きさらぎ駅

電車内の怪異

一

ホーム内には人が多かったにも関わらず、来た電車に乗った人間は少なかった。



五分もしないうちに匠と私を除き、皆寝静まってしまう。

静かな車内に誰の寝息とも知れぬものが微かに響きわたる中、私達は表情を強ばらせたまま互いの手を握り締めていた。




「………………………」





聞いたことのある駅名が幾つか過ぎ、あれから異常もない。




それでもしんっと静まってる車内で私達は身を堅くしてその時を待った。




私達は……嫌、私が呼ばれたのだ。
異常は必ず起きる。


それは匠を巻き添えにするだろう。


ソッと匠を盗み見れば、それに気付いて視線を絡めてくれる。




「…………………………」




言葉は互いに発しなかった。

異常はその時に既に起こっていたのかも知れない。



皆寝ていて、明らかにいつもより少ない車内の人数。



ガタン────
ガタン─────


規則正しく揺られる。


……この先には何があるんだろう。


香織はこの先でまだ無事でいるだろうか？





『ザザッ………』





スピーカーから聞こえてきたノイズに背筋を強ばらせた。


それと同時に気付く。


窓から見える外が異常なまでに明るかった。
暗い中に輝くネオンは嘘のように消えていて、私と匠が目にしたのは光に包まれ遥か彼方まで続いてそうな草原一色。


こんな………………っ。


目を見開くほどに美しい場所だった。