石ころ令嬢

あきづきみなと

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貴族階級の子女が多く通う学園には、それなりの格式を有する喫茶室が設けられている。個室があることも知ってはいたが、ステイシアが使うのは初めてだった。
「寛いでくださいな、ステイシアさん」
個室はそれ程広くはない。だが調度品は上質で高級感漂うものだ。一説には平民の子女が貴族階級に立ち入る際、うろたえないよう研修を行う場所とか。学生のうちに学べることは学ばせてくれる、便利なシステムである。
現在在籍する学生のうち、第三王子のエドガーに継ぐ位置にあるのは侯爵令嬢シャーロットだ。公爵家の子どもは殆どが既に成人した第一王子、第二王子と同世代であり、今在学中の第三王子と同世代なのはあまり政治的に強くない家、もしくはその辺りに気を遣わない家が主だ。要は政略結婚をそこまで重要視しない。
にも関わらず、高位貴族の義務として侯爵家は一人娘を王族と婚約させざるを得なかった。確かに王家の血を引くエドガーを、あまり地位の低い家と縁付かせる訳にもいかない。その辺りは王宮と各家の当主とで相談した結果らしい。
「ですからまあ……未練はありませんわね」
さらりと宣ってお茶を啜るシャーロットは、実際落ち着いたものだ。艶やかな銀髪を大人しい形にまとめ、学園指定の制服を身につけた彼女は、派手ではなくとも気品を感じさせる佇まい。
しかもこの席にいるのは彼女だけではない。
シャーロットが銀の百合なら金の薔薇の華やかさを感じさせるレティシア。金の巻き毛に勝ち気な表情が、一際鮮やかな印象だ。
この二人は幼い頃からの付き合いだと言う。家柄の問題で親しくしている訳ではないが、付き合いだけは長いとか。所謂幼馴染みだ。各々の婚約者であるエドガーやエルマーもそうらしい。
「エルマーもね、何と言うか……お馬鹿さんですもの」
そしてその勝ち気な表情の通り、レティシアは些か毒舌だ。或いはやたらに正直者なのか。
「そうなんですの?騎士としてお強いと聞きましたが」
「腕は立つようですが、学生にしては、という程度ですわよ」
レティシアの父は騎士団を預かる騎士団長であり、その辺りの基準はかなり厳しい。聞いたリリアンナもそれに気づいたのか微妙な笑みを浮かべた。
この場には女生徒ばかり。リリアンナとステイシア以外は、令嬢として評判の高い者ばかり(ステイシアはともかくリリアンナも令嬢としての評判は悪くない。ただし彼女の場合『魔女』として名高いのだ)。
「……アイザック様にも困ったものです。お好きな方を手放したくないなら、妾にしていただいて構いませんと申し上げたのですけど」
嘆息したのは小柄な、そして年齢も他の令嬢より下の少女だった。まだ学生ではない故に、学園の制服ではなくシンプルだが上質なドレスを纏っている。こちらも豪奢な栗色の髪に似合う衣装はおそらく彼女、公爵家の末娘であるライラスティアには普段着だろうが。
「なるほど、そういう考え方もございますのね」
納得したように頷く黒髪の少女は、制服姿だが顔立ちがこの国の者とは違う。他国からの留学生である彼女・ルリが故国のお姫様らしいことは既に知れ渡っている。だからこそ、貿易に熱心な侯爵家としては彼女を家系に迎え入れたかったのだろう。生憎年頃の合う男が、妾腹のオリバーしかいなかったのだが、彼は貿易を営む家には相応しいというべきか、特に女性の心を逸らさないマメさを備えている。
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