リズエッタのチート飯

10期

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場所の提供

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 私が向かった先はもちろん商業ギルド。
 孤児たちに金銭のやり取りを教えるのならば私が商人になるのが一番手っ取り早いと考えたからだ。

 細い路地を右へ左へくねくね曲がり商業ギルド間近まで迫ったとき、不意に後方から誰かが私の名前を叫んだ。

「んん? おー、スヴェンじゃん! それにお三方も。お久しぶりです!」

 頭わや下げて軽く挨拶をすれば、私の髪をカールが撫でる。
 久々に見た肉ダルマ、もといおっさん方は逞しくも爽やかな笑顔で私の髪を鳥の巣に作り上げて、そのなすがままの私の状況をスヴェンはニヤニヤと笑っていていた。

「今日着いたばかりですか? もしかして今から領主様の所にいく予定で?」

「んにゃ、今日は宿でもとって明日向かう。いくらなんでも長旅で疲れたからな!」

「そうですか! ならスヴェンと一緒に私に付いて来てくれません?」

 駄目でしょうかと首を傾げる私に四人は顔を見合わせて、そしてスヴェンが私の頭を撫でる。
 その行動は了承した意味であろうと私は思い込むことにし、そしてあと少しの距離を五人で歩く。
 道端いる人々もそこそこ大きめな馬車と、ただでさえ目立っている私、そして筋骨隆々なおっさん達にチラチラ視線を向ける。
 その視線に気づいたスヴェンは私に何かしたなと睨みつけるが、毎度のことだと諦めていただきたいものだ。

「ウーゴさーん、居ますー? お話があるんですけどぉー?」

 いつもの様にあまり賑わっていない商業ギルドの扉を開け、いつものようにウーゴに声をかける。
 またお前かと呆れたような顔をしたウーゴは私の後から入ってきたスヴェンとおっさん達に気づくと、若干驚いたろうに目を細め、そして何の用だと私たちに問いかけた。
 勿論私たちに、とは言ったものの、実際用事のあるのは私のみ。
 しかしながら私のみより対応が早いのは結構なことだ。最近は色々面倒を押し付けているせいか、私一人だと逃げようとするのだもの。

 やはり大人四人についてきてもらって正解だったと思いながら、私はにこやかに笑って言葉を放った。

「露店って、開けます?」

「露店って、ついにスヴェンのモノを卸す気になったか!? なら貸し家の方がいいんじゃーー」

「いや、スヴェンのは卸さんし、売るのはちょっとした食べ物だよ」

 そう、私が売りたいのはスヴェンの商品、もとい私の製品ではなく、孤児専用のご飯である。
 サンドウィッチや持ち運びが簡単なパンケーキ、傷みにくいピクルスやオイル漬けなど、彼が仕事に持っていけるものその場で簡単で食べられるもの専用店だ。
 大衆向けの品揃えなんかする気は無いし、見知った人物にしか売らない予定だし、露店で十分なのだ。

「可能であれば商業ギルドの隅っことか、入口の近くがいいのだけれども、無理でしょうか?」

「何故その場所がいいんだ。 答えによっては考えよう」

「そうですね、露店ってことで切り盛りするのは殆ど私か補助に孤児がつく程度の店にする予定です。 人数はほぼ子供二人の露店で、尚且つお客は孤児のみに絞るつもりでいます。 何故孤児のみかといえば、彼奴ら、今はそこそこ稼げる立場に居ますので金銭のやり取りを学ぶ場が必要だと。 このままだといいカモになっちゃうので。 そんでそこんとこを踏まえて考えると変に治安の悪いところに露店を開くと私までカモになっちゃうのでなるべく治安がいいところがいいなぁと」

「なるほど、考えてはいるんだな。 でも簡単に場所は貸せねぇな。 ただでさえお前の場所は既にあるんだ、これ以上は無理だ」

「まじっすかぁーー。 どうしよ」

 派遣事務所として商業ギルドの一部を借りてる今、それ以上の場所は貰えない。
 ギルドの真ん前でやるってもあるが、それはそれで無理なのだろうか。
 まぁ、毎日のように孤児がギルドにたまるのは嫌なのかもしれない。

 さて如何したものかと頭をグルグルと悩ませていれば、私の肩を力強く握るスヴェンの左手がよく見える。
 ちょっと痛いんだけどと声を上げながらスヴェンの方を見れば、その顔に無表情にちかく、怒っているのが丸わかりだ。

「ギルドに場所わ借りてるだぁ? 今度は何をしたんだ!」

「ちょっと場所を借りて人材派遣を営んでおります! 作業員は主に孤児で、ついでに冒険者ギルドに喧嘩を売りましたが街の人たちには好評をいただいておりますっ!」

「こんっのアホ! 何してんだバカ! ギルドに喧嘩をふっかけんな! リズ、お前は何がしたいだんよ本当に!」

「より良い街づくりを! 主に私により良い街造りですかねぇ」

 ニヤニヤと笑いながら肩に乗っていたスヴェンの手を払い、そしてウーゴに同意を求める様な視線を向けると、彼は目を逸らしながらも街の役に立ってはいると公言してくれた。
 その言葉にスヴェンはため息をつき、そして全くお前らしいとグリグリと私の頭を撫でたのだ。

「なぁ、もしその露店が出来たら本当に孤児にしか売るつもりないのか? 俺にも売らない気か?」

「いや、スヴェンには無料で提供するよ? 勿論お世話になってるお三方にもね。それ以外は考え中かなぁ。数作るには人手もいるし、材料もいる。私だけじゃ賄えない」

 販売人数が増えりゃ、それだけの手間も時間もかかる。
 ちびっこ孤児たちの手を借りれば多少増えても何とかなるが、一般販売まで無理だろう。

「ならいっそ人も雇うとかどうだ?  そうすりゃ露店でも安全だろ? 雇うなら俺の方から信頼できるやつを見繕うぞ」

「そこまでしてもらわなくてもいいです。基本私は誰かの信頼なんて信じてないんで。私が信頼してない人といるのは苦痛なだけだし」

 ウーゴが信頼していても、私と信頼関係が築けるとは限らない。
 子どもだからって下に見られる可能性もあるし、大人だから頼れと言われるのも癪に触る。

 私が信頼を置くのは今のところ祖父とスヴェンと、アルノー。
 そしてレドとニコラ夫妻だ。
 それ以外を信頼する気は無い。

「んじゃあ、ひとまず安全そうな場所を教えてくれません?
 仕方ないのでそこら辺で露店を開くことにします」

「はぁーー。 なら此処を出て真正面の小道で開くといい。 露店は指定の場所がないから場所取りの問題はあるが、早朝誰かに取らせとけば近場が取れる。 そこならわりと安全な筈だ」

「ありがとうございます! あ、今度お近づきの印にお菓子持ってきますね」


 そしてそのお菓子でつられて、私に場所の提供を。

 なんてずる賢いことを考えながら、私達はギルドを後にしたのである。


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