一兎を想う飼い主は一兎を得る

さか【傘路さか】

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 異変、ともいえる現象が起きたのは翌日からだった。毛の手入れをしようと兎へ転じようとして、姿を変えられない事に気づいた。

 先ず困ったのは、動物プロダクションの仕事が出来なくなったことだ。龍屋さん経由で上と相談し、直近の仕事に代役を立ててもらった。

 宵知にも依頼をお休みすることを龍屋さんから伝えてもらい、届いた私を心配するメッセージには『感染症に罹ったため会えない』と返事をした。

 買い出しなどを手伝えないか、との提案も貰ったが、プロダクションのスタッフが手伝ってくれるから、と嘘までついたのが先日のことだ。

「どうしちゃったのかなぁ……」

 一人っきりの室内、パジャマのままで寝台に転がる。

 何となく、心当たりはあった。魂とは元は形のないものだ、形成には心情が具に影響する。

 そして人の私は、兎の姿に対して宵知を取られたように感じて、嫉妬している。だからいくら感情をコントロールしようとしても、兎の姿を取れないのだろう。

 連絡を止めている宵知とのメッセージ画面を開く。ここ数日はかなり多くのメッセージが送られてきており、朝からも一通、受信している。

『そっちの事務所スタッフより俺の方が時間の自由が利くだろうから、何かあれば気軽に相談してくれ』

 返事はしていなかったが、メッセージが既読になっていることは伝わっているだろう。このまま返事をしないほうが、相手からのメッセージが届かずに早く治るような気さえする。

 腕を伸ばして唸っていると、急に携帯が振動した。着信だ。

「え……!? あ、もしもし」

『急に悪い。久摩だ』

 名乗らなくても声と言葉の調子で分かる。取り落としそうになった携帯電話を握り締め、唾を飲み込んだ。

『いま少し、いいか?』

「…………うん。大丈夫」

 声を聞いていたいという欲と、なぜ通話まで、という困惑が交差する。普段の調子で返してしまって、後悔しつつ耳を澄ませた。

『体調はどうだ?』

「……まだ本調子じゃなくて、もうちょっとお休みする予定だよ」

『困っていることはないか?』

 このまま兎に転じることができなくなれば、彼との繋がりも切れるだろう。恋心を封じてまで守ろうとした関係すら、絶えそうになっているのが滑稽だ。

「ん。食べ物もあるし、しばらくは仕事もお休みにしてもらったから」

『そうか。本当なら、俺が曲を作っていた時のように……、今度は俺が家事をしに行きたいんだが』

 こんなに曇った声は、出会った頃に聞いて以来だ。なんとか元気づけようと、声音を作ってみせる。

「有り難いけど。体調悪いの、伝染っちゃうと嫌だから」

『そうなってもいい、と言っても?』

 僅かに掛けられた圧を振り払うように、私は唇を持ち上げる。

 私たちは、あくまで只の友人だ。

 片方が病気だからといって、感染のリスクを冒してまで一緒に過ごすような間柄ではない。

「私は嫌だよ。一人で寝てる。困ったら相談するから……」

『………………』

 電話の先が無音になった。耳から携帯電話を離し、画面を見るがまだ通話中だ。電波も悪くはない。

 少し待つと、僅かに聞き取れるくらいの声量が届く。

『美月』

「なに?」

『俺、この前。────本当は、一緒に暮らさないか、って提案したかった』

 突拍子もない言葉に目を丸くする。目の前に彼がいなくてよかった、と心底思った。

 あの時。また泊まりに来るよう言われた時の喪失感が蘇ってくる。どうあっても、彼は私を兎として捉える。

 人の私の恋情を想像もしてくれない。だから、こんなに軽率に酷いことを言うのだ。

「…………嫌だよ」

 声が震えてしまっているのがわかった。つっと頬を冷たいものが伝っていく。

 指先で雑に涙を拭って、寝台の上で丸くなる。人の私に恋してくれない相手と一緒に暮らすなんて真っ平ごめんだ。

「ほんと、嫌。ごめん、宵知。私ね、…………私」

 兎の私だって、紛れもなく私の半身だ。だが、このまま黙り込んでいたら、人の私がまず駄目になってしまう気がした。

 人はこうやって潮時を知るのだ。苦しい胸を抱え込んで、ぶるぶると痙攣する唇を無理矢理動かす。

「覚えてる? ……私たちが、魂を染めてもらって生殖する話」

『あ……あぁ。それは、覚えている』

 こくん、と唾を飲んだ。頭の中は滅茶苦茶で、言葉を選ぶ余裕もない。

「私。宵知と。ずっと…………友達、じゃなくて。恋人になりたい、って。思ってた」

 言葉を伝えきって、私は終話ボタンを叩いた。続けて携帯電話の電源も落としてしまう。

 ぼたぼたと零れる涙をパジャマの裾で拭って、近くにあった毛布を身体に巻き付ける。拭っても拭っても頬は冷たくて、次第に擦りすぎて痛んだ。

 何もない天井を見上げて、あーあ、と呟く。

「やっちゃった……、なぁ」













 数日経っても兎に転じることはできず、時おり携帯電話の電源を入れて、事務所とだけは話をした。

 その中で、私たちのような一族の事情を知っている病院を紹介される。精神的なものが原因だと分かってはいたが、念のため、病院には向かうことにした。

 病院は住んでいる場所から遠く、久しぶりの日光に目を細めながら、長いこと電車に揺られる。

 辿り着いた病院は住宅街の一角にある、小さな建物だった。病院に入って受付を終え、待合室のソファに腰掛ける。

 平日の昼間だけあって、人は多くはない印象だ。待合室の隅にはテレビが置かれており、暇つぶしに視線を向けていた。

「長ヶ耳さん、診察室へどうぞ」

「はい」

 診察室へ通されると、待っていたのは初老の男性医師だった。座面が花柄の椅子を示され、目を見開きつつ腰掛ける。

「長ヶ耳さんは『ウサギ』でしたよね」

「え? あの、どうしてそれを?」

「プロダクションから個人的に連絡を受けておりまして」

「あ。そうだったんですね」

 特殊な能力でもあるのかと身構えてしまい、照れ笑いをしつつ持ち上がった肩を下げる。

「それで、兎に転じることができなくなった、と」

「はい。ちょっと、精神的に、兎なんて嫌だ、と思うことがあって……」

 医師は私の言葉を記録すると、またこちらへ向き直った。にっこりと笑みを浮かべたままで、柔らかい印象は崩れない。

 それから会話を交えつつ聴診を受け、指示されるがままに部屋を移動し、採血もされた。結果が出るまで時間がかかる、とのことで待合室にて待つことになる。

 しばらく待っていると、テレビではエンタメ紹介コーナーが流れはじめる。ソファに身を預け、何ともなしに画面を眺めた。

『次のトピックは作曲家、久摩宵知の新曲ゲリラ公開に関する話題です』

 え、と思わず声を上げるところだった。口元に手をやり、画面を食い入るように見つめる。

 テレビには久摩宵知の宣材写真と、これまでの作曲歴が記されている。そして、最近は活動縮小傾向であった事が伝えられた。

『曲のリリース時には、ミュージックビデオ等と同時公開するのが一般的ですが、今回は曲単体、事前告知なしのゲリラ的な公開となりました。では、曲を一部お聞きいただきましょう。久摩宵知で”HONEY≠BUNNY”』

 タイトルに聞き覚えはなかったが、確かに二人で聞いた音楽がブラッシュアップされた状態で流れ出した。

 もう少し調整する、と言っていた通り、サプライズ的な音が入っていたり、音に重みが足されている。

 つい前のめりになって聴き入ってしまい、短い曲紹介が終わると、はっと身を起こす。

『また、曲の公開時、久摩さんのSNSより発表されたコメントも話題を呼んでいます。 ”皆さん、本当にお待たせして申し訳ありませんでした。長い休みの間、支えてくれたすべての方にこの曲を贈ります。それと、』

 ぱちり、と瞬きを繰り返す。

 そこには、彼が発信した言葉がそのまま映し出されている。

『この場を借りて、大切な人へ伝えさせてください。頼むから、携帯電話の電源を入れてくれ” ……この、何とも意味深なメッセージにファンからは ”家族が失踪でもした?” ”恋人に逃げられたとかかな?” ”電源入れてあげてー” など、様々な感想が寄せられています。お相手に何事もなければいいですね』

 言葉が終わっても、私はぽかんと画面を見続けていた。

 携帯電話の電源は、病院だから、と切りっぱなしにしている。外に出て一度電源を入れるべきか迷っていると、診察室から呼び出しが掛かった。

 結果的に、現状わかる範囲で身体的な異常は見当たらなかったそうだ。食欲不振の症状に対する薬だけ貰い、残りの結果を聞きにまた来るよう言われ、病院を出る。

 冷たい冬風に吹かれながら、携帯電話を取り出した。躊躇いつつも、先ず、電源を入れる。

 ずっと開けなかった宵知からのメッセージ欄を開くと、怒濤のように届いていた言葉が溢れる。

 どれも私を心配し、連絡が欲しい、と呼びかける言葉ばかりだった。

「心配かけちゃった、かな……」

 確かに長く親しくしていた体調不良の友人が、告白して逃げたら不安にもなるだろう。迷惑を掛けたことに肩を落とし、縺れる指先で文字を綴る。

 はあ、と吐き出した息は白く染まった。

『急に連絡取れなくなってごめんね。少し話がしたいんだけど、時間を貰えないかな?』

 メッセージを送って数秒後だっただろうか、携帯電話が着信を告げる。

 着信元は『久摩』と表示されていた。数コール待って、通話ボタンを押す。

「もしも……」

『美月か!?』

「…………うん。あの、ごめんね。急に連絡取れなくしちゃって……なんか、気まずくて」

『いや。……俺も、直ぐに掛け直さなかったから』

 直ぐに掛け直したとしても電源は切っていたのだが、彼はそれを知らないようだった。私の伝えた言葉は、よほど驚かせてしまったらしい。

「『あの……』」

 言葉が被さって、お互いに一度、譲り合った。

「あのね。ちゃんとお話がしたいんだけど、いつか時間……」

『今も空いてる。空けろと言われたら、いつでも空ける』

 忙しない言葉に面食らいつつ、平静を装った。

 真っ白い空の下、頬を凍らせながら脚を踏み出す。靴が乾いた地面を踏みしめる音は、耳に突き刺さるようだった。

「いま外出してるんだけど、おうち、行っていい?」

『構わないが。感染症なんじゃ……』

「ごめん。それ嘘なんだ。……詳しくはそっちで話したいんだけど、会えなかったのは、別の理由」

『そうか。美月が苦しくないのなら、良かった』

 ぐ、と込み上げてくる熱を堪える。

「じゃあ、これから移動するね。また後で」

 早口でそう言い切って終話ボタンを押してから、溜め込んでいた息を吐き出した。

 のろのろと駅までの道を歩いたつもりでも、結局、目的地には辿り着いてしまう。律儀に次に来た電車に乗って、宵知の家の最寄り駅へ移動した。

 改札を通って外に出ると、見慣れた景色が広がっている。

「振られるために家にいくなんて、惨めだなぁ……」

 真っ白な空は雨に変わる様子もなく、ただ空虚に広がっているばかりだ。吹き付ける風の中、ポケットに手を突っ込みながらただ歩いた。

 もう来ることはないかもしれない景色を、感慨深く見る気にもならない。

 ただ反復動作を繰り返していると、家の近くまで来てしまった。

『そろそろ着くよ』

 送ったメッセージは、画面が開きっぱなしだったんじゃないか、と疑いたくなるほど早く既読状態になった。

 心持ちのんびりと門が見える場所まで移動すると、門の奥に人影がある。

「…………宵知?」

 ぼうっと呟くと、私の姿を見つけて門が開かれる。

「美月……!」

 部屋着にブルゾンを羽織っただけの宵知が、開いた門から出てくる。

 私の近くまで駆け寄ると、姿を確かめるように何度も瞬きを繰り返した。

「わざわざ来てもらって悪いな」

「ううん。音信不通になったこと、私が悪かったから」

 ごめんね、と呟くと、相手の首は横に振られる。風に吹かれたからか、頬は冷たそうに白んでいた。

「寒いだろう。家に入ろう」

「うん」

 振り返った広い背中を追って、門を通り過ぎる。

 コツコツと足音だけが周囲を満たすばかりで、どちらも言葉を発しなかった。

 私が玄関扉をくぐると、宵知は扉を閉めて、ゆっくりと鍵を掛ける。何ともなしにその動作を目で追って、靴を脱いだ。

 玄関近く、私に宛がわれたスリッパへ足を通す。

「…………リビングを片付け切れていなくて、散らかっているが」

「別に、気にしなくていいよ」

 そう言って扉を開け、目を丸くする。

 ソファの近くに散らばった書類、食卓に積み上がった簡易栄養食の数々。私が泊まり込む前の修羅場よりも尚悪いのは、空気が淀んでいるからだろうか。

 つい、いつものようにスイッチ群に近づいてボタンを押し、閉じられていたカーテンを開く。

 外は曇りだが、暗かった室内に一気に光が入ってきた。

「また忙しくしてたの?」

 宵知は振り返って尋ねた私へ、眩しいものを見るかのように目を細めた。続けて苦笑し、首を横に振る。

「いや。掃除する気分にならなかっただけだ」

「そっか。そういう時もあるよね」

 つい癖で机の上の書類を纏めてしまい、はっと手を止める。手に取ってしまった紙を隅に寄せた。

「……座ったらどうだ?」

「そうだね。えと、お邪魔します」

 コートを脱いで脇に避け、ソファの隅に腰掛けると、少し距離を置いて宵知が座った。

 恋心を告げるとは、こういう事なのだと思い知る。

「この前の、電話の事なんだが……」

「うん」

「聞き間違いで、……なかったら」

 熱にでも浮かされていたのだと、あの時の言葉を否定してしまうこともできた。けれど、今はそんな気力も湧かない。

 それならせめて、けりを付けて終わりたい。

「一緒に暮らしたい、って思ってくれた事自体は嬉しかった。だけど、宵知に必要なのは私が『兎』になった姿と、適切な距離を保てる友『人』だと思う。だけど私は。ずっと、私以外の全部に、それこそミミさんにも嫉妬してた。……私だけを見てほしくて」

 相手の顔を見られず、ただ感情だけを吐露する。まだ暖房が効いていない部屋は少し冷えた。

「好きだったんだ。本当は友人じゃなくて、恋人がよかった。そうしたら、他の誰にも、宵知のこと渡さずに済むから」

 言葉にすると真っ黒な、どろりとした感情に見えた。ウサギには相応しくない、嫉妬だけが渦を巻いている。

「……聞いてくれてありがとう。すっきりした」

「なあ」

「なに?」

「何で、俺が美月を恋人にしない、って前提で話をするんだ」

 冷静なようでいて、底に何かを隠したような声音だった。その牙の鋭さに総毛立つ。

 逃げたいという感情とは裏腹に、距離を詰められた。浮いた手首が掴まれる。

「逃げないでくれ。怒ってない」

 私はしおしおと耳を垂らして、視線を下げる。手首は捕らえられたままだが、力は一気に緩んだ。

「美月は、好意を抱いていない相手を同居に誘うと思うのか?」

「で、でも……。私は兎だから、一緒に暮らしたら、毎日毛を触らせてあげられるよ?」

「それは非常に魅力的だが。いくら兎になれるとしても、殆どは人として過ごすだろう。仕事場も家なのに、只の友人を同居に誘うものか」

 疑問符を浮かべている私の肩に手が置かれた。腰に手が回って、相手の体が覆い被さる。

 きゅう、と抱き竦められる感触は痛くない。だが、手足が絡みつき、その場に留められた。

「俺は、人の美月と一緒に暮らしたいと思った。理由は、美月と同じだ」

「同じ?」

「あの時期に寄り添ってくれた美月を恋しく感じるようになって、しばらく一緒に暮らしてくれて自分の感情に確信を持った。俺だって、美月を独占したい」

 彼は、人の私に恋心を持っていると言う。けれど、兎の私への態度が、一抹の不安を晴らしてはくれない。

「それは、ウサギへの愛情と、混同してるんじゃなくて……?」

 恐るおそる尋ねた言葉に、宵知は目を丸くした。

「つまり、俺はウサギが好きすぎて、ウサギが好きだから美月のことも好きなんじゃないか、って思われてるってことか?」

「まあ。……だいたい、そう、かな」

 否定できずにいると、肩口で大きく息が吐き出された。

 私が腕を抜け出せないのを良いことに、腰を更に深く抱き込む。

「美月の性格が兎という種族を基に形成された以上、全くゼロ、というと正しくないんだろう。だが、全くの他人の悲しい感情に寄り添ってくれたのも、大変な時期に支えてくれたのも、夜中に起きてきて煮詰まった俺に付き合ってくれたのも。それは全部、兎じゃなく、美月個人の性格からくるものじゃないのか? だから、俺が恋しいと思ったのは、人の美月なんだと思ってる」

 静かに、言い聞かせるように彼は耳元で囁いた。

「信用ならない、と言われればそれまでだし。…………まあ、ウサギ好きは間違いないから。ウサギと似た性格の人間を好きになりやすい、と言えばそれはそうなんだろうな」

 彼は身を起こすと、私の顔を覗き込む。整った顔立ちが近づいてきて、額同士が触れ合った。

 キスをされるかと思った。ぼうっと目元を染めたまま相手を見つめる。

「────そういう相手は、恋人にはしてくれないか?」

 唇が触れるギリギリの所で、相手の顔が止まる。ほんの僅かに空けられた距離を、私から埋めた。

 柔らかいものが触れて、離れる。ほう、と息を吐いた瞬間、今度は相手から距離を埋められた。

「────ん!」

 強く触れた唇は、名残惜しそうに引いていく。相手の首筋に腕を回し、今度は頬に口付けた。

「…………する」

「はは。それは良かった!」

 晴れ晴れとした笑顔に、こんなに春のような表情を見るのは初めてだと面食らう。

 つられて私の唇も持ち上がって、くすくすと笑っていると唇を盗まれる。私だけの恋人だ、と身を擦り寄せて匂い付けをしていると、耳元で不思議そうな声がする。

「思ったより、積極的なんだな」

「そうなのかな? 私の恋人……番だから、私だけのにしなくちゃ、って思う」

 過剰なスキンシップも、恋人はおおらかに受け止めてくれる。繋いだ指先を絡め、きゅう、と握り込んだ。

 うずうずと湧き上がってくるのは、間違いなく性欲だ。熱くなった腹を見下ろし、唇を窄める。

「宵知」

「なんだ?」

「私に発情できる?」

 目の前で、宵知はぱちぱちと何度も瞬きをした。

「それはその…………、勿論だが、意図は?」

「すぐ、セックスしたい」

 ごっ、と何か言おうとした相手が派手に噎せた。げほげほと喉を鳴らす恋人の肩を撫でる。

 兎の間では性欲が一に向くか多に向くかの違いはあれど、交渉自体がタブー視されることはない。だって、相手が見つかったら、したくなるのだ。

「宵知は、セックス、嫌い?」

「い、や……!? 嫌い、ではない。ではないが……!」

 相手の太股に乗り上がって、すり、とまだ大人しいままの股間に手を伸ばす。

 体格相応の膨らみを大事に撫で、背中撫でを強請るときと同じように、相手を見上げて小首を傾げる。

「じゃあ。私と、────しよ。ね?」

「な。待っ…………」

 胸元に頬を擦り付けるが、それ以上悪戯をしようとした指先は取り上げられる。

 あわよくばそのまま縺れ込もうと画策していたのだが、キャパオーバーで真っ赤になった宵知にタイムを挟まれることになった。




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