石ころ令嬢

あきづきみなと

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心得たように頷いて、まずルリが口火を切る。
「オリバー様が熱心に口説いてくださいましたので、お話を受けさせていただきましたけれど。あの方ご自身が婚約を悔いていらっしゃるのなら、敢えて継続する意味も無いかと」
つぶらな瞳と同じ艶やかな漆黒の髪を揺らして微笑む彼女は実にエキゾチックだ。顔立ち自体がこの国のものとは違い、何処か神秘的な美少女である。そのルリと、人当たりの良い笑顔で女性には絶大な人気を誇るオリバーという組合せは、些か奇異な印象を与えていたことは否定できない。
「おうちの関わりの方はよろしいの?」
「はい。それもオリバー様のご意向でしたが、婚約を破棄すると言うことは我が国との取引は無用、ということでございましょう」
はっきり言い切ったルリはそこでちょっと躊躇うような表情を見せた。声を低めて付け加える。
「……実は私、こちらに来る前、故郷に将来を約束した相手がおりました。オリバー様とのお話がまとまってその方を諦めていたのですが……」
仄かに頬を染めてはにかむ様子は、彼女の心情が溢れているように見える。彼女にとってオリバーとの婚約は政略的なものに過ぎなかった、と言うことの証だろう。
「では却って良かったのかもしれませんね」
レティシアの言葉に笑顔で頷く。神秘的な美貌がこの時ばかりは普通の恋する少女の趣だった。
「そうですわね、私も……アイザック様とのお話をいただいた時は嬉しかったけれど、今度のことを聞いて父様がすっかりご立腹ですの」
それは当然だろう。ライラスティアの父と言えばこの国でも一二を争う公爵家の当主だ。末っ子の彼女を溺愛しているからこそ、甥を見込んで婚約を結んだというのに、蔑ろにされては堪らない。
「ライラ様ご自身はよろしいの?」
シャーロットの問いにちょいと肩を竦める仕種は、妙にこまっしゃくれて子どもじみた印象がない。彼女なりに、その立場に相応しい振る舞いを身につけているようだ。
「噂を聞いてすぐ、直接アイザック様とお話をさせていただいたの。『お好きな方がいらっしゃるのなら、愛妾とされる分には構いません』とお勧めしたらお怒りになってしまって。……その癖婚約を破棄するでもないし、噂は酷くなる一方ですし。さすがに私も付き合いきれません」
公爵家の末娘であるライラスティアは、確かステイシアの弟と同い年だ。何処かあどけなささえ漂う容姿は、しかし将来の美貌を容易く想起させる。栗色の髪は艶やかにくしけずられ、煌めく瞳は緑柱石エメラルドのよう。頬の線等はまだ子どもの円やかさを感じさせるが、それももうほんの僅かな間に違いない。
「……公爵閣下にまで知られていては、アイザック様も誤魔化しようはないわね」
「と言うか、あの方の眼を誤魔化すようなことができるはずもないでしょうに」
レティシアは呆れ、シャーロットは溜め息を吐く。
「……ではレティ、貴女の方も説明してくださる?」
「あら、私のところは大した話ではなくてよ。私と婚約すれば、エルマーは卒業後そのまま騎士団の選良エリートだったけれど、それが地方の騎士団で一兵卒から始めるというだけ」
はっきり言ってしまえば、彼女達の婚約者は確かに社交界で人気の貴公子なのだが、実のところ結婚相手としては微妙だ。家を継ぐのはアイザックだけだし、彼の実家は公爵家の傍系の子爵家で、さほど権勢もない。公爵令嬢ライラスティアが嫁げば話は別だったが。
エルマーやオリバーは嫡子でもなく、共に自分で身を立てねばならない。そのための政略結婚を前提とした婚約だった。
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