【完結】悪役令嬢ライザと悪役令息の婚約者

マロン株式

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第2章事前対策

悪役令息はまだ悪役では無いようです1

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 不思議な事もあるもので、今現在私は悪役令息ルイスの隣に歩いている。何故か王立図書館からついてきた。  

 あの〝悪夢の日〟以来の再会で、血だらけじゃ無いこのお方はギベオンの髪がサラリと揺れ、日差しを浴びて光りを反射しキラキラと輝いている。

 カイヤナイトの瞳も、まさしく宝石みたいで、白く整った顔立ちのアクセントになっており、その出立は、無表情のせいでまるで人形では無いかと思わせる。道行く令嬢が見惚れているのも頷けるくらいに魅力的な外見とオーラだ。

瞳と色をあわせられた白縁、紺色の紳士服が良く似合う。

(これが悪い男の道を進んでいるのか、罪深いなぁ…そうなるとまてよ。悪人となったこの人を救えるのは寧ろヒロインしかいないのでは…。いやそうなると私が…)

 何処まで付いてくるのかと思っていたけれど、途中で「こっち。」と指定され、静かな原っぱの隅に日差しを遮る木々の葉の隙間から、木漏れ日のさす机と、対面している席に誘導されて、私は大人しく座った。

(一切関わらないようにすると、先日決めたばかりだけど、でもだって、あんな事あった子供を無視とか出来るメンタルは私には無かった…何の用事なんだろう?)

 

「わたしの事を覚えているか?」

(そりゃあ忘れませんとも。)

「はい、アウステル公爵様ですね?」

「ルイスで良いよ。堅いの苦手だし。
自己紹介が後になってしまったけれど、わたしはルイス・ネヴァキエル。」

 思ったより少年の悪役令息はフレンドリーな人みたいで、塞ぎ込んでいるかと思っていたけれど、こうして見ていると涼しい表情をしていて、ついこの間血塗れの中にいた人とは思えないくらい穏やかな表情をしている。

(逆にそれが怖いな。平気な訳では無いだろうに。精霊の加護のある人はどうも不思議さんが多いと聞いたけど、そんな感じ?)

 瞳に宿るものに、恨みだとか、憎悪だとかは見受けられない。今頃激しいそれらの感情に苛まれていると思っていたけど。

 それとも、この年頃から感情を隠せるというの?



「私も、今更になりましたが…ライザ・クライス ウェルネ公爵家長女です。私の事はライザとでも呼んでください。」

 
  私がそう名乗ると、ルイスは笑みを浮かべた木々の木漏れ日により出来た葉の影と、髪が風に揺られる中、その瞳の中に私の想像していた彼の中に〝あの日〟宿ったであろう感情は何一つ感じられなかった。

「今日は君にお願いがあってきたんだ。」

「願い?」

「わたしの婚約者になって欲しい。」

 
 さらっと 何を言い出されたんだろう。今。

「こん…?」

「…君は精霊の連れて来た、わたしの運命の人だ。
あの炎に囲まれる中、君のルベライトの強い輝きから目が晒せなかった。あの時わたしは、ライザに恋をしたんだ。
あの後も、君の事が忘れられなくて…背中の傷が癒えるまでこうして外に出られなくてもどかしかった。

もし別の誰かが、君と婚約してしまっていたらどうしようかと、気が気で無かったんだ。」

 (まさか、そろそろ来る予定だった皇太子との婚約打診の話を知っている訳じゃないよね。いや、そんな事よりも。)


「落ち着いてください、ルイス様。
貴方はきっと事件直後で混乱しているのだと思います。
あの夜見たトラウマが夜な夜な蘇り、苦しみの日々を過ごし、果ては人格を歪め、犯人への憎悪を膨らませー…」

「確かに、あの日の事は赦せない。だけど、わたしはその現場を見ずに済んだ。

 君が見る事になった惨劇を、もしわたしが見てしまっていたなら、その瞬間にわたしの人格がどうなっていたのかは、わたしにも検討がつかない。ー・何故かわかるか?」

「いえ…闇落ちする別の理由があるのですか?」

「わたしは精霊に近い人間だからなんだ。精霊の魂は単純で、直接目で見た衝撃は、聞くよりも印象に強く残る。
白がすぐ黒に染まる。

それでも、怒りはあるが…犯人はもう捕まり法の下、直ぐに裁かれる事になる。今はその事に安堵している。」

「え?犯人捕まるの早くないですか?」

「君が爺やに調べさせたんだろう。隣国の伯爵夫婦を。」

「……っ!!え?」

「公爵家の裏口の入り方、衛兵の配置、使用人の休暇の把握。
鍵の複製。それらが出来たのは身内だからだ。
わたしの父と叔母は仲がよく、いつでも帰って来れるよう屋敷の合鍵も渡していたらしい。」

「……、何で、こんな早くわかったんですか?」

「初めは、ただ後見人に相応しいかの身辺調査だったんだけど。
ついでに出て来た断片的な情報があまりにも…怪しくてね。

最近、叔父伯爵が金策に駆けずり回っていると聞いたから驚いた。叔父伯爵は隣国でも一流の大会社を経営していて、お金に困っている事など無いと思っていたから。

そして、父にも資金繰り援助の打診をして手酷く断られているのを、たまたま、見かけていた者がいた。」
 
「!?!?」

「資金繰りが必要になった理由は、君が図書館の新聞で熱心に読んでいた広告。
そして隣国の土地価格の急な下落だそうだ。
その少し前までは土地価格は高騰の一途で、それに目をつけ商売を考えた貧民層に、次々と住宅融資を行う商売が国内で流行り、叔父伯爵の会社も積極的にそれに乗ったけれど最近になって失策に気付いて、追い詰められ引き起こした。」

「やはり、あの隣国では1番の優良企業と言われるまで事業拡大していたメント伯爵家が、あく…ルイス様の後見人を名乗り出た方で間違いないですよね!」

(新聞で気になったのはルイス様の後見人に名乗りを上げた方の国の会社が出している宣伝広告が、〝誰でも借りれる住宅ローン!貴方もお家を売ってお金持ちになりませんか?〟みたいな、前世、世界的経済危機をまきおこしたリー◯ンショック前を、彷彿とさせる商売方法が新聞に載ってるなぁって気になったのよね…)


「…わたしには、わからない。

幾ら資金繰が悪化したと言っても、何故叔父があの惨事を起こすまでに追い詰められたのか…それが分からないんだ。失敗したならやり直せば良いと言う人であったのに。

父も何故、仲が良かったのに手酷く断ったのか…。
だが、とにかくそれが動機だったそうだ。」

 そうか、今まで精霊の加護を受けている公爵家で何不自由なく暮らしてきたから、尚更だろうな。黙っててもその栄誉に年々人が集まり税収入増えてるもんね、君の領土は。

 うちもその叔父伯爵の境遇が、他人事じゃ無いんだよなぁ…。

 精霊の加護があるアウステル公爵領を含めた他領へ民が移り住む一途で、両親は気付かず散財してるから…他にも色々…あるしね。問題が。
 気付いた時には財政が手遅れ間近で、不正を働くしかなくなるかなりの無能ぶりが今から見える。 
 

 うちの領の財政見直しかぁ。私には荷が重いからなぁ…。どうしよう。今後の課題だ…。

「ルイス様。」

「?」

「ルイス様からは今、有力な情報を得る事が出来ましたので、代わりと申しましては何ですが、その叔父伯爵様が大それた事件を起こすまで、何をそんなに追い詰められていたのかだけ、お教えする事が出来ます。
そしてこれから起こり得る事も。
聞いて、貴方の利になる事かは分かりませんが、どうしますか?」


「わかるのか?教えて欲しい。今回の事で思い知らされた。知らない事がこんなに得体が知れず恐ろしいとは思わなかった。最後まで、全容を知っておきたい。」


 ライザはその言葉にコクリと頷き、「わかりました」と言って言葉を紡いだ。

「あくまで今から起こる可能性。
王立図書館で見た隣国の情報と、今聞いた叔父伯爵の話で私が考えた見通しです。

もうそろそろ、隣国では伯爵叔父様の経営していた国1番の優良企業が倒産してしまい、その余波を受けて他の企業の倒産も相継ぎます。

隣国は今から経済危機を迎えるでしょう。我が国も多少の余波は覚悟した方が良いかと。」

(うちも、巻き込まれる一つかもなぁ。)

「何だって?1つの会社が潰れてそんな事になるのか?」

「えぇ、ですのでつまり。そうなると隣国では国全体がリストラされる無職者で溢れかえり、治安が悪化します。国を揺るがす大惨事に、その責任は叔父伯爵様が取ることになるでしょう。
隣国の法律に照らし合わせますと、爵位の剥奪。追放処分は堅いでしょう。…隣国内では商売どころか、住むこともままならなくなるでしょうね。

かと言って、人を殺して良い理由にはなりませんが。」
 
 精霊に囲まれて、平和なファンタジーの中に生きてきた12歳の子供にはなかなか重たい内容だ…。なかなか酷い。
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