【本編完結】王女殿下の華麗なる「ざまぁ」【番外編更新中】

ばぅ

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第七章:卒業パーティ

卒業パーティ(1)

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 魔道具・魔法学コンテストの結果発表日から、あっという間に数週間もの時間が経過した。今日は卒業パーティ当日、朝から公爵家の屋敷はいつも以上に活気づいていた。アーノルト伯爵家の屋敷が会場から遠いことを理由に、キャサリンが昨夜から公爵家に滞在しており、準備に余念がないからだ。彼女はすでに美容師と侍女たちを総動員し、部屋の中からは髪を整える音や、ドレスのシワを伸ばすスチームの音が聞こえてくる。



 一方、セドリックは自室で身支度を進めながら、鏡に映る自分をじっと見つめていた。シックなブラウンを基調にしたデザインの正装で、ボタンなどの装飾品は上質な琥珀を使っている。王都一の仕立て屋にオーダーメイドさせたその装いは、セドリック自身の凛々しさを一層引き立てるように仕立てられており、その胸には公爵家の紋章を模した金色のブローチが輝いている。



 学園最後の夜。生徒たちが一堂に会し、思い出を共有し、未来への希望を語る場。それはただのパーティではなく、青春の日々に幕を下ろす儀式のようなものだった。

そして、この場でセドリックの隣に立つエレノアが、どれほど美しく輝くだろうか――そう考えると胸の高鳴りを抑えられなかった。



 今回、セドリックがエレノアに贈ったのは、黒地に金糸で緻密な刺繍を施したドレスだった。重厚感のある黒に、まるで夜空を彩る星のように輝く金の装飾が映え、見る者を圧倒するデザイン。彼女の美しさと品格、そして芯の強さを象徴するような一着だ。さらに、純度の高い金を使用したアクセサリーを添えている。どちらも一流の職人が手がけた品であり、セドリック自身が何度も確認を重ね、最高のものを選び抜いた。



「エレノアに似合うのは当然として……少し独占欲が強すぎたかな」



 セドリックは苦笑しながらも、その選択に一片の後悔もなかった。



 そんな彼の独り言を耳ざとく聞きつけたのか、ノックもなく扉が開き、キャサリンが顔を覗かせる。



「お兄様、何をひとりでニヤニヤしているんですの?」



「…ノックくらいしろと、前も言っただろ」



 呆れるセドリックに構わず、キャサリンは意味深な笑みを浮かべながらセドリックを覗き込んだ。



「さっき、公爵家のメイドさんに、お兄様がエレノア様に贈ったドレスの色をお聞きしましたのよ。黒と金だなんて……まるでお兄様そのものじゃないですか。独占欲、強すぎですわ」



「……くだらないことを言うな」



 セドリックは顔をしかめたが、心のどこかで図星を突かれた気もした。



「お前こそ、準備は終わったのか?」



「ええ、先ほどようやく終わりましたわ!お兄様、会場まで送っていただけるだけでなく、公爵家のメイドまで貸していただき、心から感謝いたしますわ」



 キャサリンは恭しく礼をする。



「まぁ、お前はこの公爵家の第二子みたいなものだからな。母様だって、まるで自分の娘が卒業するかのような感激ぶりだったぞ…むしろ俺の正装をみた時よりも感動してた気がするしな」



 今朝のことを思い出し、キャサリンとセドリックは顔を見合わせて笑う。



 キャサリンが身に纏っているのは、銀に近い鮮やかな白のドレス。その上品な光沢が彼女の明るく快活な性格をそのまま映し出しているようだった。アクセサリーには、深い青のサファイアが散りばめられたネックレスとイヤリングを選んでいる。プラチナ色と青の対比が映えるその装いは、キャサリン自身の若々しさとエレガントさを見事に表現していた。



「どうかしら?」



 キャサリンはスカートを軽く持ち上げて見せながら、にっこりと笑った。



「これ、ノエルから贈られたドレスですのよ。素敵でしょう?」



「ノエルがドレスを?」



 セドリックは少し驚いた様子で尋ね返す。



「ええ、ノエルったら、『卒業式は、ドレスの色を合わせたい』って言ってきたんですの。それで、私が了承したら、こんな立派なものを送ってきて……正直、あまりにも高そうで一度返そうとしたんですけれど、ノエルがすごく悲しそうな顔をしたものだから、結局返せませんでしたの」



 セドリックはふっと鼻で笑い、彼女をじっと見つめた。キャサリンがそのドレスを嬉しそうに眺める様子に、セドリックは少し呆れたように肩をすくめた。



「それにしても、あいつの愛情も結構重いな」



「そうですの?」



「仲が良すぎにもほどがあるだろ」



 その言葉にキャサリンはくすりと笑い、



「お兄様、嫉妬しているように聞こえますわ」



 と挑発するように返した。



 セドリックはため息をつきながらも、妹分の晴れ姿を素直に褒めた。



「まあ…とにかく、そのドレス、とてもよく似合っているよ。それだけは認めてやる」



「まあ、お兄様からこんなに素直に褒められるなんて!」



 キャサリンは嬉しそうに顔を赤らめながらも、どこか得意気な表情を浮かべていた。



 セドリックは時計を確認すると、「そろそろエレノアとノエルを迎えに行く時間だな」と呟いた。ノエルもキャサリンとお揃いの色のドレスを身につけているはずだ。二人でどれほどの華やかさを放つのか、少し興味が湧いてくる。
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