石ころ令嬢

あきづきみなと

文字の大きさ
上 下
25 / 31

23

しおりを挟む
うっかり一組忘れていたので(酷)追記しました。

───────────────────

ぎすぎすした空気の中、音もなく扉を開けて二人の男性が入ってきた。上背のある落ち着いた雰囲気の人物が一同を見回して軽く会釈する。
「立会人として同席いたします、王宮記録官です」
「同じく護衛の王宮騎士です。よろしくお願いいたします」
もう一人の、がっちりと逞しい体躯の男も真面目くさって頭を下げる。
ステイシアが兄を見ると、彼は小さく頷いて寄越した。どちらも年齢は少し上だが、如何にも姉の好みそうな魅力ある容姿である。とりわけ騎士の青年は自信ありげな笑みが人を惹き付けるだろう。
と、先触れがあってようやくエドガー王子をはじめとする貴公子達が入ってくる。当然のように、ステファニーがその中に紛れているのを見咎めて令嬢とその家族、そしてエルロッド子爵家の空気が冷たくなった。
その雰囲気をまるっと無視してエドガーは大股にリリアンナの父に歩み寄る。
「おい、ウラジールはどうした」
「……あれはしばらく、研究室の移動が忙しいでしょうから。皆様方とお付き合いする暇はございませんな」
「何?」
彼の、というよりステファニーの取り巻きの一人だったウラジールは後見人であるこの教授に見限られたことで、今まで特権的に与えられていた個人の部屋から、他の研究員と共同の部屋に移ることになった。それに伴う資料の整理や返却等、色々雑務が多くて到底遊んでいる暇はない。
その返答に苛立った舌打ちをしてエドガーは室内を睥睨した。
「……とりあえずあいつ以外は揃っているか」
それに、この中では彼に次いで身分の高いシャーロットの父侯爵が口火を切る。
「エドガー殿下。本日は、どのようなご用向きですかな」
この侯爵は国内でも有力ながら権力には距離を置く人物として知られている。王宮の大臣の一人として職に就きながらも無私に徹し、その厳格な態度は政敵にさえ賞賛されるほどだ。今回のことも筋の通らない話の嫌いな彼にとっては噴飯物、抑えてはいるものの秘めた怒りは激しい。何気ないような声にさえ、若輩者の王子達は咄嗟に返す言葉が出てこない様子。
「、……ど、どのような用向きとは意外だな、侯爵。陛下から話をされたと思うが」
尊大ぶって胸を張るが、子どもの強情にしか見えない。しらけた空気を無視するというより最初はなから気付かないのかエドガーは堂々と言い切った。
「私と、おまえの娘シャーロットとの婚約を破棄する。既に陛下のお許しはいただいたぞ」
「さようでございますか。承りました。良いな、シャーロット」
「はい、お父様」
勿体ぶって言い放つエドガーの言葉に侯爵はあっさりと応じ、シャーロットもごく普通に頷く。
国王陛下から話があったのは事実だ。侯爵をわざわざ呼んで、エドガーが我が儘を言って申し訳ないと非公式な場だからこそ頭を下げられた。侯爵父子としては、本人が侯爵家の後ろ楯を必要としないなら、敢えて婚約を続ける意義はない。
あまりにあっさりうべなわれてエドガーはぽかんと立ち尽くした。
「……な、何……」
「殿下のお気持ちがないのでしたら、婚約等無駄でございましょう。陛下からもお話は伺っております」
「もちろん、婚約破棄には賛成しますわ」
あくまで真顔の侯爵に対し、シャーロットは華のように艶然と微笑んだ。
「な、ななっ……え、えぇい、おい、おまえ等もちゃんと話せ!」
混乱しながらエドガーが声を張り上げると、顔を見合わせた青年の中からエルマーが進み出る。
「……その、レティシア嬢。私も婚約を破棄させていただきたく……」
「はい、承りました」
おずおずと口にする彼に対してレティシアは食い気味に承諾する。勝ち気な瞳をきらきらさせて彼女は付け加えた。
「確約された選良エリートの進路を棄てて一兵卒から始めたいと。なかなかの心掛けですわ」
「……はっ?」
言われたことの意味が取れずぽかんとするエルマー。
一つ咳払いしたアイザックがライラスティアに向き直った。
「で、だが。……ライラが悪い訳ではないんだが……」
 「まあ、当たり前ではございませんの、アイザック様」
言いにくげな彼にまだ幼さを残す令嬢は呆れた声を返す。彼女の兄が付け加えた。
「今回は君が全面的に悪い。婚約者がいるのに他の女に目が眩んだのだから。婚約はこちらから破棄したいくらいだ」
そもそもアイザックとライラスティア達兄妹は分家と本家の関係で、最初から力関係ははっきりしている。 
しおりを挟む