おきつね様の溺愛!? 美味ごはん作れば、もふもふ認定撤回かも? ~妖狐(ようこ)そ! あやかしアパートへ~

にけみ柚寿

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2章

第18話 友からの貴重な情報

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 この4月から1人暮らしする予定だったわたしは、とある事情からアパート沢樫荘で共同生活を送ることになってしまった。
 ……しかも、わたしと同居している者たちは、あやかしと呼ばれる、人とはことなる存在。

 けれど彼ら――妖狐の興恒おきつねさんと燐火のリンちゃん――は、食生活に関していえば、人間とおなじ内容の食事をおなじくらいの量、たべる。
 なので、わたし1人分の食費では軽く予算オーバーしてしまう。

(でも、平凡な食材だって、興恒さんが料理をつくってくれれば絶品に早がわりだし。それにリンちゃんだって、単なる『体のサイズがすごく小さいわりに大喰らいさん』じゃ決してない……。わたしが買ってくるお菓子をとってもよろこんでくれるリンちゃんの姿には、何度なごませてもらったことか)

 わたしはこの前の週末。興恒さんとリンちゃんに苺大福をおみやげに買って帰ったことを思いだした。
 ふたりとも、すごくよろこんでくれたな。まだ一昨日おとといのことだから、よくおぼえている。

 先週わたしが買ってきたのは、黒あんの苺大福。
 すでに白餡の苺大福の味は知っている興恒さんとリンちゃんだけど、黒餡の苺大福は一昨日が初めて。
 白餡ではなく、黒餡だってこんなに生の果実とあうのか! 感激した!! と興奮さめやらぬ口調で語っていた2人。

 来月から食費を切りつめまくって、質素な食事のみ、お菓子はなし……になったら、きっとふたりともガッカリするし、わたしもなんだかさびしいなぁ。うん、お腹も心も満たされないはず。

(よし! ここはやっぱり、わたしがアルバイトをみつけて、お金をかせごう!)

   * * * * * *

 学生食堂は今日もにぎやか。
 昼食をとるために入ったこの食堂で、わたしは恵に切りだした。

「1人暮らしにも慣れてきたし、わたし、そろそろバイトしようと思う」

 恵は、わたしの隣の席にすわり、ボリュームたっぷりの定食を食べようとしていたものの、箸《はし》の動きをいったん止めた。そして、きょとんとした表情をうかべ、質問してくる。

「バイトって、紗季音はどんなバイトを希望してるの?」

 恵に聞かれてハッとする。

(ついさっき、『アルバイトをみつけて、お金をかせごう!』と決意したばかりだから、具体的なビジョンはまだ何も――)

 考えがかたまってないわたしは、ポツリポツリとしか話せない。

「うーんとね……バイト自体は実家に住んでるときなら……やってたよ。神奈川のキャンパスに自宅から通学してたときだけど。でも、今年度からは都内のキャンパスに通うんで、アパートを借りることになって、それからはバイトしてないんだ――。あ、わたし、今は、あんまり帰りが遅くなるバイトは難しいかも……」

 先週、興恒さんから『帰りが遅くなるときはむかえにいく』と言われてしまったことを思いだし、帰りが遅いバイトじゃないほうがいいと気づく。

 それと同時にわたしは、「現在の興恒さんの住処すみか 沢樫荘とこの大学までの通学距離のような、ごく近い距離なら大丈夫だけど、興恒さんから遠く離れた場所にわたしが1人で移動すると――数週間前にわたしをつかまえようとした黒い霊体がふたたびわたしをとらえにきた場合、非常に困ったことになる」っていう、我が身のやっかいな事情も思いだす。

 わたしには興恒さんとちがって神通力なんてものはないから、黒い霊体を蹴散らすなんて無理。
 それにくわえて黒い霊体は一度獲物と決めた相手を1年間、あきらめないしつこい性質らしい。

 わたしとしては、なんとか無事に1年すぎてほしいところなんだけど……。
 ああ、アルバイトの条件がどんどん増えていく。

「帰りが遅くなるだけじゃなくて、大学やアパートから離れてる場所にあるバイト先も……ちょっと避けたいんだ。じゃあ、どういうのがいいかって言ったら――たとえば、とってる講義と講義のあいだにはさまれた空き時間に、いままではレポート書いたりしてたけど――そういうあいた時間にできる短時間アルバイトがあるとベストかも……。でも、そんな、こっちにとって都合のいい条件ばっかりのバイト、そうそうないよね」

 あきらめ半分ため息まじりで、わたしは自分の希望を口にしてみる。
 恵は口元にニッコリと笑みをうかべた。なにやら自信ありげなご様子。

「あるよ、紗季音の話した条件にあうバイト」

「……へ? 恵、それ、ほんとなの?」

「うん、紗季音はこの大学から離れてない場所でバイトを探してるんだよね。……しかも講義と講義の空き時間を有効活用できて、帰りが遅くならなくてもバイト代は入る。紗季音にとって、うってつけのバイト先かもしれないところが募集かけてたよ」

 そんな、今のわたしの理想にぴったりのバイトがあるなんて。
 でも。

「それって、いったいどんなバイト……?」

 恵がどんなアルバイトのことを言ってるのか見当もつかない。
 早く正解を知りたいわたしに、彼女は答えを教えてくれた。

「それは、このキャンパスの中にある、大学図書館のバイト! 学生アルバイトを募集しててね、講義の空き時間とか希望にあわせてシフト組んでくれるって。今回の募集、学生課の掲示板に情報がでてたんだけど、学生アルバイトの場合、司書資格とか、そういった資格や経験は特に必要ないって。最初のうちは返却された資料を書架にもどす作業がメインになるって書いてあったはず……」

 おお、この大学の近くにあるどころか、ここの敷地内にあるなんて!

「恵~、教えてくれてありがとう! 空き時間にキャンパス内でバイトができるの、すごくいい! 募集しめきられないうちに応募してきちゃうね」

 昼食もそこそこにわたしは、バイト先を求めて食堂をあとにしようとする。
 どう応募すればいいのかは、学生課に行けばいいのかな。とりあえず行ってみよう。
 はやる気持ちをおさえきれないわたしに恵が言った。

「あ、応募は直接図書館で受けつけるって。行くなら図書館がいいんじゃないかな。くわしい募集内容の書いてあるポスターが図書館の入り口にも貼ってあるらしいし」

「そうなの? じゃ、わたしちょっと行ってくる!」

 受かるかはまだわからないけれど、条件にあったバイト情報を得たわたしは希望に燃えていた。
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