくてもわかるでしょうよ。
ブロライトはエルフの郷に来てからリュティカラさんのことを一言も口にしなかった。だから、もしかしたら逃げた上で、無事でいるという事実を知られたくないのかなと思ったわけで。

「女王様もアーさんすらもリュティカラさんのことは何も言わなかった。ということはだ。もしかしたらリュティカラさんが隠れている場所も知っているのかもしれないな」
「それはまことなのか?タケル」
「いや、ただたんに俺が部外者だからっていうことで黙っている可能性も高いけど」

郷の大切な巫女が消えたわりには誰も騒いでいないし、捜索隊が出ている気配もない。それこそ、戦士長であるクウェンテールが血眼で探していてもおかしくはない。
次世代の長を育む巫女を放置する余裕なんか、今のエルフ族にはないはずだ。

「うふん。タケルちゃんてただの人間じゃあないわね」

いや、めちゃくちゃ普通の人間です。
普通すぎてこの世界に飛ばされました。
サーラさんは綺麗な朱色の煙管を取り出し、指先に灯した小さな炎で火をつけ煙をくゆらせた。吐き出す煙は清涼感のあるハッカの匂い。

「タケルちゃんの言うとおりよ。リュティカライトの居場所は知っているわ。それも、女王やその側近連中は皆把握しているはずよ」
「そうなのかサーラ!」
「いやん、逆に聞きたいわよブロライトちゃん。アナタがどうしてリュティカライトの居場所を考えられなかったのか」
「え?」
「うもう、リュティカラちゃんはアナタ以外に誰を信頼していたのかしら?アージェンちゃんじゃないわよ?」
「え?えっ?ええと、ええと、母上様ではないのか?」
「いやあぁん、あんな出不精のお人形ちゃん、頼ったところで何もできやしないじゃない。そうじゃないわよ」

サーラさんもかなりの毒をさらっと言う人だな。
女王様が出不精のお人形ちゃん、というのは言い得て妙だ。お人形ちゃんの部分に含みを感じるが、あの女王様の虚弱体質は遺伝というよりも、運動不足の上ものすごい偏食によって成せる体調不良。
女王という立場が運動不足になるのかもしれないが、それにしても運動しなさすぎ。動かないから筋力が落ちて歩けなくなっているだけだ。

「あぁんもう、この郷で一番の理解者はだぁれ?私以外、ブロライトちゃんは誰を頼るのかしらん?」

サーラさんが吐き出した紫煙がふわりと踊る。
続く沈黙の中で懸命に考えたブロライトが、アッと何かを思いついた。


え、いや、サーラさん。


真剣な顔でブロライトに聞いているふりして、俺のケツ触らないでください。




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ぎりぎりネタぶっこみましたが、まあこのくらいは平気かなと。
大人は妄想して楽しんでください。
ビジュアルイメージがどうしてもふじこちゃんになる…
ふじこちゃんは永遠のミューズです。
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