15 / 63
半分冗談ですが、半分本気です
しおりを挟む
屋敷に到着。
「お父様と話したいことがあるの」
「旦那様ですか? お伝えしてきます」
家族と会話するにも事前に許可が必要なのは、貴族は面倒だ。
「お嬢様。旦那様がお会いになるそうです」
父のいる執務室へ向かう。
「お父様……」
「入りなさい」
「はい」
「どうしたんだ?」
仕事中にも拘らず手を止め、私に視線を向けてくれる。
「私の婚約についてなのですが……」
「おぉ。アンダーソン伯爵とは話が付いているから心配はいらないぞ」
「……その事なんですが、アンダーソン伯爵令息との婚約を解消することは出来ませんか?」
「解消? どうしてだ? 何をされたんだ? 私に話してみなさい」
娘溺愛の父。
私としては奴の浮気など全てを話してしまいたいが、約束してしまった手前なんて説明したらいいのか悩み中。
「……分かった。婚約解消を望むんだな?」
何を分かったのか私には分からないが、婚約解消できるのならそれでいい。
「はい、よろしくお願いします」
私が何も話さなかった事で、娘溺愛の父も何もしない……
なんて事はなくアンダーソン伯爵と令息二人を呼び付け、何故私が婚約解消を望むような結果になったのかを懇切丁寧に時間を掛けて聞き出していた。
「公爵様、シャルロッテは何か誤解しているようなんです」
「誤解? 何のことだ?」
「それは……」
ジャイルズは口を閉ざしてしまった。
「本当の事を話した方が良いんじゃないのか? 」
「……本当の事……ですか? 私は先程から、本当の事を……」
「娘が何も言わないからと、私が知らないとても思っているのか?」
普段笑顔を絶やさない優しい人の凄みは迫力がある。
知らない公爵の表情にジャイルズは震えあがる。
「こ……公爵様……それは……」
「私は娘の幸せを第一に考えている。その娘が必要ないと判断すれば、私はその願いを叶えるだけだ。その理由が相手にあれば私は容赦しないぞ」
「あっ……あっ……申し訳ありません」
「ジャイルズ?」
謝罪を口にするジャイルズに伯爵が異変を感じる。
「あの……………リーンとは……最近親しく……」
「ジャイルズ。私は娘から婚約解消の提案がある前から君の状況を把握しているぞ」
その言葉で諦めたようにジャイルズは恋人の存在を嘘偽りなく明かす。
アンダーソン伯爵は『息子の不貞は若気の至り』だと発言し、婚約続行を願うも解消が覆ることは無かった。
ジャイルズの方は、潔かった。
事前に『公爵は元から自身を望まず、別の人間を考えていた』という事を教えていたのが悪あがきをしなかった。
「シャルロッテ、婚約解消が決定した。慰謝料は好きに使うといい」
両家からの慰謝料は全額私が使用して良いと渡された。
話題の彼らは当分学園を休むことになった。
ちなみに、両家とはアンダーソン伯爵家と恋人のマルティネス伯爵家。
彼らとは、ジャイルズ・アンダーソンとエヴァリーン・マルティネスの事。
「アイゼンハワー、少しいいか? 」
「はい」
婚約解消した私を腫れ物のように扱う人達の中、キングズリーに呼び止められる。
「どうだ? 芸術祭の方は順調か? 」
「……何とか、今日から作業に入ろうと思っています」
……本当は何も決まっていない。
美術館では何か閃かないかと期待したが、別の事に気を取られて何もアイデアが生れなかった。
色々考えたいのに、様々なところから邪魔が入る。
「……大丈夫なのか? 」
「まぁ、何とか期日までに何かしら提出したいと思います」
「いや……そちらもだが……」
「あっ、記憶の方ですか? まだ、何も。今は無理に思い出そうとはしていません」
「それもなんだが……」
私が他にキングズリーに心配されるような事ってあったか?
「他ですか? 」
「……婚約……解消したと聞いた」
「あっそれですか。はい、しましたね」
その事か。
その日のうちに拡散されていたので、教師の耳にも入ったらしい。
「……無理する事はないんだぞ? 」
もしかしたら、私が婚約解消され落ち込んでいると思って声を掛けてくれたのだろうか?
「無理はしていません、あの人との婚約を継続している方が苦痛でした。一つ、悩み事から解放されました」
「……そうか」
「先生は心配してくれているんですか? 」
「当たり前だ。忘れているのかもしれないが、令嬢が婚約解消するのはかなりの痛手となる。傷物令嬢とされ、次の婚約が決まり難いどころが酷い人物に嫁がされることもある」
「では、先生が婚約者になってくれますか? 」
「何故そうなる? 」
「先生って結婚されているんですか? 」
「結婚はしていない」
「婚約者は? 」
「いない」
「なら丁度いいですね。どうです私なんて? 」
「そのくらい冗談が言えるなら大丈夫そうだな。芸術祭楽しみにしている」
キングズリーは振り向くことなく去って行った。
「……行っちゃった」
キングズリーへの婚約の打診は、半分冗談だったが半分本気……
「冗談めかしじゃなきゃ言えないことってあるのに……」
この手の冗談は私には似合わないらしい。
言って後悔した。
「お父様と話したいことがあるの」
「旦那様ですか? お伝えしてきます」
家族と会話するにも事前に許可が必要なのは、貴族は面倒だ。
「お嬢様。旦那様がお会いになるそうです」
父のいる執務室へ向かう。
「お父様……」
「入りなさい」
「はい」
「どうしたんだ?」
仕事中にも拘らず手を止め、私に視線を向けてくれる。
「私の婚約についてなのですが……」
「おぉ。アンダーソン伯爵とは話が付いているから心配はいらないぞ」
「……その事なんですが、アンダーソン伯爵令息との婚約を解消することは出来ませんか?」
「解消? どうしてだ? 何をされたんだ? 私に話してみなさい」
娘溺愛の父。
私としては奴の浮気など全てを話してしまいたいが、約束してしまった手前なんて説明したらいいのか悩み中。
「……分かった。婚約解消を望むんだな?」
何を分かったのか私には分からないが、婚約解消できるのならそれでいい。
「はい、よろしくお願いします」
私が何も話さなかった事で、娘溺愛の父も何もしない……
なんて事はなくアンダーソン伯爵と令息二人を呼び付け、何故私が婚約解消を望むような結果になったのかを懇切丁寧に時間を掛けて聞き出していた。
「公爵様、シャルロッテは何か誤解しているようなんです」
「誤解? 何のことだ?」
「それは……」
ジャイルズは口を閉ざしてしまった。
「本当の事を話した方が良いんじゃないのか? 」
「……本当の事……ですか? 私は先程から、本当の事を……」
「娘が何も言わないからと、私が知らないとても思っているのか?」
普段笑顔を絶やさない優しい人の凄みは迫力がある。
知らない公爵の表情にジャイルズは震えあがる。
「こ……公爵様……それは……」
「私は娘の幸せを第一に考えている。その娘が必要ないと判断すれば、私はその願いを叶えるだけだ。その理由が相手にあれば私は容赦しないぞ」
「あっ……あっ……申し訳ありません」
「ジャイルズ?」
謝罪を口にするジャイルズに伯爵が異変を感じる。
「あの……………リーンとは……最近親しく……」
「ジャイルズ。私は娘から婚約解消の提案がある前から君の状況を把握しているぞ」
その言葉で諦めたようにジャイルズは恋人の存在を嘘偽りなく明かす。
アンダーソン伯爵は『息子の不貞は若気の至り』だと発言し、婚約続行を願うも解消が覆ることは無かった。
ジャイルズの方は、潔かった。
事前に『公爵は元から自身を望まず、別の人間を考えていた』という事を教えていたのが悪あがきをしなかった。
「シャルロッテ、婚約解消が決定した。慰謝料は好きに使うといい」
両家からの慰謝料は全額私が使用して良いと渡された。
話題の彼らは当分学園を休むことになった。
ちなみに、両家とはアンダーソン伯爵家と恋人のマルティネス伯爵家。
彼らとは、ジャイルズ・アンダーソンとエヴァリーン・マルティネスの事。
「アイゼンハワー、少しいいか? 」
「はい」
婚約解消した私を腫れ物のように扱う人達の中、キングズリーに呼び止められる。
「どうだ? 芸術祭の方は順調か? 」
「……何とか、今日から作業に入ろうと思っています」
……本当は何も決まっていない。
美術館では何か閃かないかと期待したが、別の事に気を取られて何もアイデアが生れなかった。
色々考えたいのに、様々なところから邪魔が入る。
「……大丈夫なのか? 」
「まぁ、何とか期日までに何かしら提出したいと思います」
「いや……そちらもだが……」
「あっ、記憶の方ですか? まだ、何も。今は無理に思い出そうとはしていません」
「それもなんだが……」
私が他にキングズリーに心配されるような事ってあったか?
「他ですか? 」
「……婚約……解消したと聞いた」
「あっそれですか。はい、しましたね」
その事か。
その日のうちに拡散されていたので、教師の耳にも入ったらしい。
「……無理する事はないんだぞ? 」
もしかしたら、私が婚約解消され落ち込んでいると思って声を掛けてくれたのだろうか?
「無理はしていません、あの人との婚約を継続している方が苦痛でした。一つ、悩み事から解放されました」
「……そうか」
「先生は心配してくれているんですか? 」
「当たり前だ。忘れているのかもしれないが、令嬢が婚約解消するのはかなりの痛手となる。傷物令嬢とされ、次の婚約が決まり難いどころが酷い人物に嫁がされることもある」
「では、先生が婚約者になってくれますか? 」
「何故そうなる? 」
「先生って結婚されているんですか? 」
「結婚はしていない」
「婚約者は? 」
「いない」
「なら丁度いいですね。どうです私なんて? 」
「そのくらい冗談が言えるなら大丈夫そうだな。芸術祭楽しみにしている」
キングズリーは振り向くことなく去って行った。
「……行っちゃった」
キングズリーへの婚約の打診は、半分冗談だったが半分本気……
「冗談めかしじゃなきゃ言えないことってあるのに……」
この手の冗談は私には似合わないらしい。
言って後悔した。
842
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした
柚木ゆず
恋愛
行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。
お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……?
※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果
柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。
姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。
ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。
婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?
柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。
わたしには、妹なんていないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる