【完】箱庭の王妃はモフモフに包まれ真綿の夢を見る~婚約無効からの真実~

桜 鴬

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 大声で私に意見をし、最期にはシクシクと泣き出してしまったミルキィさん。胸の前で両手を組み、まるで祈りのポーズのようですね。フルフルと震えながら、上目使いで私を見つめています。
 ………………そんな目で見られても、私にはなにも言えませんし出来ません。私が男性でしたら、庇護欲を誘うとか、可愛そうになど感じるのでしょうか?正直言いますと女の私としては、『媚売ってんじゃねぇよ!』と叫びたい気分です。とにかく私に媚びても、なんのお得もございません。何しろ私には決定権がございません。
 まあ謝罪ならば私にも出来ますが、どなたになにを謝罪すれば良ろしいのでしょう?苛めとやらはまったく身に覚えがございませんし、婚約を継続しているのは私の意思ではございません。政略ですからね。こんなこと貴族であれば学園で学ぶことです。もちろん当たり前ですけど、どちらの学園でも一般常識は必須ですよ?私が呆れて見ていると、まんまる目玉を潤ませながら、私を睨み更に顔をグイグイと近づけて来ます。うっとうしいです。
 はて?その近づけてくるふくらませた頬を、私に捻って欲しいのでしょうか?それとも平手打ちに?まあそれならば捻りあげて差し上げましょう。しかしそういうわけにはいかないのです。私はあくまでも『冤罪をかけられ、ミルキィさんと王太子様のために身をひいた婚約者』なのです。その状態でここから退場しなければなりません。なんてグチグチごめんなさいね。今回ざまぁは、私の領分ではないのです。
 なんて脳内で突っ込みつつため息をつきます。さてエドウィン様のターンですが?早く始めてくれませんか?
 エドウィン様と側近のお三方は、可愛そうに……偉かったね……頑張ったね……と、彼女に群がり宥めています。『謝ってくれないんですー。酷いんですー』なんていかれポンチなピンク色がぼやいてますが、やはり殴って欲しいわけではないのですね。残念。もちろんすべてスルーです。
 おや?気がつくとチラチラと、ミルキィさんをみて赤く頬を染めてる男性陣が!これは不味いですね。徐々に汚染が広まり始めています。さっさと進行して欲しいです。エドウィンはよせい!余計にイライラしてきちゃうじゃない!
 ミルキィさんをを背中に庇うように隠したエドウィン様が、ようやく私にむけて大声をはっし始めました。
「皆のもの!しっかりと聞いて欲しい!私はアリエルとの婚約を無効とする!弱き者を虐げる様な女と結婚など出来ない!か弱き女性たちを、嫉妬から虐めたそうだな!私は心正しき優しい者と結婚する!凄惨な場にも目をそらさない。悲しみにも負けずに微笑みと慈愛を忘れない。その心根に惚れたのだ!真実の愛に生きたいのだ!」
 はい良くできました。さすが王太子様です。
 騎士団長子息が続く……。
「身分にどんな価値が有るのだ?貴様には身分しか価値が無いから、虐めなどの卑怯な事が出来るのだ!次期騎士団長の私が、卑怯な貴様を成敗してくれるわ!」
 自信が凄いな……騎士団長は世襲じゃないはずです。再教育が必要ですね。
「貴女は卑怯で性格の悪い女性ですね。自身の手を汚さず取り巻きに手を下させる。潔く自ら頭を下げなさい。出来ぬなら次期魔術師団長たる私が、魔法にて地べたを舐めさせて差し上げましょうか?」
 魔術師団長も世襲じゃないはずです。なぜこんなに自信満々なのでしょうか?しかも取り巻きって言い方は失礼じゃ有りませんか?私には友だちしかおりません!取り巻きなんて下品な言い方をするなんて、性格が悪いのはそちらではないのでしょうか?こちらも再教育です!
「まさか暴漢にミルキィさんを襲わせるなんて、そんな恐ろしいことをするとは思いませんでしたよ。彼女は運良く無事に助け出されました。捕らえられた犯人たちは、あなたに頼まれたと自白しています。公爵令嬢ともあろう方が、本当に情けない……次期宰相たる私が、真実を暴いて差し上げましょう!」
 このお三方はダメダメですね。すっかり魅縛されています。もう少し心を鍛えましょう。あと頭も使いましょうね?あなた方の頭は飾りではないのです。よく考えて見てください。私は公爵令嬢です。深窓のご令嬢ですよ?ならず者が私の顔を知るわけがございません。ちなみに私はこのお三方の顔も知りませんでしたし、ミルキィさんのお顔も、今初めて拝見しましたよ?ミルキィさんもお三方も、私の顔を見たのは今日が初めてではないのでしょうか?学園の食堂で覗きでもしない限り、深窓のご令嬢筆頭である、公爵令嬢の私の顔を、我が家より下位の貴族が拝顔など出来ません。これはもう、呆れてなにもいえませんね……
「アリー!いやっ…エル!アリエル!言い訳はないのか?ならば肯定と見なす。アリエルを市民落ちにしろ!衛兵!このまま城の外にほうり出してこい」
 エドウィン様?この場では確かに貴方は最高責任者よ。でも婚約は国王権限なの。しかも兵が動かないじゃない。それは王が貴方の指揮権を認めていないことになる。つまり王太子でも勝手は出来ないのよ?まあこの後の進行はご本人にお任せしていますので、どうぞ上手くやって頂戴な。私は大っぴらに退場できて助かります。
 案の定、衛兵は全く動きませんね。
「おい騎士団!こいつを牢に連れていけ!早くしろ!」
 自称次期騎士団長も怒鳴っているけど、やはり完璧にスルーよね。本当に助かります。私は婚約無効上等です。すぐにおいとま致します。
 でもね?なぜ皆様こんなに簡単なことに気づかないのかしら?まあ。気づいていても言えないのでしょう。王太子様がバカだと宣言するようなものですから。でも少し可愛そうね……。
 『この高等貴族学園の入学資格は高位貴族のみ。伯爵位以上でなければ通えません』
 学園にいないはずの男爵令嬢のミルキィさんを、公爵令嬢である私がどのように虐げたのでしょう。彼女は通常の貴族学園に通うはずです。まさかこちらの学園に紛れ込んでいたのでしょうか?食堂で下働きでもしていたのですか?まあそれはどうでも良いことです。さっさとトンズラです。
「私は言い訳など致しません。私がなにを言っても信じては貰えないのでしょう?信じあえぬ伴侶など、こちらこそ遠慮致します。願い下げです!それでは皆様失礼!婚約無効上等ですわ!すぐにでも城下へ下ります。ですが最期にこれをお祝いとして皆様へ……」
 私は隠し持っていた袋を取り出します。素早くエドウィン様に近より、手首にブレスをはめます。絡み付いているミルキィさんの手首にも、ついでとばかりにはめちゃいます。『お二人に何をする!』と、私を止めようと拘束にかかる側近三人。そこにエドウィン様が止めに入ってきました。私はエドウィン様の目を覗き見ます。どうやら大丈夫のようですね。私はブレスの入った袋を手渡します。
 「では後は宜しくお願い致します。悪役令嬢は去りますわ。皆様お幸せにーー!」
 私の言葉にざわめく会場。私はエドウィン様たちに華麗にカーテシーをきめ、クルリと振り返り扉へ向かいます。エドウィン様は私が手渡した袋からブレスを取りだし、側近たちへ次々とはめ始めています。私が安心して歩き出すとほぼ同時に、扉がバタンと開きました。見ると第二王子のフレッド様が飛び込んできます。はて?なにごとでしょうか?こんな予定はございませんでしたが……?
 途端に静まり返る会場内……。
 「ちょっとまったー!アリエル嬢!濡れ衣を着せられたまま退場しないでー!兄上たちのことはキチンと処理するし、ゲスはお花畑の国に国外追放するから!どこにも行かないで安心して僕と結婚してーー!父王にも許可を貰ったよーー!僕は君を愛してるーー!君も僕を愛しているはずだー!」
 ……………………いーやー!フレッド様が変よー。余計なことしないでー!お花畑の国ってなによー!しかも突然愛してるとか言うなー!しかもなぜ私も愛してることになっているの?やだ怖い……とにかく早足よ!ドレスが邪魔でダッシュできないのが辛い…………
 「アリエル!止まれ!私の言葉は国王命令だ!逆らえば市民落ちなど生ぬるい。王族を謀った刑により、一族郎党縛り首だ。もちろん君の首は一番最後だ。一族の末路を確認させ、絶望してから殺してあげる。まあ国としても忠臣を失うのは辛い。ならば家族の首を貰う前に私との婚儀に首を縦に振らせるまでだ。幾らでもやり方はある。君は己が傷つくより、身内に甘いからね」
 身内に甘いのは誰でも同じでしょ!いきなり暴君ですか?怖すぎます!
「まずは我が親友の拷問からいこうか?爪をすべて剥がそう。酷い?なら君に拷問をしようか?監禁して辱しめよう。もちろん死なせない。すぐにでも首を縦に振りたくなるように、死ぬほど可愛がってあげる。この茶番劇の裏はすべて取れているんだ。父王から裁きの権限も譲渡されている。今ここでの最高権力者は私だよ。さあどうする?アリエル?」
 なによこれってヤンデレ?一人称まで変わってるし、お兄ちゃんと慕って、親友とまでいう私の弟を拷問出来るわけ?しかも監禁して辱しめる?死ぬほど可愛がるって!そんな言葉を知っているなんて!お姉様は絶対に許しませんよ!可愛らしい顔した弟が、いきなり魔王にジョブチェンジですか?そんなのイヤー!怖すぎる…………かわいさ余って憎さ百倍よ!憎さより恐怖かしら?くるな!よるな!あっち行け!エドウィン様ーーっ!あーー……すっ既に囲まれている……
 これは……もう…………無理ね…………

誰か助けて!このバカ王子ーー!

 *****
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