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悪い魔法使いとお姫様
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「良い子にしていれば、きっと神は手を差し伸べてくれるはずです」
そんなのは嘘だ。
母親が自殺し、独りぼっちになった幼い子どもを慰めるつもりで神父は言ったのだろうが、ロゼリアの心には何も響かなった。むしろ神を非難したい気持ちでいっぱいだった。
俯いて黙り込むロゼリアの心中を察したのか、神父は毎日礼拝堂へ足を運び、祈りを捧げることを勧めた。神父は周りにいる大人たちの中で一番まともで優しかったから、温もりに飢えていたロゼリアは素直に頷いた。
「一人で帰れますか」
「はい。さようなら、神父さま」
普通は王女が護衛もつけず一人で出歩くことなど、あり得ない。
だが当時ロゼリアの世話を任されていた人間は子どもの世話などしたくないという者ばかりであった。母が自殺したのも、原因だった。
「ロゼリア殿下のそばにいると、呪い殺されるかもしれないわ」
「本当ね。ひょっとしたら母親のマヌエラ様も娘である王女様が殺したのかも」
陰でこそこそと噂していた使用人たちの言葉を思い出しながら、ロゼリアはとぼとぼと部屋へ戻る。
(お母さま……)
胸元のペンダント――母が死に際に渡した形見をぎゅっと握りしめる。
『魔力を注ぎ続けなさい。それで……もう無理だと思った時、死を願いなさい』
溜めこんだ力が解き放たれ自分の身体を跡形もなく吹き飛ばしてくれるだろうから。
母はそう言い残して、隠し持っていた毒を呷り、自分だけ楽になった。
母の最期を思い返す度、ロゼリアは目頭が熱くなり、胸が苦しくなる。
でも今は最後に必ずスッと冷めた感情になって、これからのことを考えるようになった。
「あっ、魔女の娘だ!」
異母兄弟に見つかり、ロゼリアはしまったと慌てた。
彼らは自分たちの母親が日頃からそう言っているのか、不思議な力を受け継いだマヌエラと娘であるロゼリアのことを魔女と罵り、苛めてくる。
この前はべたべたと顔を触られ、髪を引っ張られた。あまり見ない瞳の色を不気味だと笑われ、くり抜いてやると冗談にしてはゾッとすることを言われた。
まともに関わっていれば、絶対にいつか自分は壊される。
本能で悟ったロゼリアは駆け出した。
「あっ、待て!」
「魔女が逃げた! 捕まえて串刺しにしろ!」
とっておきの遊び道具を見つけたとばかりに彼らは生き生きとした表情で追いかけてくる。ロゼリアは恐ろしくて仕方がなかった。
(誰か。誰かわたしを――)
心の叫びを、誰も聞いてはくれない。声を上げても無駄だ。
どこかに隠れて時間が経つのを待っても、部屋の前に待ち伏せされていて、絶望する。
「あの……」
大人に声をかけても、鬱陶しそうに無視されるだけだ。「どうかしたの?」と声をかけられても、脂下がった顔の男性が「可哀想に。私と一緒においで」と気持ち悪い欲望を隠しきれず自分を食べようとする。ロゼリアは無理矢理連れて行こうとする手を振り払って、また逃げ出した。
人気のない図書室の扉を開けて、奥へ奥へ走って、偶然開いていた扉の先に行きついた。
扉を閉めて、その場に座り込む。ようやく落ち着いてくると、一気に恐怖と誰も自分を助けてくれない惨めさに襲われ、膝を抱えて嗚咽を噛み殺した。
(お母さま。どうしてわたしを置いていっちゃったの)
どうして一人で天国に行ってしまったの。どうしてわたしのために生きてくれなかったの。どうして……。
大好きな母を憎んでしまいそうで、ロゼリアは辛かった。しくしくと泣き続けていれば、誰か助けてくれないだろうか。母が生き返って、自分を迎えに来てくれないだろうか。
そんなことを思いながら泣いていたロゼリアだが、逃げ続けた疲労でいつの間にか瞼が重くなり、そのまま横になって眠ってしまった。
起こしてくれる人は誰もおらず、寒さで目が覚めた。
「お母さま……?」
夢に母が出てきた気がして、目を擦りながら起き上がる。ここが狭い書庫の中だとすっかり忘れて足元を見ていなかったロゼリアは、乱雑に積み重ねられていた本に躓いて棚に頭をぶつけてしまう。
「~~っ、痛い……」
涙目で目の前の棚を睨む。そして目の前に並べてあった背表紙がやけに派手なことに気づく。子どもらしい興味の移り変わりで本を引っ張り出し、早速床で読み始めた。
「わっ……」
それは絵本だった。色がついており、仕掛けもある大そう手の込んだ高級な本だ。
真っ黒な夜を背景して、黒いドレスを着たお姫様が残酷に微笑んでいる絵が一頁目から飛び込んできて、ロゼリアは釘付けになる。胸をときめかせながら、白い文字で書かれている文章を声に出して読んでいく。
「わたくしは、悪いお姫様……悪い魔法使いに呪いをかけられて、悪い心を持ってしまったのです……」
お姫様の両親は善良な人間で、娘である彼女のことをとても可愛がっていた。
そんな彼らを憎む悪い魔法使いが、ある日お姫様の心を黒く塗り替えてしまった。
善良な心を失ったお姫様は両親にしてはいけないと言われたことを――夜更かしや甘いものを食べ過ぎるなど可愛らしいものなのだが、次々と実行しては叱られて、今まで好かれていた人間にも嫌われるようになってしまう。
でも、お姫様は悲観したりしなかった。
「わたくしを嫌う者は、嫌えばいい……わたくしはただ、自分が正しいと思うことをしているだけ……わたしくの心は誰にも縛られない、ここがわたくしの居場所ではないと言うならば、わたくしの方から去ってあげる」
十歳だったロゼリアには、お姫様の言っていることを全て理解できたわけではない。悪いことをして開き直っているとも言える。でも――
(かっこいい……)
彼女の運命は理不尽に捻じ曲げられてしまった。嫌われて、他人に理解されなくなった。それでもお姫様は悲嘆することなく、むしろ堂々と自分の人生を歩もうとしている。
「おまえも、みんなに嫌われているのね。ならば、わたくしと一緒にいらっしゃい。わたくしと、一緒に住みましょう」
お姫様は悪い魔法使いを口説き落として、生まれ育った故郷を出ることにした。そして誰も近寄らない孤城で住み始め、自分好みに改築し始める逞しさをみせる。
幽霊が出そうなおどろおどろしい雰囲気を放つ城のページから一転、華やかな城の内装が飛び出す仕掛けにロゼリアは心が弾んだ。
(すてき)
お姫様はさらに人々から嫌われていた火を噴くドラゴンや硬い石も平気で噛み砕く大きな犬たちを手懐けて飼い始める。彼らは人々に忌み嫌われているが、お姫様には嫌われない。大事にしてくれる飼い主を、ドラゴンと犬たちも大好きになった。
そして、諸悪の根源である悪い魔法使いも、次第にお姫様の大胆さと美しい容姿に惹かれていく。二人が夜の大広間で一緒に踊る場面は、特に印象的だ。
「わたくしは幸せよ。たとえ、悪いことをしても、許されなくても、おまえとこうして踊ることができた……わたくしの孤独を埋めてくれる者が、そばにいるのだから……」
お姫様は悪い魔法使いを愛していたのだろうか。描かれた彼女の表情はどこか寂しそうに見える。
物語はそろそろ終盤だ。
隣国の王子が孤城へ訪れ、姫を連れ戻しにやって来た。彼は姫の婚約者で、姫のことをずっと好いていたと言う。以前の姫を取り戻すため剣の腕を磨き、精霊たちの加護を得てとても強くなった。
しかし当然、お姫様たちは彼を追い返そうとする。
「どうかお帰りください。あなたはわたくしたちと住む世界が違うのです。あなたには、一生わたくしの心を理解することはできません」
王子は苦戦したものの、剣で襲いかかってくる犬たちの胴体を切り裂き、火を噴くドラゴンに乗ってお姫様のいる尖塔に飛び移った。お姫様のそばには悪い魔法使いがいた。清く正しい心を持つ王子に邪悪な魔法は効かない。
王子様は悪い魔法使いを窓際まで追い詰め、地上へ突き落とす。
その時お姫様は、窓から身を乗り出し、悪い魔法使いの手を掴んだ。
二人は一緒にドラゴンの吐いた火の海に落ちていくかと思われたが、お姫様は王子様に助けられて、必死に掴んでいた魔法使いの手を放してしまった。
魔法使いは一人、火の海に落ちていく。彼を助けようとしたドラゴンも一緒に火の海に飛び込んでいき、自分の身体を焼いてしまった。
お姫様は絶望で、悪い心に塗り替えられてから一度も流さなかった涙をたくさん溢れさせた。その涙は悪い魔法使いによって黒く染まっていた心の闇を溶かし、元の綺麗な心に戻した。
その後、お姫様は城へ戻り、王子様と結婚する。両親や友人たちも、以前の優しいお姫様に戻った彼女を再び愛するようになった。
(これで、終わり……)
正直、後半の流れに不満はある。
お姫様はそれでよかったの? という気持ちになる。
(でも、悪い魔法使いのせいで心を変えられたから、この結末が正しいのかな……)
悪人はどうあっても悪人だ。最期には罰が下される。
そんな教訓を子どもながらに読み取り、ロゼリアは本を胸に抱きしめた。
(可哀想な魔法使い……でも、彼はお姫様に会えて幸せだった気がする)
お姫様に出会うまで、悪い魔法使いの心を理解する者は誰もいなかったのだから。
それは人々にとって悪の象徴であるドラゴンや、害しか及ぼさない犬たちにも言えた。
(わたしも、このお姫様のように強くありたい)
周りに誰も味方がいなくても、悲嘆せず、自分の思うように真っすぐに前を向いて歩くのだ。
ロゼリアは閉じていた瞼をゆっくり開けて、絵本を本棚に仕舞い、図書室を後にした。
そんなのは嘘だ。
母親が自殺し、独りぼっちになった幼い子どもを慰めるつもりで神父は言ったのだろうが、ロゼリアの心には何も響かなった。むしろ神を非難したい気持ちでいっぱいだった。
俯いて黙り込むロゼリアの心中を察したのか、神父は毎日礼拝堂へ足を運び、祈りを捧げることを勧めた。神父は周りにいる大人たちの中で一番まともで優しかったから、温もりに飢えていたロゼリアは素直に頷いた。
「一人で帰れますか」
「はい。さようなら、神父さま」
普通は王女が護衛もつけず一人で出歩くことなど、あり得ない。
だが当時ロゼリアの世話を任されていた人間は子どもの世話などしたくないという者ばかりであった。母が自殺したのも、原因だった。
「ロゼリア殿下のそばにいると、呪い殺されるかもしれないわ」
「本当ね。ひょっとしたら母親のマヌエラ様も娘である王女様が殺したのかも」
陰でこそこそと噂していた使用人たちの言葉を思い出しながら、ロゼリアはとぼとぼと部屋へ戻る。
(お母さま……)
胸元のペンダント――母が死に際に渡した形見をぎゅっと握りしめる。
『魔力を注ぎ続けなさい。それで……もう無理だと思った時、死を願いなさい』
溜めこんだ力が解き放たれ自分の身体を跡形もなく吹き飛ばしてくれるだろうから。
母はそう言い残して、隠し持っていた毒を呷り、自分だけ楽になった。
母の最期を思い返す度、ロゼリアは目頭が熱くなり、胸が苦しくなる。
でも今は最後に必ずスッと冷めた感情になって、これからのことを考えるようになった。
「あっ、魔女の娘だ!」
異母兄弟に見つかり、ロゼリアはしまったと慌てた。
彼らは自分たちの母親が日頃からそう言っているのか、不思議な力を受け継いだマヌエラと娘であるロゼリアのことを魔女と罵り、苛めてくる。
この前はべたべたと顔を触られ、髪を引っ張られた。あまり見ない瞳の色を不気味だと笑われ、くり抜いてやると冗談にしてはゾッとすることを言われた。
まともに関わっていれば、絶対にいつか自分は壊される。
本能で悟ったロゼリアは駆け出した。
「あっ、待て!」
「魔女が逃げた! 捕まえて串刺しにしろ!」
とっておきの遊び道具を見つけたとばかりに彼らは生き生きとした表情で追いかけてくる。ロゼリアは恐ろしくて仕方がなかった。
(誰か。誰かわたしを――)
心の叫びを、誰も聞いてはくれない。声を上げても無駄だ。
どこかに隠れて時間が経つのを待っても、部屋の前に待ち伏せされていて、絶望する。
「あの……」
大人に声をかけても、鬱陶しそうに無視されるだけだ。「どうかしたの?」と声をかけられても、脂下がった顔の男性が「可哀想に。私と一緒においで」と気持ち悪い欲望を隠しきれず自分を食べようとする。ロゼリアは無理矢理連れて行こうとする手を振り払って、また逃げ出した。
人気のない図書室の扉を開けて、奥へ奥へ走って、偶然開いていた扉の先に行きついた。
扉を閉めて、その場に座り込む。ようやく落ち着いてくると、一気に恐怖と誰も自分を助けてくれない惨めさに襲われ、膝を抱えて嗚咽を噛み殺した。
(お母さま。どうしてわたしを置いていっちゃったの)
どうして一人で天国に行ってしまったの。どうしてわたしのために生きてくれなかったの。どうして……。
大好きな母を憎んでしまいそうで、ロゼリアは辛かった。しくしくと泣き続けていれば、誰か助けてくれないだろうか。母が生き返って、自分を迎えに来てくれないだろうか。
そんなことを思いながら泣いていたロゼリアだが、逃げ続けた疲労でいつの間にか瞼が重くなり、そのまま横になって眠ってしまった。
起こしてくれる人は誰もおらず、寒さで目が覚めた。
「お母さま……?」
夢に母が出てきた気がして、目を擦りながら起き上がる。ここが狭い書庫の中だとすっかり忘れて足元を見ていなかったロゼリアは、乱雑に積み重ねられていた本に躓いて棚に頭をぶつけてしまう。
「~~っ、痛い……」
涙目で目の前の棚を睨む。そして目の前に並べてあった背表紙がやけに派手なことに気づく。子どもらしい興味の移り変わりで本を引っ張り出し、早速床で読み始めた。
「わっ……」
それは絵本だった。色がついており、仕掛けもある大そう手の込んだ高級な本だ。
真っ黒な夜を背景して、黒いドレスを着たお姫様が残酷に微笑んでいる絵が一頁目から飛び込んできて、ロゼリアは釘付けになる。胸をときめかせながら、白い文字で書かれている文章を声に出して読んでいく。
「わたくしは、悪いお姫様……悪い魔法使いに呪いをかけられて、悪い心を持ってしまったのです……」
お姫様の両親は善良な人間で、娘である彼女のことをとても可愛がっていた。
そんな彼らを憎む悪い魔法使いが、ある日お姫様の心を黒く塗り替えてしまった。
善良な心を失ったお姫様は両親にしてはいけないと言われたことを――夜更かしや甘いものを食べ過ぎるなど可愛らしいものなのだが、次々と実行しては叱られて、今まで好かれていた人間にも嫌われるようになってしまう。
でも、お姫様は悲観したりしなかった。
「わたくしを嫌う者は、嫌えばいい……わたくしはただ、自分が正しいと思うことをしているだけ……わたしくの心は誰にも縛られない、ここがわたくしの居場所ではないと言うならば、わたくしの方から去ってあげる」
十歳だったロゼリアには、お姫様の言っていることを全て理解できたわけではない。悪いことをして開き直っているとも言える。でも――
(かっこいい……)
彼女の運命は理不尽に捻じ曲げられてしまった。嫌われて、他人に理解されなくなった。それでもお姫様は悲嘆することなく、むしろ堂々と自分の人生を歩もうとしている。
「おまえも、みんなに嫌われているのね。ならば、わたくしと一緒にいらっしゃい。わたくしと、一緒に住みましょう」
お姫様は悪い魔法使いを口説き落として、生まれ育った故郷を出ることにした。そして誰も近寄らない孤城で住み始め、自分好みに改築し始める逞しさをみせる。
幽霊が出そうなおどろおどろしい雰囲気を放つ城のページから一転、華やかな城の内装が飛び出す仕掛けにロゼリアは心が弾んだ。
(すてき)
お姫様はさらに人々から嫌われていた火を噴くドラゴンや硬い石も平気で噛み砕く大きな犬たちを手懐けて飼い始める。彼らは人々に忌み嫌われているが、お姫様には嫌われない。大事にしてくれる飼い主を、ドラゴンと犬たちも大好きになった。
そして、諸悪の根源である悪い魔法使いも、次第にお姫様の大胆さと美しい容姿に惹かれていく。二人が夜の大広間で一緒に踊る場面は、特に印象的だ。
「わたくしは幸せよ。たとえ、悪いことをしても、許されなくても、おまえとこうして踊ることができた……わたくしの孤独を埋めてくれる者が、そばにいるのだから……」
お姫様は悪い魔法使いを愛していたのだろうか。描かれた彼女の表情はどこか寂しそうに見える。
物語はそろそろ終盤だ。
隣国の王子が孤城へ訪れ、姫を連れ戻しにやって来た。彼は姫の婚約者で、姫のことをずっと好いていたと言う。以前の姫を取り戻すため剣の腕を磨き、精霊たちの加護を得てとても強くなった。
しかし当然、お姫様たちは彼を追い返そうとする。
「どうかお帰りください。あなたはわたくしたちと住む世界が違うのです。あなたには、一生わたくしの心を理解することはできません」
王子は苦戦したものの、剣で襲いかかってくる犬たちの胴体を切り裂き、火を噴くドラゴンに乗ってお姫様のいる尖塔に飛び移った。お姫様のそばには悪い魔法使いがいた。清く正しい心を持つ王子に邪悪な魔法は効かない。
王子様は悪い魔法使いを窓際まで追い詰め、地上へ突き落とす。
その時お姫様は、窓から身を乗り出し、悪い魔法使いの手を掴んだ。
二人は一緒にドラゴンの吐いた火の海に落ちていくかと思われたが、お姫様は王子様に助けられて、必死に掴んでいた魔法使いの手を放してしまった。
魔法使いは一人、火の海に落ちていく。彼を助けようとしたドラゴンも一緒に火の海に飛び込んでいき、自分の身体を焼いてしまった。
お姫様は絶望で、悪い心に塗り替えられてから一度も流さなかった涙をたくさん溢れさせた。その涙は悪い魔法使いによって黒く染まっていた心の闇を溶かし、元の綺麗な心に戻した。
その後、お姫様は城へ戻り、王子様と結婚する。両親や友人たちも、以前の優しいお姫様に戻った彼女を再び愛するようになった。
(これで、終わり……)
正直、後半の流れに不満はある。
お姫様はそれでよかったの? という気持ちになる。
(でも、悪い魔法使いのせいで心を変えられたから、この結末が正しいのかな……)
悪人はどうあっても悪人だ。最期には罰が下される。
そんな教訓を子どもながらに読み取り、ロゼリアは本を胸に抱きしめた。
(可哀想な魔法使い……でも、彼はお姫様に会えて幸せだった気がする)
お姫様に出会うまで、悪い魔法使いの心を理解する者は誰もいなかったのだから。
それは人々にとって悪の象徴であるドラゴンや、害しか及ぼさない犬たちにも言えた。
(わたしも、このお姫様のように強くありたい)
周りに誰も味方がいなくても、悲嘆せず、自分の思うように真っすぐに前を向いて歩くのだ。
ロゼリアは閉じていた瞼をゆっくり開けて、絵本を本棚に仕舞い、図書室を後にした。
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