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悪い事したい・その四……お金持ちの買い物の仕方
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「お嬢様、こちらは平民街です」
劇場を出て『婚約者の後をつけていた』と噂されるのも嫌なので、彼らが出て行った方向とは逆の方へ歩いた。
彼らとは逆の方向と思っていたら、平民街に来ていたらしい。
貴族街は、宝石店・ドレス店・靴店・革製品の店・香水店・他国の商品が揃えられた店・貴族御用達の文房具店・本屋、それに美術館や図書館・高級食材店・食事店などがある。
あの二人は迷うことなく貴族街の方へ吸い込まれていった。
慣れた足取りを見るに、よく二人で訪れているのだろう。
「この辺りには何があるの? 」
貴族街から歩き、中心地に劇場や花屋。
平民街へと移れば雰囲気が変わっていく。
「宝石・ドレス・革製品などの買い取り店から始まり、雑貨店、家具や楽器店、食事店、食材店。奥は工房などですね」
「そうなんだ」
私の今日の手持ちは残った金貨六枚。
あてもなくふらふらと歩いて行く。
「パン……パンは如何ですか? 美味しいですよ」
小さな男の子が店の前で呼び込みをしている。
「パン……お腹空いたかも……あのパン屋入ってみようかな」
かくれんぼは運動とは言えないが、あの広い家を歩き回ったのでお腹が空いている。
「ありがとうございます」
私が店に入るだけで男の子は嬉しそうに微笑む。
そんな姿を見せられてしまうと、何も買わずに出る事が心苦しくなる。
扉を開ければパン屋のいい匂い。
時間帯を考えれば売り切れていても良いはずなのに、ほとんどが残っている。
全ての家庭に焼き窯があるわけではない。
大抵の人はパン屋で買うか、自身でこねたパン生地をパン屋で焼いてもらうかの二択。
賑わっていてもいい時間帯ににも拘らず、お客の気配がない。
もしかしたら私は店選びを失敗したのかもしれないと後悔し始めた。
「えっと……こちらを一ついいかしら? 」
「ありがとうございます」
「ここで食べても? 」
「はいっ」
恐る恐る口にする。
「んっ。美味しいっ」
予想よりというか、普通に美味しいパンだった。
何故こんなに売れ残っているのだろうか?
「ありがとうございます」
「あの……これは明日の分ですか? 」
「……いえ。本日の売れ残りです」
「こんなに? ぁっと……こちらは出店したばかりなんですか? 」
客が付いていないのか、店の存在を知られていないのか……
「いえ。十二年目です」
「十二年……」
この状態で十二年。
王都の土地代はかなり高い。
これでやって来れたのか?
パン一つの値段も高い訳ではないのに……
「近所に新たなパン屋が出来まして、お客さんそちらに流れてしまって……」
「あぁ、そういう事ですね」
「それに……夫が亡くなりお店を私一人で回すようになった時に、パン屋の組合というものが出来ていて……そこに加入しないとパンの製造が許可されないという事になっていたんです」
「組合に参加していないんですか? 」
「いえ。急いで手続きをしたんですか店の調査・検査に三カ月待ちになり、その間は営業が出来ず、再開した時にはお客さんが離れてしまったんです」
誰かの陰謀かと思ったが、タイミングが悪かったのか……
「なら、この店の商品全部買い取るわ」
「えっ? 冗談……ですよね? 」
「本気です。こちらで足りるでしょうか? 」
金貨六枚を差し出す。
「あっはい、もちろん……本当によろしいんですか? 」
「もちろん」
店主は急いで準備をする。
私としては、一度やってみたかった買い方。
伝説の『ここからここまでください』買い。
宝石やドレスや靴を対象にすれば迫力があるのだろうが、そこまでの勇気は私には無い。
パン屋が精いっぱいです。
しかも、パンなら使用人達に配れば廃棄することもない。
皆へのお土産を買い、私は公爵家へ戻る。
その日、父にあるお願いをした。
「お父様、これから公爵家のパンをあるお店に依頼したいのですがよろしいでしょうか? 」
「構わない。好きなパン屋が出来たのか? なら、そのパン屋を買い取るか? 」
「買い……おおおおおお店の買い取りは大丈夫です。パンだけで……」
生粋のお金持ちの買い方はスケールが違う。
本物を見た。
「そうか」
父の溺愛が怖すぎる。
少しのお願いが大変な事になりそうで、気を付けなきゃいけないと実感。
その後あのパン屋だが、公爵家の馬車が毎日パンを取りに来るところを目撃され『公爵家御用達』と噂になり人気店となった。
本日の一言日記。
やや小心者を発揮してしまったが、伝説の『全部買い』は気分がいい。
劇場を出て『婚約者の後をつけていた』と噂されるのも嫌なので、彼らが出て行った方向とは逆の方へ歩いた。
彼らとは逆の方向と思っていたら、平民街に来ていたらしい。
貴族街は、宝石店・ドレス店・靴店・革製品の店・香水店・他国の商品が揃えられた店・貴族御用達の文房具店・本屋、それに美術館や図書館・高級食材店・食事店などがある。
あの二人は迷うことなく貴族街の方へ吸い込まれていった。
慣れた足取りを見るに、よく二人で訪れているのだろう。
「この辺りには何があるの? 」
貴族街から歩き、中心地に劇場や花屋。
平民街へと移れば雰囲気が変わっていく。
「宝石・ドレス・革製品などの買い取り店から始まり、雑貨店、家具や楽器店、食事店、食材店。奥は工房などですね」
「そうなんだ」
私の今日の手持ちは残った金貨六枚。
あてもなくふらふらと歩いて行く。
「パン……パンは如何ですか? 美味しいですよ」
小さな男の子が店の前で呼び込みをしている。
「パン……お腹空いたかも……あのパン屋入ってみようかな」
かくれんぼは運動とは言えないが、あの広い家を歩き回ったのでお腹が空いている。
「ありがとうございます」
私が店に入るだけで男の子は嬉しそうに微笑む。
そんな姿を見せられてしまうと、何も買わずに出る事が心苦しくなる。
扉を開ければパン屋のいい匂い。
時間帯を考えれば売り切れていても良いはずなのに、ほとんどが残っている。
全ての家庭に焼き窯があるわけではない。
大抵の人はパン屋で買うか、自身でこねたパン生地をパン屋で焼いてもらうかの二択。
賑わっていてもいい時間帯ににも拘らず、お客の気配がない。
もしかしたら私は店選びを失敗したのかもしれないと後悔し始めた。
「えっと……こちらを一ついいかしら? 」
「ありがとうございます」
「ここで食べても? 」
「はいっ」
恐る恐る口にする。
「んっ。美味しいっ」
予想よりというか、普通に美味しいパンだった。
何故こんなに売れ残っているのだろうか?
「ありがとうございます」
「あの……これは明日の分ですか? 」
「……いえ。本日の売れ残りです」
「こんなに? ぁっと……こちらは出店したばかりなんですか? 」
客が付いていないのか、店の存在を知られていないのか……
「いえ。十二年目です」
「十二年……」
この状態で十二年。
王都の土地代はかなり高い。
これでやって来れたのか?
パン一つの値段も高い訳ではないのに……
「近所に新たなパン屋が出来まして、お客さんそちらに流れてしまって……」
「あぁ、そういう事ですね」
「それに……夫が亡くなりお店を私一人で回すようになった時に、パン屋の組合というものが出来ていて……そこに加入しないとパンの製造が許可されないという事になっていたんです」
「組合に参加していないんですか? 」
「いえ。急いで手続きをしたんですか店の調査・検査に三カ月待ちになり、その間は営業が出来ず、再開した時にはお客さんが離れてしまったんです」
誰かの陰謀かと思ったが、タイミングが悪かったのか……
「なら、この店の商品全部買い取るわ」
「えっ? 冗談……ですよね? 」
「本気です。こちらで足りるでしょうか? 」
金貨六枚を差し出す。
「あっはい、もちろん……本当によろしいんですか? 」
「もちろん」
店主は急いで準備をする。
私としては、一度やってみたかった買い方。
伝説の『ここからここまでください』買い。
宝石やドレスや靴を対象にすれば迫力があるのだろうが、そこまでの勇気は私には無い。
パン屋が精いっぱいです。
しかも、パンなら使用人達に配れば廃棄することもない。
皆へのお土産を買い、私は公爵家へ戻る。
その日、父にあるお願いをした。
「お父様、これから公爵家のパンをあるお店に依頼したいのですがよろしいでしょうか? 」
「構わない。好きなパン屋が出来たのか? なら、そのパン屋を買い取るか? 」
「買い……おおおおおお店の買い取りは大丈夫です。パンだけで……」
生粋のお金持ちの買い方はスケールが違う。
本物を見た。
「そうか」
父の溺愛が怖すぎる。
少しのお願いが大変な事になりそうで、気を付けなきゃいけないと実感。
その後あのパン屋だが、公爵家の馬車が毎日パンを取りに来るところを目撃され『公爵家御用達』と噂になり人気店となった。
本日の一言日記。
やや小心者を発揮してしまったが、伝説の『全部買い』は気分がいい。
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