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第2章事前対策
ライザは自ら悪役令息の元を訪れた1
しおりを挟むアウステル公爵家執事が、執務室で仕事をこなしているアウステル公爵をじっと見つめながら、ホロリと涙を流していた。まだ12歳弱の公爵は両親を亡くしてから暫くが経とうとしていた。手探りながらもこうしてこなしていけるようになったのだ。
この若き公爵の努力する姿は、歳を召された爺やをホロリと泣かせるものがあった。
「爺や、どうした?」
最近では邪魔しないようにと、部屋の外にいる爺やが部屋の中でハンカチを片手に急にホロリと涙を流し始めたら、誰でも気になるだろう。
それはアウステル公爵も例外ではなかった。
「いえ、お坊ちゃんがご立派になられたのが…。」
「そうではなくて、珍しく精霊が賑わっている。…喜んでいる感じだ…。誰か来たのか?」
「ぉお、そうでしたそうでした…。ウェルネ公爵令嬢が来ましたよ。」
※最近爺やはボケてきてます。歳ですからね。
「ライザが?」
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
アウステル公爵家の一室で紅茶を飲みながらもライザはキョロキョロと辺りを見渡していた。
精霊にゆかりある置物や、神聖な装飾の数々。辺り一帯燃え散らせる炎と、血だらけだった公爵家の邸宅が嘘のようだ。
真新しいアウステル公爵家の邸宅は、とてもお洒落で、客間にある観葉植物にはセンスの良さが垣間見られる。精霊達が何故か私の周りを飛び回っているのが気になるが。
(事件前は幸せ家族そのものだったのだろうな…。)
何となくだがそう思った。炎に焼かれて、家族の思い出の物は全て消えて無くなったかもしれないけれど。
この空間、あの時、炎で焼け落ちた邸宅の、あの死体の下でルイスが気を失っていた部屋と同じ構造だ。
ライザは記憶力が良かったせいで、気付いてしまった。
本当は、ルイスとて思い出したくもないだろうけど、きっと写真1枚も燃え散って残らなかったものだ。
だからせめて、前の邸宅と同じ構造にしたのだろう。
(……。まだ、10代前半だと言うのに…。)
ーカチャッ
「ライザ!来てくれたんだね。」
勝手にライザがしんみりし始めた瞬間、部屋の戸が開いて、頬をほんのり高揚させたルイスが顔を覗かせた。
「う、うん。連絡も無しにごめんなさい。直ぐに帰るから、今日は御礼を言いに来たのよ。王族会議での事少し聞いたわ。アウステル公爵がウェルネ公爵家の肩を持ってくれたって。有難う。」
※詳しい内容は聞いてない。
「わたしは何もしていないよ。君が来てくれてとても嬉しい。」
「あのね、手土産に王都で流行りの最高級菓子をさっき爺やに渡したから後で食べてね。」
〝そこは手作りでなんか作れよ〟って思う人も居るかも知れないが、私にお菓子作りをさせるくらいなら園児にやらせた方がマシな物が出来るだろう。生活に困らないくらいの最低限の料理は出来るが、お菓子作りなどは必要性を感じなかったので前世でも今世でも出来ないし、する気も起きた事がない。
素人の作ったものより名店のお菓子の方が普通に美味いだろうと思うのだ。因みに癒しグッズとか気の利いた物も皆目検討がつかない。
(こう言う恋愛ゲームに出てくる男の子にその考えが向かないのは分かってるんだけど。人には得て不得手があるから…。)
チラッとルイスの様子を伺うも、何とも思っていないのか顔に出していないのか、少しの落胆の色もなかった。
「有難う、じゃあ後で一緒に食べようか。
その前にさ、折角来たんだから良かったら公爵家を見て行かないか?」
「でも、今お仕事中じゃ…。」
「大丈夫だよ。それよりも一緒にアウステル公爵領を見て回ろう。今日のところはまず、アウステル公爵家の〝星の森〟を案内するよ。」
「あ、有難う…。」
(…〝今日のところは。〟か。また来る前提。いや婚約者だから当然と言えば当然…なのか?。)
どうも、アウステル公爵家は〝悪夢の日〟の印象が無意識に根付いてて、少し怖さもあるけれど。嬉しそうな様子のルイスを見ていると嫌とも言えずに、ライザは案内されるままに着いて行った。
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