石ころ令嬢

あきづきみなと

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「殿下にも、陛下より書状をお預かりしております」
記録官の青年はにこやかに封書を差し出した。胡散臭げに彼を睨みながら受け取って開封した、その瞬間エドガーの面から血の気が引く。
「何だと……廃嫡の上王籍の剥奪だと……!?」
本人は動揺しているが、言ってしまえば彼の側近達が受けた処分と似たり寄ったりである。むしろ当然と言っていいレベルに過ぎない。
「陛下に置かれましては、エドガー殿が侯爵家に婿入りすることで先々の助けにと思われたようですが。ご自身がそれを良しとしないのであれば、己の力一つで這い上がってみよ、とのことでございました」
耳触りのいい言葉だが、要は絶縁するから後は好きなようにしろ、というだけのことなのだろう。
「ちょ、ちょっと待って!どういうこと!?」
呆然としている男性陣より先にステファニーが復活した。甲高い声を張り上げ、喚き立てる。
「そんなのおかしいじゃない!だってこれっぽっち誰だってやることじゃないの!」
「……『これっぽっち』がどの程度かは存じませんが。明らかに貴女はやり過ぎですわ」
扇で口許を押さえたシャーロットが言うように、例えば自分か相手のどちらかだけでも婚約者がおらずかつ一対一だったなら、ぎりぎり許容範囲と言えないこともない。しかしステファニーは明らかにその辺り逸脱していた。
「だ、だったら!元々の婚約者に嫁げばいいんでしょ!?」
声を荒げたステファニーの視線が、父の側に隠れているティフォルス伯爵に向いた。怯えて更に隠れようとする辺り、些か情けない伯爵ではあるが。
「ステファニー、落ち着いて下さい。貴女は既に貴族籍ではないんですから、伯爵家には嫁げません」
「意味わかんない!じゃあ誰がそっちの伯爵に嫁ぐのよ!」
「……ステファニー、。そもそもこの方は貴女の婚約者ではございません。この方は当代伯爵で、奥方もいらっしゃいますのよ」
何でその辺を抑えていないのか、ステイシアはかなり疑問だ。確かにちょっぴり風采の上がらない伯爵が婚約者だと思い込んでいたのなら、忌避する気持ちもわからぬではないが。
「……なるほど、調査通り一筋縄でいかぬお嬢さんですねえ」
記録官の青年が掛けていた眼鏡を外し、ティフォルス伯爵の側にくる。
上背があって知的な顔立ちなのだが、こうして並ぶと、意外な程雰囲気は似ている。
「改めてご挨拶いたします。王宮記録官かつ、ティフォルス伯爵家の嫡男、イサーク・ティフォルスです」
「やはり、ティフォルス伯爵の……ずいぶん、背が伸びられましたのね」
ステイシアもこの青年にかつて逢ったことがある。学園を卒業する間際、父に挨拶に来たのだ。
その時はもっさりした髪型に、垢抜けない縁の太い眼鏡、俯きがちの姿勢の悪い青年にしか見えなかった。ついでに背も低く、どうにも冴えない雰囲気もあった。
王宮に記録官として勤務することになりました、と父に誇らしげに報告しているのが聞こえ、その一心さに年上ながら微笑ましいように思えたのを覚えている。
「ええ、まさか学園を卒業してまだ背が伸びるのは思いませんでした」
悠然と微笑む彼に、確かにあの日の面影はある。ステファニーも同じ日に彼に会っていたはずだが、この様子では全く覚えていなかったに違いない。思い込みで物事を判断するのは母と共通する悪癖だ。
「あのう、イサーク様」
当のステファニーはどこまで理解しているものか、羞恥はじらうような愛らしい笑みを浮かべて彼にすり寄って来た。
「貴方が、私の婚約者なんですのね?」
「ステファニー!」
人の話をいっかな聞き入れない彼女に回り中が声を荒げるが、イサークはそれを制して軽く微笑み返した。
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