石ころ令嬢

あきづきみなと

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お茶会が終わり、這々の体で帰宅したステイシアに侍女が心配そうな声を掛けてくる。
「ステイシアお嬢様、如何なさいました?お顔の色が良くありませんが……」
「ええ、ちょっとね……ちょっと、気疲れしてしまって」
「……あの、ステイシアお嬢様。……ステファニーお嬢様は、ご一緒ではなかったのですか?」
続けて問われてステイシアは表情を強張らせた。
「……お姉様は、お茶会からご友人に誘われてお出掛けになったの。……そのことでご相談したいのだけど、お父様かお兄様はいらっしゃるかしら」
「お二人でしたら、旦那様の執務室と思われますが」
「そう、ありがとう」
エルロッド子爵家は、子爵家としては裕福な方だ。とは言え領地からの税収より商会での収入による部分が大きく、貴族というより商家の気質が強い。格式より実利をとる辺りそれが如実に表れている。
例えば使用人は大半が貴族籍のない平民だが、それなりに優秀な者か信用の於ける紹介状がある者だ。侍女の殆どは行儀見習いとして雇われており、将来的にはもっとランクの高い家に雇われるよう紹介されるか或いはきちんとした嫁ぎ先を紹介されるかだと心得ている。
本来、女性の使用人の教育は女主人である母の仕事なのだが、元は他国の豪商の娘だった母はあまり他者の教育に向かないようだ。祖父の代からの侍女が若い娘達を指導していたが、この春彼女が隠居して以降は兄とステイシアがその任を担っている。まあ今いる侍女は皆それ以前からの付き合いなので、気心は知れている。そもそも屋敷の使用人自体そう多くもない。
母が姉(と弟)を溺愛してその分ステイシアを蔑ろにするのは昔からのことなのだが、そこまで悲観的に感じなかったのは父と兄、そして使用人達が可愛がってくれたこともある。社交だの姉の得意なことは彼女に任せていい。ステイシアは彼女の出来ることをすればいいのだと、そう納得させてくれた父に感謝している。
「お父様、ステイシアです」
執務室に声を掛けると応答があって入室を許可された。室内には父と兄、そして父の信頼篤い家令が控えている。
「お帰り、ステイシア。案外遅かったね」
「ただいま戻りました、お兄様」
「ステイシア、おまえだけか。ステファニーはどうした」
父は娘が一人しかいないことに不審げな様子を見せる。ステイシアは小さく頷いて本日の茶会の顛末を報告した。
そもそも事前にステファニーの言うところによると、友人とのちょっとしたお茶会、とのことだったのに。実際は明らかに高位の貴族令嬢が集う、格式の高い席だった。本来一介の子爵令嬢に過ぎない姉妹が招かれる筋合いはない。おそらく婚約者がステファニーに籠絡された令嬢達が、彼女に恨み節でもぶつけるために呼び出したというところだろう。
しかしそれをどこまで察知していたのやら、ステファニーは当の婚約者達を迎えに来させることでその追究を拒んでみせた。伯爵令嬢レティシアに言わせれば「敵ながら天晴れな不貞不貞しさ」ということになる。
社交界に関わらないでいたステイシアは知らなかったのだが、ステファニーは既にかなり派手にやらかしていたらしい。第三王子エドガーを始め、伯爵令息エルマーや他にも複数の男性をたらしこんでいると専らの噂。レティシアと侯爵令嬢シャーロットも思うところあったのか色々話してくれた。

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