2 / 21
②
しおりを挟む大声で私に意見をし、最期にはシクシクと泣き出してしまったミルキィさん。胸の前で両手を組み、まるで祈りのポーズのようですね。フルフルと震えながら、上目使いで私を見つめています。
………………そんな目で見られても、私にはなにも言えませんし出来ません。私が男性でしたら、庇護欲を誘うとか、可愛そうになど感じるのでしょうか?正直言いますと女の私としては、『媚売ってんじゃねぇよ!』と叫びたい気分です。とにかく私に媚びても、なんのお得もございません。何しろ私には決定権がございません。
まあ謝罪ならば私にも出来ますが、どなたになにを謝罪すれば良ろしいのでしょう?苛めとやらはまったく身に覚えがございませんし、婚約を継続しているのは私の意思ではございません。政略ですからね。こんなこと貴族であれば学園で学ぶことです。もちろん当たり前ですけど、どちらの学園でも一般常識は必須ですよ?私が呆れて見ていると、まんまる目玉を潤ませながら、私を睨み更に顔をグイグイと近づけて来ます。うっとうしいです。
はて?その近づけてくるふくらませた頬を、私に捻って欲しいのでしょうか?それとも平手打ちに?まあそれならば捻りあげて差し上げましょう。しかしそういうわけにはいかないのです。私はあくまでも『冤罪をかけられ、ミルキィさんと王太子様のために身をひいた婚約者』なのです。その状態でここから退場しなければなりません。なんてグチグチごめんなさいね。今回ざまぁは、私の領分ではないのです。
なんて脳内で突っ込みつつため息をつきます。さてエドウィン様のターンですが?早く始めてくれませんか?
エドウィン様と側近のお三方は、可愛そうに……偉かったね……頑張ったね……と、彼女に群がり宥めています。『謝ってくれないんですー。酷いんですー』なんていかれポンチなピンク色がぼやいてますが、やはり殴って欲しいわけではないのですね。残念。もちろんすべてスルーです。
おや?気がつくとチラチラと、ミルキィさんをみて赤く頬を染めてる男性陣が!これは不味いですね。徐々に汚染が広まり始めています。さっさと進行して欲しいです。エドウィンはよせい!余計にイライラしてきちゃうじゃない!
ミルキィさんをを背中に庇うように隠したエドウィン様が、ようやく私にむけて大声をはっし始めました。
「皆のもの!しっかりと聞いて欲しい!私はアリエルとの婚約を無効とする!弱き者を虐げる様な女と結婚など出来ない!か弱き女性たちを、嫉妬から虐めたそうだな!私は心正しき優しい者と結婚する!凄惨な場にも目をそらさない。悲しみにも負けずに微笑みと慈愛を忘れない。その心根に惚れたのだ!真実の愛に生きたいのだ!」
はい良くできました。さすが王太子様です。
騎士団長子息が続く……。
「身分にどんな価値が有るのだ?貴様には身分しか価値が無いから、虐めなどの卑怯な事が出来るのだ!次期騎士団長の私が、卑怯な貴様を成敗してくれるわ!」
自信が凄いな……騎士団長は世襲じゃないはずです。再教育が必要ですね。
「貴女は卑怯で性格の悪い女性ですね。自身の手を汚さず取り巻きに手を下させる。潔く自ら頭を下げなさい。出来ぬなら次期魔術師団長たる私が、魔法にて地べたを舐めさせて差し上げましょうか?」
魔術師団長も世襲じゃないはずです。なぜこんなに自信満々なのでしょうか?しかも取り巻きって言い方は失礼じゃ有りませんか?私には友だちしかおりません!取り巻きなんて下品な言い方をするなんて、性格が悪いのはそちらではないのでしょうか?こちらも再教育です!
「まさか暴漢にミルキィさんを襲わせるなんて、そんな恐ろしいことをするとは思いませんでしたよ。彼女は運良く無事に助け出されました。捕らえられた犯人たちは、あなたに頼まれたと自白しています。公爵令嬢ともあろう方が、本当に情けない……次期宰相たる私が、真実を暴いて差し上げましょう!」
このお三方はダメダメですね。すっかり魅縛されています。もう少し心を鍛えましょう。あと頭も使いましょうね?あなた方の頭は飾りではないのです。よく考えて見てください。私は公爵令嬢です。深窓のご令嬢ですよ?ならず者が私の顔を知るわけがございません。ちなみに私はこのお三方の顔も知りませんでしたし、ミルキィさんのお顔も、今初めて拝見しましたよ?ミルキィさんもお三方も、私の顔を見たのは今日が初めてではないのでしょうか?学園の食堂で覗きでもしない限り、深窓のご令嬢筆頭である、公爵令嬢の私の顔を、我が家より下位の貴族が拝顔など出来ません。これはもう、呆れてなにもいえませんね……
「アリー!いやっ…エル!アリエル!言い訳はないのか?ならば肯定と見なす。アリエルを市民落ちにしろ!衛兵!このまま城の外にほうり出してこい」
エドウィン様?この場では確かに貴方は最高責任者よ。でも婚約は国王権限なの。しかも兵が動かないじゃない。それは王が貴方の指揮権を認めていないことになる。つまり王太子でも勝手は出来ないのよ?まあこの後の進行はご本人にお任せしていますので、どうぞ上手くやって頂戴な。私は大っぴらに退場できて助かります。
案の定、衛兵は全く動きませんね。
「おい騎士団!こいつを牢に連れていけ!早くしろ!」
自称次期騎士団長も怒鳴っているけど、やはり完璧にスルーよね。本当に助かります。私は婚約無効上等です。すぐにおいとま致します。
でもね?なぜ皆様こんなに簡単なことに気づかないのかしら?まあ。気づいていても言えないのでしょう。王太子様がバカだと宣言するようなものですから。でも少し可愛そうね……。
『この高等貴族学園の入学資格は高位貴族のみ。伯爵位以上でなければ通えません』
学園にいないはずの男爵令嬢のミルキィさんを、公爵令嬢である私がどのように虐げたのでしょう。彼女は通常の貴族学園に通うはずです。まさかこちらの学園に紛れ込んでいたのでしょうか?食堂で下働きでもしていたのですか?まあそれはどうでも良いことです。さっさとトンズラです。
「私は言い訳など致しません。私がなにを言っても信じては貰えないのでしょう?信じあえぬ伴侶など、こちらこそ遠慮致します。願い下げです!それでは皆様失礼!婚約無効上等ですわ!すぐにでも城下へ下ります。ですが最期にこれをお祝いとして皆様へ……」
私は隠し持っていた袋を取り出します。素早くエドウィン様に近より、手首にブレスをはめます。絡み付いているミルキィさんの手首にも、ついでとばかりにはめちゃいます。『お二人に何をする!』と、私を止めようと拘束にかかる側近三人。そこにエドウィン様が止めに入ってきました。私はエドウィン様の目を覗き見ます。どうやら大丈夫のようですね。私はブレスの入った袋を手渡します。
「では後は宜しくお願い致します。悪役令嬢は去りますわ。皆様お幸せにーー!」
私の言葉にざわめく会場。私はエドウィン様たちに華麗にカーテシーをきめ、クルリと振り返り扉へ向かいます。エドウィン様は私が手渡した袋からブレスを取りだし、側近たちへ次々とはめ始めています。私が安心して歩き出すとほぼ同時に、扉がバタンと開きました。見ると第二王子のフレッド様が飛び込んできます。はて?なにごとでしょうか?こんな予定はございませんでしたが……?
途端に静まり返る会場内……。
「ちょっとまったー!アリエル嬢!濡れ衣を着せられたまま退場しないでー!兄上たちのことはキチンと処理するし、ゲスはお花畑の国に国外追放するから!どこにも行かないで安心して僕と結婚してーー!父王にも許可を貰ったよーー!僕は君を愛してるーー!君も僕を愛しているはずだー!」
……………………いーやー!フレッド様が変よー。余計なことしないでー!お花畑の国ってなによー!しかも突然愛してるとか言うなー!しかもなぜ私も愛してることになっているの?やだ怖い……とにかく早足よ!ドレスが邪魔でダッシュできないのが辛い…………
「アリエル!止まれ!私の言葉は国王命令だ!逆らえば市民落ちなど生ぬるい。王族を謀った刑により、一族郎党縛り首だ。もちろん君の首は一番最後だ。一族の末路を確認させ、絶望してから殺してあげる。まあ国としても忠臣を失うのは辛い。ならば家族の首を貰う前に私との婚儀に首を縦に振らせるまでだ。幾らでもやり方はある。君は己が傷つくより、身内に甘いからね」
身内に甘いのは誰でも同じでしょ!いきなり暴君ですか?怖すぎます!
「まずは我が親友の拷問からいこうか?爪をすべて剥がそう。酷い?なら君に拷問をしようか?監禁して辱しめよう。もちろん死なせない。すぐにでも首を縦に振りたくなるように、死ぬほど可愛がってあげる。この茶番劇の裏はすべて取れているんだ。父王から裁きの権限も譲渡されている。今ここでの最高権力者は私だよ。さあどうする?アリエル?」
なによこれってヤンデレ?一人称まで変わってるし、お兄ちゃんと慕って、親友とまでいう私の弟を拷問出来るわけ?しかも監禁して辱しめる?死ぬほど可愛がるって!そんな言葉を知っているなんて!お姉様は絶対に許しませんよ!可愛らしい顔した弟が、いきなり魔王にジョブチェンジですか?そんなのイヤー!怖すぎる…………かわいさ余って憎さ百倍よ!憎さより恐怖かしら?くるな!よるな!あっち行け!エドウィン様ーーっ!あーー……すっ既に囲まれている……
これは……もう…………無理ね…………
誰か助けて!このバカ王子ーー!
*****
0
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます
ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」
王子による公開断罪。
悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。
だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。
花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり——
「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」
そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。
婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、
テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる