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結婚の申し込み
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「リュシエンヌ。おまえももう少しで十八歳になることはわかっているね?」
舞踏会もつつがなく終わり、初夏が訪れようとしていた頃。父がリュシエンヌに改まった調子で切り出した。
「ええ……。二か月後の誕生日を迎えたら、わたしも成人したと見なされますが……」
父の隣にいる母も、どこか不安そうな、落ち着かない表情だ。
リュシエンヌは嫌な予感がした。
「実はな、ノワール帝国から結婚の打診がきているのだ」
彼女は目を見開き、固まった。
ノワール帝国。セレスト公国を支配下に置く大国へ自分が嫁ぐ?
「……どうして、わたしに?」
「詳しいことは使者も教えてくれず、書簡にも書かれていなかったからわからない。政治的な理由ともとれるが……」
リュシエンヌは不快とも言える強い感情が胸に湧いた。それは詳細を知らない父に対する苛立ちか、こんなことを打診してきた帝国に対する非難めいた感情なのか……わからなかったが、彼女は強張った顔で父に伝えた。
「帝国に嫁ぐなど、絶対に嫌です」
身分ある者は政略結婚が一般的だ。
リュシエンヌもそのことはよくわかっていたが、いざ自分がその立場になると、何が何でも拒絶したくなった。
娘の我儘に両親は呆れると思ったが、意外にも「おまえならそう言うと思った」とどこか安堵したようにも見える顔で頷かれた。
これにはリュシエンヌの方が戸惑う。……いや、最初はわかっていると理解を示した後で説得するつもりかもしれない。
「リュシー。実を言うと、私たちもあなたを帝都へやるのは、不安なの」
「……それは、わたしが不出来だから?」
「何を言っている。おまえは私たちの自慢の娘だ。そうではなく、今の皇帝陛下に思うところがあるのだ」
てっきり自分の出来の悪さでは皇帝の反感を買うと思っていたリュシエンヌは、父に自慢の娘だと言われ内心浮かれる。だがすぐに不安にもなった。
「帝国は少し前に皇帝陛下が崩御されて、皇太子殿下が即位なされたんですよね? ……怖い方なのですか?」
ちょうど数カ月ほど前、皇帝が変わった。
リュシエンヌも詳しいことは知らないが、今の皇帝は前皇帝と違い、苛烈な性格をしているそうだ。長いこと廃止していた後宮制度を復活させ、貴族の令嬢から娼館の娘まで集めて享楽に耽っているという。
「もしかして……今回の打診も、わたしを後宮の一人に加えるため?」
「まだそうだと決まったわけではない。おまえをただ一人の皇妃にするおつもりなのかもしれない」
だがその可能性は低いだろう。
リュシエンヌの容姿は別に取り立てて美しいわけではない。帝都まで届くような特別な才能も持ち合わせていない。
ただ皇帝の気紛れ、というのが一番の真実な気がした。
(そんな方に嫁ぐなんて……絶対に嫌だわ……)
内情を知ってますます顔を青ざめさせるリュシエンヌに、父は「安心しなさい」と優しい声で告げた。
「この結婚は断るつもりだ」
「でも……」
「リュシー。私たちはね、あなたを心から大切にしてくれる人と幸せになってほしいの」
「そうだ。だから――ランスロット」
「はっ」
父が扉へ向かって呼びかけると、待機していたランスロットが返事をして部屋へ入ってくる。
リュシエンヌはなぜ父が彼を呼んだのかわからず、困惑した表情を晒す。
「お父様……?」
「ランスロット。そなたは幼い頃からリュシエンヌに仕え、守ってきてくれた。私と妃としては、これからもそなたに娘のそばにいてほしい。――ゆえに、そなたがリュシエンヌと結婚することを認めようと思う」
「お父様!」
リュシエンヌは悲鳴のような声で父を呼んだ。
「突然一体何を言い出すのです!?」
「リュシエンヌ。そなたもそろそろ結婚相手のことを考えるべきだ。だが、誰でもいいわけではない。そなたはセレスト公国の公女であり、私たちの大切な娘なのだから。では適任は誰かというと、ランスロットの他にいないと考えたのだ」
「だからって……そんな突然に……」
リュシエンヌは自分に何も伝えずいきなり提案されたことに不満を覚えた。
「事前に打ち明けていれば、おまえはいろいろと理由をつけて回避しようとするだろう? それではいつまで経っても話が進まない」
娘の性格を両親は実によく理解している。
「リュシー。いきなりこんなことを提案して、ごめんなさいね。でもいずれは考えなければならないことだから」
「それは、わかっているわ……。でもこんな……」
そう言ってリュシエンヌは恐る恐るランスロットを見やる。だが彼の表情を確かめる前にサッと視線を両親に戻した。
「こんなの、命令と一緒よ。ランスロットも、困るわ」
「ふむ……。ランスロット、そなたはどうだ?」
跪いて頭を垂れていたランスロットが、顔を上げる。
「はっ。お二人の大切なご息女であるリュシエンヌ様とご結婚できるのならば、これに勝る名誉と喜びはございません。謹んでお受けしたいと存じます」
笑みを浮かべた、実に清々しい表情で彼はそう言い切った。
そんな彼をリュシエンヌは呆然と見つめていたが、やがて嬉しさと苦々しい思いがないまぜになった気持ちが押し寄せる。
(ランスロットに断れるわけない)
父は彼にとって忠誠を誓った相手だ。一応リュシエンヌの護衛騎士であるが、本来仕えているのはセレスト公国の君主である。いや、そもそもリュシエンヌが結婚してほしいとお願いしても、彼は容易には断ることはできない。
主のお願いは命令にも等しいのだから。
この場で提案し、答えを求める両親のやり方をリュシエンヌは卑怯だと思った。
彼のことを思うならば、もう一度よく考えさせてほしいと頼むべきだ。
だが――
「リュシエンヌ。ランスロットはおまえとの結婚に特に異論はないそうだ。おまえはどうだ? ランスロットではなく、他の男がいいか?」
ランスロットの緑の双眼が、リュシエンヌへ向けられる。
彼女は彼に見つめられ、何も考えられなくなった。
「――いえ、私もランスロットがいいです」
ただ、彼と一緒にいたい。彼以外とは嫌で、誰にも渡したくなかった。
◇
リュシエンヌとランスロットの婚約が発表されても、人々はあまり驚かなかった。
リュシエンヌはあまり社交界にも顔を出さず、異性とも接する姿が見られなかった。そんな中で護衛騎士であるランスロットだけは例外であり、二人が一緒になるのは自然のことのように思えたのだ。
むしろリュシエンヌがランスロット以外と結婚する方が彼らは驚いただろう。
しかしリュシエンヌ本人は、これで本当によかったのか、結婚が正式に決まってもうじうじと悩み続けた。
(デュラン侯爵は、もっと別の女性に嫁がせたかったんじゃないかしら……)
ランスロットの生家、デュラン侯爵家は代々公国に仕える騎士の家系である。
ランスロットの父や兄も、聖アリアーヌ騎士団の団長や大公の護衛をする近衛騎士として忠誠を誓っている。
そんな彼らにとって、ランスロットは自慢の息子であり弟である。
自分のような人間ではなく、もっと素直で可愛げのある女性を嫁に娶るべきだと考えているのではないだろうか……。
(ううん。きっとそうよ。だってランスロットは素敵だもの)
侯爵家だけではなく、彼に仄かな憧れを抱いている令嬢たちもきっと……。
「姫様。何か面倒なこと、考えていませんか?」
ランスロットの顔がすぐ目の前にあり、リュシエンヌは驚いて後ろへ身を引いた。
「……驚かさないで」
「すみません。ですがせっかく俺たちの結婚式について話しているのに、どこか心ここにあらずで、浮かない顔をしていらしたので」
結婚式に向けて、二人が決めることは山のようにある。といっても、実際の準備は周囲が執り行うので、リュシエンヌたちはドレスの採寸や希望を述べるのが主たる役割だ。
「先ほどのドレス、やっぱり気に入りませんか? もっと派手にしちゃいます?」
「ドレスはあれで十分よ。そうじゃなくて……」
結婚相手が自分でいいのか、とリュシエンヌは正直に言えず俯いた。
「もしかして、結婚相手が俺では不安になったとか?」
「違う!」
顔を上げ、瞬時に否定する。
これにはランスロットも驚いたようで、目を真ん丸とさせる。
リュシエンヌも「あ……」と、我に返る。
「あの、決してあなたが嫌ということではなくて……」
「よかった」
「え?」
ランスロットは優しい目でリュシエンヌを見つめ、朗らかに微笑んだ。
「泣いて結婚したくないと懇願されたらどうしようかと不安になっていたので、安心しました」
「……あなたは、嫌ではないの」
「嫌じゃありませんよ。陛下にも言いましたが、あなたと結婚できることはとても嬉しいです」
(本当かしら……)
リュシエンヌの疑わしい気持ちに気づいたのか、不意にランスロットはニヤリと笑った。
「それに、姫様と付き合える男は俺の他にはいませんからね」
「まぁ……。それってどういう意味かしら」
「人見知りが激しく、人付き合いも極力避けたい。放っておけばずっと外に出ず引き籠って体調も崩しがち。それから……」
「もう言わないで!」
リュシエンヌが怒って遮れば、ランスロットは笑って謝る。
(やっぱり妹のように思っているんじゃない)
拗ねた気持ちでそっぽを向けば、ランスロットは優しい声で名前を呼んだ。
応えないでいると、彼は床に跪き、椅子に座っているリュシエンヌの手をそっと包み込んでくる。恋人のように彼から触れられたのは初めてで、リュシエンヌは思わず彼の方を見てしまう。それを待っていたかのようにランスロットは告げた。
「姫様。これからは主としてだけでなく、俺の妻として、貴女を守り、愛を捧げることを誓います。俺が夫となることを許してくれますか?」
婚約式の誓いとは別にランスロットはリュシエンヌに誓いの言葉を述べ、許しを求めている。
(そんなの……)
ひたむきな眼差しに胸が締め付けられ、目頭が熱くなる。
「……ええ、許します」
許すに決まっている。
リュシエンヌの言葉に、ランスロットは幸せそうに目を細めた。
舞踏会もつつがなく終わり、初夏が訪れようとしていた頃。父がリュシエンヌに改まった調子で切り出した。
「ええ……。二か月後の誕生日を迎えたら、わたしも成人したと見なされますが……」
父の隣にいる母も、どこか不安そうな、落ち着かない表情だ。
リュシエンヌは嫌な予感がした。
「実はな、ノワール帝国から結婚の打診がきているのだ」
彼女は目を見開き、固まった。
ノワール帝国。セレスト公国を支配下に置く大国へ自分が嫁ぐ?
「……どうして、わたしに?」
「詳しいことは使者も教えてくれず、書簡にも書かれていなかったからわからない。政治的な理由ともとれるが……」
リュシエンヌは不快とも言える強い感情が胸に湧いた。それは詳細を知らない父に対する苛立ちか、こんなことを打診してきた帝国に対する非難めいた感情なのか……わからなかったが、彼女は強張った顔で父に伝えた。
「帝国に嫁ぐなど、絶対に嫌です」
身分ある者は政略結婚が一般的だ。
リュシエンヌもそのことはよくわかっていたが、いざ自分がその立場になると、何が何でも拒絶したくなった。
娘の我儘に両親は呆れると思ったが、意外にも「おまえならそう言うと思った」とどこか安堵したようにも見える顔で頷かれた。
これにはリュシエンヌの方が戸惑う。……いや、最初はわかっていると理解を示した後で説得するつもりかもしれない。
「リュシー。実を言うと、私たちもあなたを帝都へやるのは、不安なの」
「……それは、わたしが不出来だから?」
「何を言っている。おまえは私たちの自慢の娘だ。そうではなく、今の皇帝陛下に思うところがあるのだ」
てっきり自分の出来の悪さでは皇帝の反感を買うと思っていたリュシエンヌは、父に自慢の娘だと言われ内心浮かれる。だがすぐに不安にもなった。
「帝国は少し前に皇帝陛下が崩御されて、皇太子殿下が即位なされたんですよね? ……怖い方なのですか?」
ちょうど数カ月ほど前、皇帝が変わった。
リュシエンヌも詳しいことは知らないが、今の皇帝は前皇帝と違い、苛烈な性格をしているそうだ。長いこと廃止していた後宮制度を復活させ、貴族の令嬢から娼館の娘まで集めて享楽に耽っているという。
「もしかして……今回の打診も、わたしを後宮の一人に加えるため?」
「まだそうだと決まったわけではない。おまえをただ一人の皇妃にするおつもりなのかもしれない」
だがその可能性は低いだろう。
リュシエンヌの容姿は別に取り立てて美しいわけではない。帝都まで届くような特別な才能も持ち合わせていない。
ただ皇帝の気紛れ、というのが一番の真実な気がした。
(そんな方に嫁ぐなんて……絶対に嫌だわ……)
内情を知ってますます顔を青ざめさせるリュシエンヌに、父は「安心しなさい」と優しい声で告げた。
「この結婚は断るつもりだ」
「でも……」
「リュシー。私たちはね、あなたを心から大切にしてくれる人と幸せになってほしいの」
「そうだ。だから――ランスロット」
「はっ」
父が扉へ向かって呼びかけると、待機していたランスロットが返事をして部屋へ入ってくる。
リュシエンヌはなぜ父が彼を呼んだのかわからず、困惑した表情を晒す。
「お父様……?」
「ランスロット。そなたは幼い頃からリュシエンヌに仕え、守ってきてくれた。私と妃としては、これからもそなたに娘のそばにいてほしい。――ゆえに、そなたがリュシエンヌと結婚することを認めようと思う」
「お父様!」
リュシエンヌは悲鳴のような声で父を呼んだ。
「突然一体何を言い出すのです!?」
「リュシエンヌ。そなたもそろそろ結婚相手のことを考えるべきだ。だが、誰でもいいわけではない。そなたはセレスト公国の公女であり、私たちの大切な娘なのだから。では適任は誰かというと、ランスロットの他にいないと考えたのだ」
「だからって……そんな突然に……」
リュシエンヌは自分に何も伝えずいきなり提案されたことに不満を覚えた。
「事前に打ち明けていれば、おまえはいろいろと理由をつけて回避しようとするだろう? それではいつまで経っても話が進まない」
娘の性格を両親は実によく理解している。
「リュシー。いきなりこんなことを提案して、ごめんなさいね。でもいずれは考えなければならないことだから」
「それは、わかっているわ……。でもこんな……」
そう言ってリュシエンヌは恐る恐るランスロットを見やる。だが彼の表情を確かめる前にサッと視線を両親に戻した。
「こんなの、命令と一緒よ。ランスロットも、困るわ」
「ふむ……。ランスロット、そなたはどうだ?」
跪いて頭を垂れていたランスロットが、顔を上げる。
「はっ。お二人の大切なご息女であるリュシエンヌ様とご結婚できるのならば、これに勝る名誉と喜びはございません。謹んでお受けしたいと存じます」
笑みを浮かべた、実に清々しい表情で彼はそう言い切った。
そんな彼をリュシエンヌは呆然と見つめていたが、やがて嬉しさと苦々しい思いがないまぜになった気持ちが押し寄せる。
(ランスロットに断れるわけない)
父は彼にとって忠誠を誓った相手だ。一応リュシエンヌの護衛騎士であるが、本来仕えているのはセレスト公国の君主である。いや、そもそもリュシエンヌが結婚してほしいとお願いしても、彼は容易には断ることはできない。
主のお願いは命令にも等しいのだから。
この場で提案し、答えを求める両親のやり方をリュシエンヌは卑怯だと思った。
彼のことを思うならば、もう一度よく考えさせてほしいと頼むべきだ。
だが――
「リュシエンヌ。ランスロットはおまえとの結婚に特に異論はないそうだ。おまえはどうだ? ランスロットではなく、他の男がいいか?」
ランスロットの緑の双眼が、リュシエンヌへ向けられる。
彼女は彼に見つめられ、何も考えられなくなった。
「――いえ、私もランスロットがいいです」
ただ、彼と一緒にいたい。彼以外とは嫌で、誰にも渡したくなかった。
◇
リュシエンヌとランスロットの婚約が発表されても、人々はあまり驚かなかった。
リュシエンヌはあまり社交界にも顔を出さず、異性とも接する姿が見られなかった。そんな中で護衛騎士であるランスロットだけは例外であり、二人が一緒になるのは自然のことのように思えたのだ。
むしろリュシエンヌがランスロット以外と結婚する方が彼らは驚いただろう。
しかしリュシエンヌ本人は、これで本当によかったのか、結婚が正式に決まってもうじうじと悩み続けた。
(デュラン侯爵は、もっと別の女性に嫁がせたかったんじゃないかしら……)
ランスロットの生家、デュラン侯爵家は代々公国に仕える騎士の家系である。
ランスロットの父や兄も、聖アリアーヌ騎士団の団長や大公の護衛をする近衛騎士として忠誠を誓っている。
そんな彼らにとって、ランスロットは自慢の息子であり弟である。
自分のような人間ではなく、もっと素直で可愛げのある女性を嫁に娶るべきだと考えているのではないだろうか……。
(ううん。きっとそうよ。だってランスロットは素敵だもの)
侯爵家だけではなく、彼に仄かな憧れを抱いている令嬢たちもきっと……。
「姫様。何か面倒なこと、考えていませんか?」
ランスロットの顔がすぐ目の前にあり、リュシエンヌは驚いて後ろへ身を引いた。
「……驚かさないで」
「すみません。ですがせっかく俺たちの結婚式について話しているのに、どこか心ここにあらずで、浮かない顔をしていらしたので」
結婚式に向けて、二人が決めることは山のようにある。といっても、実際の準備は周囲が執り行うので、リュシエンヌたちはドレスの採寸や希望を述べるのが主たる役割だ。
「先ほどのドレス、やっぱり気に入りませんか? もっと派手にしちゃいます?」
「ドレスはあれで十分よ。そうじゃなくて……」
結婚相手が自分でいいのか、とリュシエンヌは正直に言えず俯いた。
「もしかして、結婚相手が俺では不安になったとか?」
「違う!」
顔を上げ、瞬時に否定する。
これにはランスロットも驚いたようで、目を真ん丸とさせる。
リュシエンヌも「あ……」と、我に返る。
「あの、決してあなたが嫌ということではなくて……」
「よかった」
「え?」
ランスロットは優しい目でリュシエンヌを見つめ、朗らかに微笑んだ。
「泣いて結婚したくないと懇願されたらどうしようかと不安になっていたので、安心しました」
「……あなたは、嫌ではないの」
「嫌じゃありませんよ。陛下にも言いましたが、あなたと結婚できることはとても嬉しいです」
(本当かしら……)
リュシエンヌの疑わしい気持ちに気づいたのか、不意にランスロットはニヤリと笑った。
「それに、姫様と付き合える男は俺の他にはいませんからね」
「まぁ……。それってどういう意味かしら」
「人見知りが激しく、人付き合いも極力避けたい。放っておけばずっと外に出ず引き籠って体調も崩しがち。それから……」
「もう言わないで!」
リュシエンヌが怒って遮れば、ランスロットは笑って謝る。
(やっぱり妹のように思っているんじゃない)
拗ねた気持ちでそっぽを向けば、ランスロットは優しい声で名前を呼んだ。
応えないでいると、彼は床に跪き、椅子に座っているリュシエンヌの手をそっと包み込んでくる。恋人のように彼から触れられたのは初めてで、リュシエンヌは思わず彼の方を見てしまう。それを待っていたかのようにランスロットは告げた。
「姫様。これからは主としてだけでなく、俺の妻として、貴女を守り、愛を捧げることを誓います。俺が夫となることを許してくれますか?」
婚約式の誓いとは別にランスロットはリュシエンヌに誓いの言葉を述べ、許しを求めている。
(そんなの……)
ひたむきな眼差しに胸が締め付けられ、目頭が熱くなる。
「……ええ、許します」
許すに決まっている。
リュシエンヌの言葉に、ランスロットは幸せそうに目を細めた。
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