石ころ令嬢

あきづきみなと

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結局まともな対応は不可能と判断され、母は殆ど幽閉に近い形で領地に送られることになった。そちらに残っている末の弟と接触させないように、とくれぐれも言い含めて信頼のおける人を付ける。
「頭の痛いことだな」
がっくり落ち込んだ父に兄も深い溜め息を吐く。
「お母様があんな風に仰っているとは思いもしませんでした。……ステファニーお姉様が、どう思っていらっしゃるかとても心配なんですが……」
「しかし……母上の言い方だと、ステファニーの方が主体的に行動したようにも思えるが」
兄の懸念も故ない訳ではない、母は言い訳の合間合間に「ステファニーが選んだ」「どうせ結婚するのなら高い身分がいいと自分で相手を見つけてきた」等と、到底貴族の常識に外れた主張を繰り返していたのだ。その内容ももちろん、娘が母に訴えたということもそうである。
その話からは、伯爵家の婚約者では飽き足らず、更に高い身分を求めて身勝手な行動を繰り返していた節が見受けられる。
「……そんな様子は、今までにありまして?」
ステイシア自身、姉とはあまり仲が良くない。正確にはステファニーは妹を自分のテリトリーに引っ張り込んでもの馴れない彼女を哀れむような態度が主だった。ステイシアの方も、学園で魔法研究に励んで姉には近づかなかったので、良くわからない。
兄も同い年で同じ学園に通う身ながら、貴族の嫡子は学ぶことが多く、兄妹とは言えお互いの動向まで気を配っていなかった。その点で兄を責めることはできない。
いずれにせよ本人の話を聞いてからとてぐすね引いて待っていた家族に、ステファニーはなかなか派手な真似をやらかしてくれた。
「旦那様、ステファニーお嬢様がお帰りになりました」
日が傾く頃になって家令が告げてくるが、その老人の顔色が顕著に悪い。
「……どうした、ヨハン」
さすがに悪い予感を覚えたのか問い質す子爵に、老家令は何かを言いかけて頭を下げた。
「直接ご覧になっていただいた方がよろしいかと」
悪い予感は息子・娘にも伝染し、一家は慌てて玄関ホールへ赴いた。子爵家はそれなりの屋敷を構えているが、あくまで「それなり」でしかない。少なくとも、玄関前に停められた豪壮な4頭立ての馬車が不釣り合いなくらいには。
「……、なんと言うことを」
父が呻くのも無理はない。豪華な彫刻に飾られた馬車にはこれ見よがしな紋章が刻まれている。この王国でその紋章を使えるのは王族のみ、と言う代物だ。これを見た家令が、判断を主に丸投げするのはむしろ当然だろう。
「楽しかったわ」
朗らかに笑いながらその馬車から降りてくるステファニーに、慣れた様子でエスコートの手を延べているのは第三王子エドガー。傍らには伯爵家子息のエルマーが騎士の如く控えている。またその他にも広い領地を有する公爵の甥とか国外との貿易で栄える侯爵家の庶子とか、ステイシアと同じ魔法科の首席等、社交界に疎いステイシアでも顔を見知っているような青年達が揃って彼女を囲んでいた。そのいずれもが、蕩けるように甘ったるい表情でステファニーを見守る風で、端で見ている方はうんざりする。ちら、と横目で伺った兄も困惑と嫌悪の半ばする表情だった。


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