【完結】BLゲーにモブ転生した俺が最上級モブ民の開発中止ルートに入っちゃった件

漠田ロー

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冬の章 セドルア掃討編

83 嫉妬

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「おわ!え!?アルカさん、どうしたんすか……?」

 マイスたちと別れて直ぐ、アルカは件のウォッカバーに向かった。

 バーの隅のテーブルで談笑していた、部下2人に足早に近づく。
 入り口側のウルクがすぐに気付いてから、ぎょっとした。

「どうもしないよ。俺も飲むよ。夜は始まったばかりだからな」
「ん!?ア、アルカさん……。えぇと、取り敢えず、座ってください」

 振り返ったジョエルまでが、ぎょっとしてから椅子を勧めてくれた。

 小さなテーブルに3人で掛ける。ウォッカのショットしかないバーだが、度数が低いのから高いのまで豊富にあるため、注文はジョエルに任せた。

「よし、朝まで飲むぞ」
「うぇ~、これはやべ~……」

 ポソッとウルクが呟いたので視線をやると、ウルクはエヘェアと汗をかきながら笑った。

「あっ、え~と、同級生さんたちとは楽しかったですか?2次会、合流していただいても良かったのに」

 ジョエルがにこにこと話題を振るが、取り繕っている表情なのは判る。

「ああ、同級生ってマイスとロジェってなんだけど、覚えてる?ロジェはジョエルと同じ図書委員だったけど」

 あまり大人気ないのも嫌なので話題に乗ると、ジョエルは目を見開いて固まった。

「あ、ごめん。俺ばっかり知ってて」

 普段話題に出さないが、ジョエルは王立学園の2学年後輩だ。
 図書室を利用することが多かったため、顔だけは覚えていたし、合同訓練で一緒になったことも何度かある。

 ギルド入職後のジョエルが情報室員用の面接を受けた際には、レグルスに付いて同席していたので驚いたものだ。

「ジョエル!?」

 はたと気付くとジョエルが滂沱の涙を流していて、ぎょっとする。

 やっぱり一方的に過去を知られているとか、気持ち悪かったのだろう。
 おろおろとウルクに助けを求めると、ウルクが半眼でじっとりした目をしていた。

「アルカさん、ちょっとアンタ人誑し過ぎて、流石に恨みます」
「はぁ?何が?いや、どうすんだコレ。ジョエルがおかしくなった」

 涙を流す割に何だか恍惚としていて、何だったら合掌している。
 アルカは届いたウォッカを、取り敢えずジョエルに無理やり飲ませた。

「はっ、アルカさんにお世話していただいた気がする……!」

 漸く正気に返ったジョエルがいつもの顔に戻り、一安心してウォッカを掲げる。

「取り敢えず乾杯しよ、乾杯!」
「はい、先輩!俺は一生、アルカさんに付いていきます!」
「あー、クソぉ。良かったですね、ジョエル先輩!」

 3人でショットグラスを合わせて一息で飲むと、喉がカーっと焼けた。
 低度数だが、きついアルコールの味がする。美味いか不味いかで言ったら、不味い。

「よし、じゃんじゃん飲もう」
「承知しました!ご注文は俺にお任せ下さい!」

 常に無くテンションが高いジョエルに、ウルクと2人で若干引きながらも有り難く注文を全て任せ、アルカは黙々と飲んだ。

 いつもならすぐに回るはずの酔も全く回らない。
 もう既に夜半だろうが、アルカはまだぐだぐだとジョエルたちとバーに居た。

「今日、アルカさん全然酔わないっすね~」
「ジョエルのおかげかな」
「俺はアルカさんの忠実なる右腕ですからねっ」

 実際いつもなら潰れているだろうに、ジョエルが潰れないようにチェイサーを飲ませたり、細々世話してくれていることが大きい。

「でも、そろそろ帰んないと、……あの、局長が」

 勘づいている癖に瞳を泳がせながら、ウルクがお伺いを立ててきた。

「局長?誰それ」
「あ、あ~、そうかぁ。……そういう感じっすね~、はい、了解でぃ~す」

 ウルクは自分のショットを呷った。何だか諦めた顔をしているが、気にせずにアルカもまたショットのグラスを開けた。

 結局3人でベロベロになってホテルに帰り着いたのは、夜明けまで数時間という時間帯だった。
 そのままジョエルたちの部屋に泊まろうとしたが、ウルクに問答無用で自分の部屋に押し込まれた。

 雪明りで薄明るい部屋の中、レグルスはひっそりと眠っていた。
 これで帰ってきていなかったら、明日殺してやろうと思っていたところだ。

 バスルームに引っ込んで防音結界を張ってから、熱いシャワーを浴びる。
 手元が覚束ないくらい酔ってるが、さっぱりしたい気持ちが勝つ。

 1人になった途端、レグルスへのもやもやと自己嫌悪で一杯になり、何度か隣の便器でゲーゲーやってから歯を磨いて体を浄化する。
 髪はレグルスじゃないので、適当に乾かして漸く風呂から出た。

 体は随分すっきりしたが、気分は最悪である。バスタオル1枚でベッドに転がった。
 もうこのまま寝ようと思ったところで、ベッドの反対側が沈んだ。

 振り返ると、レグルスがベッドに乗り上げていた。
 ちょうど影になって、表情が窺えない。だが、機嫌はあまり良くなさそうだと分かった。

「遅かったね」
「ごめん、起こした」

 噛み合わない会話をしてから、瞳を逸らす。
 もうそっとして欲しいと意思表示したつもりだった。だが、レグルスは引かずに、覆い被さって来た。

「どこ行ってたの?」
「もう眠いから、明日話す」

 今は話したくないというのに、逃さぬとばかりにレグルスの指が顎を掴まえる。

「ジョエルたちと飲んでたんだよ、離せ」
「こんな時間まで?」
「だから何?離せって言ってるじゃん」

 酒のせいで大分箍が外れているのは分っているが、苛々を隠すことが出来ない。

「俺、待っててって言ったよね?……それなのに、こんなに飲んできちゃってさあ」
「俺は待つなんて言ってないし」

 いつまで経っても解放されずに、自分から指を外して体ごと背を向けると、引っくり返されて両手首を押さえつけられる。

「何でそんなそっけないの?誰かと会ってきた?」
「な……」

 絶句したのをどう捉えたのか、手首を押さえる力が強くなった。

「お、まえが、言うなよ……」

 ずっと感じていた自己嫌悪を上回るくらいに、我慢していた激情が込み上げてくる。

「お前だって、オルデン辺境伯と会ってただろ!」
「……伝えた通り、仕事の話があったからね」
「他に言ってないことあるよな?」

 レグルスが息を呑んだのが分かった。

「誰かから聞いたんだ?」
「北部じゃ皆知ってるって。俺は全然知らなかったのに……!」
「もう随分前の完全に終わった話だし、アルカが気にすることなんて、何も無いよ」

「じゃあそれこそ、何で教えてくれなかったんだよ……!」
「……アルカだってそうじゃない?……俺が知らないこと、きっとあるよね」

 どこかでレグルスの嫉妬を、気持ち良く感じていたのだろう。
 だが、自分の身につまされて漸く、初めて知ったのだ。

 過去を全部知りたい訳じゃない。けれど垣間見えると、どうしようもなく嫉妬や不安に駆られることを初めて知った。

 今までずっと、レグルスにこれを強いていた。
 教えてもらえないことへの不信やもどかしさ、目の前で見せつけられる不快感や、頭の中の妄想で生まれる嫉妬。

「……ごめん、レグルス」
「そのごめんは、何に対して?」

 酔った頭でも言葉を間違えないように、大きく深呼吸をした。

「初日に、職員玄関で2人で話す姿を見て、……すごくお似合いだと思った。……彼女、すごく美人だし、性格も良いし、スタイルも良いし」

「アルカ、それって」

「そうだよ。嫉妬した……!どうしようもなく!……だって、あんな人に迫られたら、誰だって落ちるだろ!俺は別に顔も普通だし、性格は怖いって言われるし、彼女みたいに胸デカくないし!!」

 恥も外聞も捨てて怒鳴ると、レグルスは虚を突かれたのか手首の拘束が緩んだ。

「……そ、それでこんなに怒って、飲んできちゃったの……?」
「そうだよ、悪いかよ!」

 どさりとレグルスが体を投げ出してきて、慣れた重みに押し潰される。
 伸し掛かる体が小刻みに震え出したと思ったら、段々に息も漏れてくる。

「ん、ふふ、……ふふ、む、胸って……、ふ」

 堪らえようとしているのか、レグルスは大きく震えている。しかし結局吹き出して、声を上げながら笑った。

「アルカもやっぱり男の子だね……!よりにもよって、そこ持ち出すかなあ、はは!」
「なんだよ!男は皆好きだって、娼婦の姐さんたちが言ってたんだからな!」

 拘束が緩んだ隙に背中を向けて、身を守るように縮こまると、後から抱き込まれた。

「ふふ、嫉妬される側も悪くないね」

 左耳のピアスを、そっと撫でられる。
 レグルスからはもう剣呑な雰囲気が消え失せていて、アルカも漸く体から力を抜く。

「……レグルスは、ああいう美人で胸のデカい人が好みなのかよ」
「ふふ、なんで、そこ拘るかなあ」

「……だって性格は変えられるけど、体は変えられないだろ」
「アルカ……」

 一層大事そうに、全身を抱き込まれる。

「彼女は、君よりも若い頃に紹介されただけ。彼女は強い遺伝子を探していたし、俺の家格も釣り合ったからね。……取り敢えずお試しってことで、1年も続かなかったし。最終的には殴られて終わった」

 少し笑ったレグルスにはもう、過去の笑い話のように屈託が無かった。

「好き、だった?」
「駄目だった。好きになれなかった。俺は無理だった」

 項に押し当てられた柔らかい唇の感触に、少しだけ震える。

「俺はね、アルカがいいの」

 少し身を起こしたレグルスが、頬に口付けを落とす。

「俺にとっては、こんなに綺麗で可愛い人は、他にいないし」

 抱きすくめた手の平が隠していた胸に伸びて、慈しむように撫でる。

「胸もさ、すごく敏感ですぐ赤くなっちゃう、いつも俺に可愛がってってやらしく誘ってくるアルカの胸が、俺には1番なの」
「んぁっ……」

 微かに先端に指が触れ、頬に熱が一気に集まる。

「顔も体も性格も、俺の1番はアルカ。あとは要らない」

 その言葉にささくれていた心が、漸く鎮まった。
 
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