リズエッタのチート飯

10期

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海老のような魚のような

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 ジャガイモ(の様なもの)のキッシュと豆のサラダ、柔らかそうな白パンに具材のゴロゴロ入ったスープからは白い湯気が立ちのぼる。
 香ばしい匂いの正体は先ほど持ってきた魚だった様で、こんがりと塩焼きにされていた。

「さ、冷めないうちに召し上がれ」

「いただきます!」

 召し上がれ、と言われれば食べないわけなどなく、私はにんまり笑って席に着く。ため息をつくニコラなど気にせずにスプーン片手にスープを啜り、その暖かく優しい味付けにほっこりとした。
 濃すぎず薄すぎず、絶妙なバランスで野菜の旨味を引きたる塩味。スープのベーコンの脂が浮かび、それがまたいい具合に腹を空かすスパイス。
 柔らかな白パンはそのまま食べても美味しいが、このスープにつけてもこれまたうまい。ご飯ではなくパン文化が生んだ至高の一品も言ってもいいだろつ。

 次にジャガイモのキッシュに手を伸ばし、フォークで一口大に切り分けパクリと食らいついた。
 しっとりとしたジャガイモの食感と玉ねぎ(だと思う)の甘み。チーズと卵の濃厚な味わいが舌の上で合わさり、旨味と踊った。サクリとするパイ生地も実に香ばしく、ほんのりと舌を刺激する胡椒の辛味が実に良い一品だ。

 豆のサラダは緑、黄色、赤と黒の四種類の豆と葉野菜を用いて色鮮やかに仕上がっていた。シャキシャキとした葉野菜とぽりぽりと砕かれる豆の二つの食感と、ドレッシングの酸味が上手い具合に混じり合う。植物性油のねっとりとした舌触りもあるが、オイルが酢と混ざることによりさっぱりとした後味を残していく。

 最後に手を出したのは本日のメインの魚だ。
 名前は知らないが美味しさ次第で覚えておいてもいいかもしれない。

 ゴクリと喉を鳴らしながらその魚をどう食べたらいいのかと考えるも足が六本も生えているし、私には未知の生物にも見えなくはない。
 どう食べるべきなのかとソーニャとニコラに目をやればその足を取り外し、魚本体のみを食べたいた。
 足は食べるものではないと認識した私も同じように足を取り外し、フォークとナイフでその身を切り開く。その魚の身は白く、ぱっと見たらただの白身魚だ。
 はてどんな味がするのかと期待しながら一口大にした身をフォークですくい上げ、私はそっとそれを口に含んだ。

 一噛みするとホロリと砕ける身は魚そのものも食感だったか、味は驚くほどに海老と似ていた。
 否、食感こそ違うが、海老だったのだ!

「美味しい!」

 プリッとした食感はなくも、海老の塩焼きを食べてるような感覚におちいった。
 そうだと思い取り外した足を一つ掴み口に放り込めば、それはまさしく小海老と思えるほどで、それだけで良い酒のつまみになりそうだと頭の隅で海老の素揚げが記憶の奥から蘇った。

 一心に魚の足を貪っていると二方向から視線を感じ、顔を前に向けてみればソーニャとニコラが少し哀れんだように私を見ているではないか。

「……小娘、腹が減ってるならもっと食ってもいいぞ?」

「そうね、私の分の魚も食べなさい」

 どうやら私は腹を空かせすぎているように見えたらしい。
 魚の足を食べていない二人からしたら、それを食べるほど私は飢えているように思えたのだろう。

「いえいえ、私はこれだけで十分ですよ! 思ってた以上にこの魚が美味しくて無我夢中だっただけです! やっぱり川の魚と海の魚は違いますねっ」

 誤解を解くように川と海の魚は違うものだと例を出しニコリと笑えば、その所為で貪り食っていたのかとニコラは納得したように頷いた。きっと彼にも思うところがあったのだろう。

「ーー川魚もなかなか美味いがな、最近はあまり食っとらん」

「ーーーー今度、釣ってきます、ね?」

 多分だが、ニコラは遠回しに釣ってこいとそう言っている気がしたのだが、対応はこれであってるだろうか。
 まあ、もし違ったとしても私が悪いわけではないし良しとしようか。

 そんなやり取りを交わしていればソーニャは面白そうにクスクスと笑い、私もその笑みにつられて笑う。
 そしてソーニャは私にその魚の名前を教えてくれたのだ。

「この魚はガンペシェって言うのよ。 あまり珍しい魚じゃないから魚屋さんでも売っているわ」

「そうなんですか! なら釣れなかった時は買えば食べられますね!」

「えぇ。 魚屋さんには他にもいろんな魚が置いてあるから、海の幸が食べたいのなら行ってみるといいわ」

 その時はお使いもよろしくね、と簡単な頼み事をされたがここは気持ちよく了承しとくとしよう。
 何せこの夫妻には今後お世話になるのだ、お使いくらい屁の河童である。
 ハイ! と気持ち大き目の声で返事をすればニコラは五月蝿いと小言を垂れるが、私達三人はのんびりと、ゆったりと楽しい食事をしたのであった。


 はてさて、食事が済んだ後に始まるのば再び調合である。
 初めの一回こそ失敗しだが次はそうはいかない。
 絶対に成功させてやると意気込んで私は薬草をすり潰しにかかった。

 ゴリゴリゴリゴリと鈍い音が室内に響き、グツグツと湧き上がる湯気に気を引き締める。そして完成した第二弾の薬はなぜが、毒々しい紫色をしていたのである。

「……失敗?」

「次っ!」

 叫ぶニコラの合図の元、私は三度目の正直と薬草をすり潰し、そして煮る。
 今度こそはと意気込み作り上げた第三弾は爆発こそしなかったが、煮始めて数分で異臭を放つ劇物とかした。

「……失敗、だ?」

「次ぃ!」

 まさかまさか四度目はないと、仏の顔も三度だぞだと苛つくニコラを落ち着かせ、私は薬草を力いっぱいすり潰す。
 そこまでの状態はニコラが加工したものと同じようにサラサラで、何ら問題のないように見えた。故に今度は成功間違いなしと自信を持って作り上げた薬は色も見た目は見本品とほぼ同じ。

「師匠! 出来ました!」

 四度目にして出来たとニコラに差し出すと、彼は私と目を合わせることなく出来上がったそれを私の口へと流し込んだのである。
 まだ熱々のその液体を流し込まれた事により舌は火傷になってしまうのではないかと心配こそしたが、すぐにそんな考えなど吹き飛んだ。
 液体が舌を掠めた瞬間に私の口内はあり得ないほどの苦味と臭み、不味い、と一言では済まされないほどの強烈な刺激が襲ってきたのだ。

「ーーあぁぁぁあぁあ!」

 飲み込めないそれを口の中でとどめ、一心不乱にソーニャの元へと逃げ込んだ私は身振り手振りで水を求めた。
 少しギョッとしたソーニャはそんな私の背中を優しくさすり、そして私はそれをぶち撒け水を飲む。
 人様の家で汚物を撒き散らすなと怒られそうだがそんな事で躊躇う状況ではなかったのだ。

 ゴクゴクと乾きを潤すかのように私は無我夢中で水を飲み干し、それからその劇物を流し込んだニコラをキリリと睨みつけた。

「なんてもん飲ませるんじゃ!」

「なんてもん作ってるんだ! あんなもん人に飲ませられるか! 我が身で失敗を悔い改めろ!」

 そう言われて仕舞えばぐうの音も出やしない。
 確かに薬やポーションは作り出す者の為ではなく、誰かの為に存在している。それなのにこんな劇物を飲まされたんじゃたまったものじゃないだろう。
 しかしながら私自身が作ったものといえ、万が一の可能性があったらどうする気だったのだろうか。

 否、だからこそ、私自身に被験体をさせたと言うのか正しいのか。

 もし万が一、アレの所為で異常な反応を起こし場合にそれを助けられるのは薬師であるニコラだけなのだ。

「うぉぉぉおおーー」

「小娘、お前にはそれを完成させるまで他のものは一切教えん! 大人しく薬草だけを持ってこい」

 非常に残念な事に、私はニコラから遠回しに匙を投げられたのだ。


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