【完結】浮気や愛人が許される世界に転生。皆が私に期待する

天冨 七緒

文字の大きさ
14 / 63

悪い事したい・その五……華麗に婚約解消宣言

しおりを挟む
 何かのヒントにと美術館に訪れたのに、なんの閃きも起きなかった。
 悩みながら学園の廊下を歩く。
 
「シャルロッテ……シャルロッテッ……」

「あっ、私か」

 未だにシャルロッテ・アイゼンハワーという名前に慣れていない。
 振り向き私を呼んだ相手を確認すると予期せぬ人物だった。

「そんなに俺の関心を引きたいのか? 」

 この男は急に何を言い出すのか?

「なんの事でしょうか? 」

「俺の休日の行動を探らせ尾行するとは公爵令嬢とは思えない行動だな」

「何を言っているのでしょうか? 」

「先日、美術館で俺が気が付いていないと思ったのか? あぁいうのは止めてくれ。俺にも自由が欲しい」

 私がいつ貴方に強制した?
 しかも偶然にも拘らず私が追い掛け回したみたいな発言。
 あんたが勝手に逃げたんだろうがっ。

「何か誤解があるようですが、美術館に行ったのは偶然です。まさかアンダーソン伯爵令息もあの時間に女性といらっしゃるとは思いませんでした」

「なっ、令嬢は友人だ」

「そうですか。私には関係ない事ですね」

「関係ない? 俺が婚約者なのにか? 」

「あっ、そういえば貴方様は私の婚約者でしたね」

「ふっ、今さら白々しい。無理やり婚約を迫っておきながら。俺と令嬢の関係に口出すようなら婚約について考え直さなければならないな」

 彼は婚約解消は決してないと思っている態度だ。
 婚約解消……考えた事なかった。

「そうですね。では、婚約解消致しましょう」

 確かに売り言葉に買い言葉だったのかもしれない。
 だが言って気が付いたが、いい提案ではないだろうか?
 私達の会話を面白がって聞いていた者達も、私の突拍子もない発言に一気に緊迫感を感じ始める。

「……何を……言っているんだ? 」

 自身が言い出した事なのに、彼は虚を突かれた表情を見せる。

「婚約を解消したいと言っているんです」

「そうやって俺の気を惹きたいのか? そのような行動が男を興ざめさせるんだ」

 あなたの気など惹く気は全くないんだが……

「令息には伝わっていないようですが、私は本気です。貴方様との婚約解消を望みます」

「は……ははは、シャルロッレ……婚約は……そんな……簡単に……解消……出来るものでは……」

 乾いた笑いに私の名前も正しく言えない程の混乱ぶりをみせる。

「出来ますよ」

「は……ぃ? 」

 信じられないといった彼の表情。

「この婚約は私が言い出した婚約です、解消も私の意思で出来ます」

「公爵は……」

「お父様は本来、令息ではなく別の方を望んでおりました。なので、今回の私の決断には喜んでくださると思います」

 貴族の婚約は政略的なものが主流。
 彼も伯爵家と繋がる事で公爵に旨味があると思い込んでいたのだろう。
 公爵が令息ではない別の相手を望んでいた事実は初めて聞いたようで、彼は次第に震えを抑えることが出来なくなっていた。

「シャァ……ルロッテは……俺との婚約を……望んでいたんだろう? 」

 公爵を諦め、今度は私に縋りつき始める。
 
「どうでしょう? 婚約を申し込んだ頃の私は、貴方の『顔』に興味がありました。今は……飽きてしまいました」

「飽き……て……」

 笑顔で宣言すると、彼は口をパクパクさせ始める。
 あの恋人がいるんだから、婚約解消は彼にとっても良い提案なのに何故動揺しているのだろう?
 公爵家との繋がりが切れるのは困るのだろうか?
 なら、あんなに堂々と恋人と出かけることも私に苦言を呈することもしなければ、こんなことにならなかったのに。
 誰もいない場所であればなかったことに出来るのだろうが、こんな場所を選んだのは彼自身。
 周囲には多くの生徒が私達に注目している。

「ですので婚約解消の話は私から父、公爵に伝えておきますね。令息には既に心に決めた令嬢がいることは公爵に伝えておきますか? 」

「やめてくれっ」

 自身の不貞が原因で婚約解消となれば、娘を溺愛する公爵からの報復に怯えているのかもしれない。
 だが私としては令嬢の話は出さないが、婚約解消の話は出す許可を頂けたので満足。

「分かりました。その事は私からは伝えないでおきますね」

 話が終わり去って行く私の道を塞がないよう、集まっていた人々は自然と避けていく。
 多くの生徒がいた訳ではないが、休憩時間で人が行き交う廊下での公爵令嬢の『婚約解消宣言』。
 そんな誰もが興味を引く話題は、その日のうちに全校生徒だけでなく教師までもが知ることになった。

 本日の一言日記。
 婚約解消は少しでも怯んだ方の負け。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした

柚木ゆず
恋愛
 行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。  お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……? ※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。  姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。  ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。

婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。 わたしには、妹なんていないのに。  

処理中です...