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第1章出会い
悪役令嬢ライザに転生した日
しおりを挟む「悪役令息ルイスの生い立ち、これって・・ーー」
ーーキィイッドンッ
私は何につけてもやる気のない銀行員。
その日は早めに仕事を切り上げて一人暮らしをしているアパートへと向かっていた。
代り映えのない仕事帰りの道で、スマホを取り出して歩いていると、鈍い痛みと共に視界が暗転し、何が起こっているのかを把握したのは、身体が地面に叩きつけられてからだった。
霞んでゆく視界の中で車のヘッドライトが入ってきたけれど、瞼を閉じようとはこの時思えなくて、ただその光を見つめている。
周囲の人が集まって来て何か話しているようだったけれど、その声は何も聞こえてこないので、音を消したテレビを外から見ているようで、不思議な気分だ。
(・・眩しい)
これが、私の覚えている最後の記憶。
♢♢♢
次に目を覚ました時に視界に移すことになったのは、車のライトなどでは無く、シャンデリアの煌びやかな光だった。
先程までは静寂の中に居たのに、意識が戻った途端に五月蠅くなってきて、「お嬢様!ライザお嬢様!」と周囲に居る人々が全て誰かを心配しているように呼びかけている声が聞こえてくる。
――ライザって誰だろう。あの後何があったか分からないけど、恐らく今車に轢かれたばかりの私の方が重症だと思う。
まぁ、車が歩道にのりこんで来るとは思わず、歩きスマホしながらスマホアプリの恋愛シミュレーションゲームをやっていたばかりに、避け損ねたのが悪いのだけれど。
そう。私は周りにいた人が車を避ける気配に気付くのが遅かった。
スマホいじっていなければ、歩道で走っている車に気付いて避けたと思うので、いわゆる自業自得というものだ。
仕事に支障がない程度の怪我だったのなら良いけれど。下手に障害とか残ったら頼れる身内も居ないのに、この先の人生どうやって生きていこうか。残りの人生を全部カバー出来る程の貯金も無いし。
そうなったら困っちゃうわね。
国の制度はどうなっていたかな。
――そこまで考えた時、途端に頭へ激痛が走った。
事故の衝撃かと思われたけれど、次々と流れてくる別人として生きた記憶。
私が今一体誰で、何者なのか。
私の知る私のものでは無かった筈の記憶が、頭の中で大量の情報として入ってきて、これ以上情報を増やすまいと反射的に目を閉じた。
頭への負担を軽減しようとしているのか、私の身体にある何らかの力が消費されてゆき、それでも足りないとばかりに気持ち悪さが襲い掛かってくる。
眩暈の様に、頭の中がごちゃごちゃと渦が巻いて、耐えかねた私は、再び意識を手放した。
♢♢♢
「私が、ライザなんだわ」
意味のわからない頭痛がしてから意識を失い、再び目を覚ました私は自分を鏡で見ていた。
ただし、そこに居るのは車に轢かれたはずの私ではなく、轢かれる前にやっていた恋愛シミュレーションゲームの悪役令嬢、ルベライトの瞳に漆黒の髪をしたライザ・クライス ウェルネ公爵令嬢。
至宝の一族と呼ばれている由緒正しき公爵家に生まれ、将来社交界デビューを果たした暁には、帝国の三代美女と呼ばれる程に美しい娘となる事が約束されている人物。
…までは良いんだけど。
ついでに将来ゲームヒロインを虐めたおかげで、高確率で国外追放か死がまっている。
「歩きスマホの罪はこれほどに重かったのね・・」
ルートによっては〝私は〟大丈夫なエンドもあるけれど、そっちのルートが確定したら今度はゲーム攻略中に戦争がはじまる。
私の破滅か。国の平和か。
…それは後で考えよう。もう頭がいっぱいである。
(…今は、何年何月何日だったかな。
記憶が正しければ私は明日で12歳ー…)
もう夜なのか、周りには誰もおらず閉じたカーテンの隙間から月の光が差し込んでいた。
「……!!」
カレンダーを見ると、その日付は間違いなくライザが12歳になる誕生日前日だった。一気に顔から血の気が引いていくのがわかった。
(ウェルネ公爵令嬢12歳の誕生会の前日って、隣の公爵領で悪役令息が誕生した〝悪夢の日〟だ!)
「大変!こうしては居られないわ」
そして時計を見ると、今はまだ夜の7時だ。
私は慌てて、ネグリジェのまま部屋から出ると、まだ両親は起きているのか書斎の明かりがドアの隙間から出ていた。
忍足で通り過ぎ、外に出てから靴を履いたら走って馬小屋に駆け出した。
元々習い事全般に関して、一通り出来たライザは馬術を習っていた記憶もちゃんとある。
(よし。裸馬に乗った記憶は、ライザには無いけど。上京前は北海道の牧場に住んでいた私にはあるわ!久しぶりだけど。)
馬にまたがり、柵を越えてウェルネ公爵家の門まで馬を走らせた。こんな夜中なので、門は当然閉まっているし見張りの為の門番もいる。
門番は外に立っているが、夜中に馬が駆ける音が響いているお陰でこちらの存在に気付いてくれたようで、柵越しに戸惑っているのがわかる。
「私はライザよ!!!
命令です、ただちに門を開けなさい!」
「え、ライザお嬢様!?」
いつも我儘でライザにしているのと、夜中に屋敷側からかけて来る馬に混乱したのか門番は「は、はい!」と良い返事と共に門を開けようとしてしまって、それがまずいと門番が気付いた時にはその開きかけた隙間目掛けて、馬を突っ込ませてこじ開けた。
その勢いで吹っ飛ばされた門番むかって、後ろへ振り返りながらライザは叫んだ。
「ついて来れる者は蹄の跡を辿り(夜だし無理かな?)付いてきなさい!
警察…憲兵への通報もお願い!!」
言うまでもなく、12歳の公爵令嬢が夜中に馬に乗って屋敷から出て行ったら大騒ぎして追いかけてくるだろうけど一応言っといた。
とにかく、ライザの魔法を発動させる時の魔法陣を持続させ、その光で辺りを照らし、夜道を駆け抜ける。
(ライザの頭が良くて助かったわ。
隣の公爵領への地図はわかる。
道筋と行き方も。だけど…ライザ事態にやはり、あまり交流はないのね。どのくらいかかるのか情報がないわ。
だけど、どうか 間に合って)
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