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頼み事
しおりを挟むお祝いをしたい!
そんな孤児らはなぜか私の前に跪いた。
捧げられている貢物はアスピデ数匹ととブレーロ 一匹。
つまりはこれを使ってご飯作って!という事らしい。セシル達が自分たちだけで捕まえてきた初めての獲物を、仲間の就職祝いに使うなんて中々粋な事をしてくれる。少々面倒でもあるが二、三歳ほどの子供らまでもが私に頭を下げて願うのだ、叶えてあげるしかないだろう。
「んじゃ、必要なもの持ってくるからアスピデとブレーロは皮を剥いでおいて? あと鉄板あっためておくように! 私は足りない調味料持ってくるから!」
「まかされた! 頼む!」
はいよと手を振り扉に手をかけ、続いた道の先は我が庭。
せっせと働くレド達に手を振り倉庫に入り、マヨネーズとケチャップ、塩胡椒と必要な調味料を籠へと放り込む。
祝い事ならば派手さもあったほうがいいだろうと、フルーツ盛りだくさんのパウンドケーキ、フルーツ数種とトマトやその他野菜も諸々と。
忘れちゃならない小麦粉も籠へと放り込み、私はすぐに庭を後にした。
孤児達の家に着くと既に皮を剥がれたアスピデの内臓をかき出し水洗いし、ぶつ切りにしてから臭みを消すため酒に浸す。
ブルーロは肉を薄切りにし塩胡椒で下味をつけて焼いていく。
ちびっこ達の手を借りて小麦粉を水と塩、少量のベーキングパウダーで練り上げ、熱した鉄板の半面で薄く焼いてもらう。その間にトマトをベースとした野菜を乱切りにし、ブルーロの肉とともに鍋へ。味付けは塩胡椒でシンプルにしておこう。
中鍋には油を入れて温め始め、酒に浸したアスピデを取り出しニンニクと生姜、醤油で味付けをして小麦粉をまぶしておき、いくらかもみこんだところで油でカラッとあげればアスピデの唐揚げの出来上がりだ。
蛇故に少々骨が多いのが難点だが、あまり肉を食べない孤児にとっては問題にならないだろう。
焼きあがった薄パンは半分に切り中を割ってポケットのようにし、千切りにしたレタスと炒めた肉を挟み込みマヨネーズとケチャップを合わせたオーロラソースをかければなんちゃってケバブの完成である。
出来上がった唐揚げを大皿に盛り、ケバブとスープは一人前ずつ、フルーツケーキは二センチほどに切り分け、フルーツと共にデザートに。
食欲をそそる匂いとともに、私特製お祝い膳の完成と言おうか。
「さて、ヤン君。 この度はおめでとう! 今後も精進するように! ではいただきます!」
おめでとうと皆々が祝いの言葉をヤンにかけ、ヤンは嬉しそうに恥ずかしそうにはにかんで見せた。
ヤンはすでにみてくれも幾らかマシになり、今は白いシャツに深緑のズボン。腰には短刀が下げられており、ぱっと見孤児とは思えない。
きっとあの後オスカーにでもついてもらって衣類を揃えたのだろう。
ワイワイ騒ぐ子らに冷めないうちにお食べと声をかけて、私もパクリとケバブに齧り付く。
まだ熱々の肉に絡みつくオーロラソースはトマトの酸味とマヨネーズのまろやかさが合わせって美味い。シャキシャキのレタスも食感と、もっちりしつつもパリッとしたパンの塩っ気も中々のものじゃないか。
即興で作ったトマトスープも野菜の甘みがしみ出ていて、尚且つ肉の旨味もある。ゴロゴロと煮込まれた野菜の柔らかさもまたいい。
やや骨の多い唐揚げも鳥ササミのような淡白な味ながら、ニンニクと生姜のパンチが効いてて後味をひく出来栄えだ。
我ながら美味い料理だと自画自賛してやる。
ひたすらモグモグと食べ進めていると私を見つめてくる六つの視線に気がついた。
それはセシル、ウィル、デリアの三人だ。
どうしたと首を傾げると、有難うと口にしたのである。
「ん? それは何に対しての有難う? 料理作ったことに対しての?」
「それもあるけど、スープや果物までーー。俺たち、肉しか用意出来なかったのに」
「嗚呼、それか。 まぁ、作るならあった方がいいかなと思ったし、それに今回の事は他の子にも良い影響になると思って特別にね」
「良い影響?」
「そ、良い影響! 仕事を頑張れば次に繋がる。今までじゃ考えられなかった生き方も出来ると示したいい出来事で、将来的には私に頼ることもなくなりそうだしっ!」
今までは孤児である以上、つける職業は限られていた。
男ならば力仕事を売りに出来るが、女ならば娼婦になる事だって珍しくない。
いくらこの街に仕事が溢れていようとも、それが自分で選べる立場にはいなかったのだ。
けれどもヤンはエリオに見初められ、船乗りになる事が出来た。
ボロいお下がりの服ではなく新しいものを身につけ、目は期待にキラキラとさせてどんよりとした雰囲気は無くなっている。
もしこれが最初で最後でなければ、今後も孤児達から引き抜きされる者は増えるだろう。
きちんと仕事ができると理解してもらえれば今までよりずっとマシな生活を送ることが出来るのだから、孤児達だって今よりももっと頑張るはず。
そうすれば少量ながら私の懐に入る手間賃も増えていくし、将来的に全員手放した暁にはこんなお世話をすることもなくなるだろうし、私の派遣活動もそれで終了。
最年少が独り立ちするまで時間はかかるだろうが、いくらなんでも死ぬ瞬間まで面倒みる気なんてないのだよ、私は。可能ならばこれより稼げる弁当屋一本に絞りたい。
「まぁ、今日みたいに私の手間に感謝するなら、まともに働けるようになったらタダで手伝いしてよ。畑づくりとか干し芋作りとか、やりたい事はまだあるんだから」
「……そんなんでいいのか?」
「そんなんって。畑づくりは大変なんだぞ? 舐めてかかると痛い目見るからな!」
足腰は痛くなるし服は汚れるし、爪に土は挟まるし。
収穫だって楽じゃない。
庭で育てる分はレド達に任せっきりにできるけど、こっちの庭では自分でやるしかないし些か面倒だ。
頼りにしてるよと冗談交じりに言葉をかければ、デリアのみが元気よく返事をしてくれた。
「あ、そういやさ。 実はリズエッタに頼みたいことがあるだけど、いいか?」
「ん? 何? ものによるけど?」
「これ、用意出来たりする?」
私の頼みなど無かったように、ウィルは話を変えるように自分の頼みを私へ言う。それ程タダ働きはいやと言う事なのだろうか。
まぁ、こいつらの事だどうせ食い物だろうと思いながら渡させた黒板を見ると、そこに記されていたのは私のよく知る名前の数々で、無意識に眉間に皺が寄ったのが分かった。
「ホントはもっと早く聞きたかったんだけどよぉ、会えなかったし」
悪びれもなく笑って言うウィルに、ほんの僅かの殺気さえも芽生え、ヒクヒクと口ものが動き出す。
「どうしても欲しいんだけど、無理かな?」
「少しだけでもいいみたいなんだけど」
お願いしますと頭を下げるデリア。
頼むよと言いながらそっぽ向くセシル。
「な! 手伝いでもなんでもするから!」
笑いながら、なんともないお願いをするように頼み込むウィル。
今まで美味しく幸せな気持ちでご飯を食べていたのに、こんな思いをするなんて思いもよらなかった。いくらニコニコしていた私でも、口角が一気に下がった事がわかる。
私は不安げな様子もなく、当たり前に叶えてくれるという思い込みをしているそんな三人に向かって、真顔で答えてあげたのである。
「お前達は私と縁を切りたいのか。わかった了承してやる」
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