リズエッタのチート飯

10期

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無情

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 他者に嫌われる事が得意な人間は、好きな人間はこの世にいないんじゃないかと私は思う。
 けれどその反面、誰だって誰かを嫌いになるし、誰だって一人くらいには嫌われているだろう。
 万人に好かれようなんてそれはただの希望であり、現実味のない世界の話。
 だから私は嫌われることを理解しているし、嫌われることが当たり前だと思っている。

 私は善人なんかじゃない。
 神でも仏でも、心の清い聖女でも世界を助ける勇者でもない。
 だからこそ自分のためだけに生きていたいと願うのだ。

「さぁお二人さん、此処が新しい君たちの住処だよ。 仕事は早い段階で覚えてもらうし、怠ける事は許さない。 詳しい事はあそこにいる獣人に、レドに聞くように。 ぶっちゃけ私に聞くのは君たちも嫌だろうし、私だって敵意丸出しの君達の相手はしたくない。 ここは互いに接点をなくすのが正しい選択だと思っている。 私は君達を買ったイコール主人。 君達は私に買われたイコール奴隷。 コレは覆ることのない決定的な事実であり、今後一切変わることはないだろう。 ただ一つ私から君たちに言える事は満足に生きたけりゃ行動を示せ。 私の為にではなく、自分たちの保身に行動すればいい。 信頼なんていらない忠誠なんていらない、私が欲しいのはただ一つ、私の幸せただそれだけ。 その為に精一杯働いて。 あ、逃げようとしても此処はわたしの許可なく出れないから。 残念だったね! 私からは以上、だからあとはレド、よろしく!」

 無心に口早に、無表情に淡々と。
 伝えるべき事は伝えたとレドの制止の声など無視して勢い良く荷馬車へ戻った。
 亜人二人と私が入っても広かった馬車は今はガランと広がり、そこにあるのは家に帰るまでのわずかな食料だけ。
 憂鬱になりながらも荷馬車の入り口から外を見れば青空が広がり、ティモが馬に乗りながら荷馬車の後をついてくるのが見えた。
 馬を操るのはスヴェンとクヌート、馬車の左側にはカールがいる。

 領主なら屋敷を出て早二時間、それが変わることのない状態であった。



 屋敷を出てからの間、勿論彼女達と意思の疎通を試みてドライフルーツを与えてみたり飲み物を差し出したりしてはみた。だが彼女らはそれを受け取る事はなく一心に私を睨みつけるだけで、うんともすんとも言わない。
 初対面での印象は悪かったと私は思ってはいたが、恨みのこもった目で睨まれ拒絶されれば私だって逃げ出したくなる。

 そりゃあ彼女達から見れば私は金にものを言わせて我儘に買い付けた人間でしかないし、私もそれをよく理解している。けれども私だって人の話を全く聞こうとしない、むしろ聞いてやるもんかと睨んでくる奴らに愛想を振りまくなんて御免なのだ。

 はぁ、とため息をつきながら荷馬車内を通りスヴェンの元へ向かい、手綱を引いているクヌートに声をかけスヴェンを荷馬車内へと引きずりこむ。
 何か用かと聞いてくるスヴェンを座らせ、私はそのスヴェンの足の間に収まるように座った。

「……何してんだ?」

「傷心中。 少し疲れた」

 重い頭をスヴェンの胸元にあずけ目をつぶり、そしてまたため息をついた。

「…………レドの時は運が良かったんだね」

「は? 何がだ」

「うーん。 レドはあそこまでスヴェンの事も私の事も嫌ってなかったじゃん? むしろご飯あげたらすぐ懐いたし、あんな敵意剥き出しでみられた事はなかったよ」

 むしろ今思えばレドとの対面の方が最悪だった気もする。
 身体はズタボロ、心もへし折られ、幼い人間の女の子に買われるなんて思ってもいなかっただろう。それもその女は当人の知らないところで実験をも行って、最終的にペット扱い。よくもまあ従順に懐いてくれたものだ。
 もしかしたらレドが獣人で、犬科だったからそうなったのかもしれないが、本当に運が良かったとしか言えない。

 私が心底疲れたようにため息をつくとスヴェンは私を撫で、お前も子供だったんだなと驚いたように呟いた。

「ーーどうみても子供でしょうが」

「いや、行動も考えもおかしいしやけに大人びてっからな、そんな事気にしねぇと思ってたわ」

「気にするわ! 誰が好き好んで嫌われ役になるか!」

 怒りに任せ後頭部をスヴェンの顔にぶつけるも私の頭も痛み、ついでにスヴェンからも小突かれて痛みは倍増。
 ぐぬぬと唸りながらスヴェンはただのおっさんのくせにと小言を言えば後ろから軽く首を締められ、クソガキとスヴェンは笑った。

「でもあれだ、お前もただの餓鬼だったわけか。 なんか安心したわ」

 その声はどこか優しさがにじみ出ていて、私は父親みたいと呟いた。
 会ったことも見たこともない父親を出すのは気がひけるが、多分今の私に父親がいたならこんな感じだったのかもしれないと思ってしまったのだ。
 私の唐突な言葉にスヴェンは笑うのをやめ、今度は少し嫌そうな声でお前みたいな娘はいらないと馬鹿正直に答えた。その答えに私もすぐ殴る父親などいらないと、スヴェンには嫁さんすら出来ないのにねと嘲笑い、そしていつものように頭を軽く叩かれたのである。

 そんないつも通りの行動をしてみればなんとなく気持ちも晴れ、いちいち気にかける事すら馬鹿らしく思えてくる。
 私は私らしく、やりたい事をやればいい。面倒ごとは全て人になすりつけ、楽しい日々を、幸せになる事だけを掲げて生きてりゃいい。
 馬鹿笑いして、老後に備え、幸せな家族に囲まれて死ぬことが目標だ。

 クスリと笑いながら頭を上げてスヴェンを見つめれば、スヴェンは何がおかしいと眉をひそめ、私はそこである考えを述べてみた。

 それは今護衛として雇っている三人も今後も護衛として雇えないかと言う事だ。

 勿論それには考えがあり、この先の面倒ごとを減らすための行動でもある。

「今後も私は亜人を買い続ける。 それなのに一々気が狂ったのなんだの言われるのは嫌なんだよねぇ。 それは勿論スヴェンも一緒でしょ?」

「ーーまぁ、そうだが」

「だからこれからも彼らに頼めたら、その方がいいんじゃない?」

 彼らに三人は仕事だからと容認して亜人を含めた私達を護衛しているが、今後雇う護衛が同じ行動をしてくれるとは限らない。
 人によっては連れ帰る亜人を好き勝手扱おうとする輩もいないと言い切れないし、それに万が一そこから庭のことが知られてしまうのも困る。

「ーーでも彼らが護衛を受け続けるとは限らねぇし、親しくなればなるほど庭がバレる可能性もある。 それでもか?」

「受けるかどうかは彼ら次第だけど、庭がバレて私の幸せを壊そうとするなら最悪庭に閉じこめて飼い殺しにすればいいよ」

 庭の出入りは私の意思次第。
 閉じこめてしまえば生かす事も殺す事もできてしまうし、ある意味完全犯罪も可能になってしまうのが庭なのだ。

 正当防衛だからしかたないよね、小声で言えばエゲツない考えだと末恐ろしいと私から視線を逸らし、スヴェンはため息をついた。

「ーーとりあえず聞いてみるか」

「んじゃ、ご飯でも食べながら話し合いだね」

 髪をかきあげるスヴェンをよそに私は肩がけから用意していたお弁当を取り出し、馬を操るクヌートと声をかけた。
 そこから少し先に進んだところでお昼休憩とし、スヴェンがエゲツないと言ってのけた私の考えを彼らに話した結果、彼らはその話に乗ってくれたのである。

「俺らも歳だし、そろそろのんびり暮らすのも悪くねぇ。 それにお嬢ちゃんの飯は美味いしな」

「むしろ嬢ちゃんの飯目的だ」

「いや、私が同行しない時もあるんですが……」

「ならそん時は美味い干し肉で頼むよ」

 要するに彼らは美味しいご飯につられただけなのだ。
 その答えに私もスヴェンも顔を合わせて苦笑いをし、これからもよろしくと握手を交わした。

 まったく、美味しいご飯は素晴らしい。

 おお神よと、私は今日もまた祈りを捧げた。




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