石ころ令嬢

あきづきみなと

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「……はじめましてお目にかかります、エドガー殿下」
一人一人と抱擁を交わしている(しかも些か熱のこもった、挨拶と言うには親密過ぎて問題になりそうな)娘と、その相手に子爵は平坦な声を掛けた。
「おお、その方がエルロッド子爵か!ステファニーに話は聞いているぞ」
快活に応じる青年はステファニーやその双子の兄スチュアートと同い年。他の青年達も同じ学園に通うので、彼等もステファニーだけでなくスチュアートも顔見知りなのだ。その誰もが有力な実家か高い評価を持ちそして容姿に優れている。こう言って良ければ、如何にもステファニーの好みそうな相手ばかり。
「お見知りおきいただき光栄にございます、殿下。……ですが少々、娘との距離が近すぎはしませんでしょうか」
苦虫を噛み潰したような表情で苦言を呈する子爵にエドガー王子は眉を寄せる。
「何を言う、私とステファニーは良き友人だ。そのような下品な勘繰りは止めろ」
「……清廉潔白であっても、邪推する者はどこにでもおります。何でも娘が皆様に媚びて取り入ろうとしている等と、噂されているそうなのです」
「な、何を……何を根拠に、そのような……」
沈痛な面持ちで告げられた言葉は予想外だったらしい。目を瞬くしばたたく王子は完全に虚を突かれている。そこへ更に子爵は言葉を重ねた。
「そのような噂がたちましては娘の婚約者にも申し訳がたちませんし、まず何よりステファニー自身に傷がつきます。御考慮いただけますと幸いです」
渋い表情で淡々と論理的に告げる子爵にエドガーもたじろぐ。その横で、スチュアートも、他の青年に声を掛けている。
「エルマー殿、アイザック殿、オリバー殿。貴方方もです。どうか妹の評判に傷がつかぬよう、ご留意願います。……貴方達も、ご実家や婚約者の方に顔向けできなくなられては困りますでしょう」
「……邪推されては困る」
「いや、私もそのようなつもりでは……」
「そ、そうだとも。ただ我々は友人として」
「何でも本日は妹をエルマー殿の、婚約者のお茶会から連れて行かれたとか。お茶会は女性の社交場です、男性が押し掛けるとは如何なものかと」
「いや、それは……」
「その、ステファニーが、女どもの下らぬお喋り等うんざりだと言うから」
少なくともこの国の貴族社会に於いてお茶会は女性のものだ。様々な噂や社交上の流行、或いは情勢の変化についてさりげなく情報交換しながら相手の出方を窺う、女の戦場。そこに男性の入り込む余地はなく、男が覗けば無粋と嘲られるし男性を招くならそれは社交としてはお茶会ではなくなる。それを知らないはずはないのに、ステファニーから彼等をお茶会の席に引き込んだのなら些か悪質だ。増してその席には彼等の婚約者である令嬢方もいた、彼女達の面目も丸潰れである。
そんな様子を見守っていたステイシアはふと思い当たることがあって首を傾げた。
「……あの、ウラジール様?」
一人我関せずという風にそっぽを向いているこの青年は、ステイシアと同じ魔法科の学生だ。しかし百年に一人の天才と言われる程、類い稀な能力を持ち学園内だけでなく国内でも名を知られている。
「何だ」
不機嫌に向けられた視線に小さく会釈してステイシアは疑問を口にした。
「今日は、魔法理論の発表会だったのではありませんか?今回の発表会のために色々準備なさっていたと聞きましたが……」
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