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悪い事したい・その十……ひと夏の恋
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テオバルドとの約束当日。
バイトは休みだが、定食屋に向かっている。
この日マキシーは一緒ではない……
一緒ではないが、後方でエイジャックスと一緒に私の後を付けている。
だからなのか不安はない。
テオバルドとは知り合ってばかり。
見た目は素敵だし、強引でないとこは好ましい……
だけど、それだけ。
好きという感情は今のところない。
人生で一度でいいからデェトというものをしてみたかっただけ。
……それと……あの人を忘れられたらと思っていた。
「デェト前日に会っちゃうなんて……」
別に悪い事しているわけではないのに……
知られたくないと思ってしまった。
こういう時の予感というものは当たってしまいそうで怖い。
「アイゼンハワー、今日はこれからなのか? 」
「えっあっ今日はお休みで……」
会ってしまった。
お昼時に定食屋の前で待ち合わせしていたら、あってしまう可能性は高い。
こうなると分かっていたら、待ち合わせ場所を別の場所にしていたのに……
キングズリーには早くお店に入ってほしい。
それかテオバルドが遅刻していてほしいのだが、お店の前にはそれらしき人物の姿が見えてしまった。
「シャーリン」
私を見つけると名前を呼びながら近づいてくる。
無視も出来ずに動けずにいる私に、隣のキングズリーは『シャーリン? 』と呟く。
親しい相手にだけ呼べるシャルロッテの愛称と思われそうだが、ただの偽名。
彼には本名など伝えていないと言い訳したいが、彼が近づいてきているのでそれもできない。
私一人気まずさを感じているが、二人は何も気にすることなく対面している。
「シャーリン、この人は? あっお兄さんとか? こんにちは」
本気なのかわざとなのか分からない彼の質問。
「私はただの知り合いです。偶然お会いしただけなので、それでは」
キングズリーは私の事など興味なさげにお店に入って行く。
「……ふぅん、この辺じゃ見ない顔だな」
テオバルドはキングズリーの後姿に語り掛ける。
「あぁ……あの方は、王都でお世話になった……先生です」
「王都の先生? こんなところまで生徒を指導しに来たのか? 」
「私じゃなくて、新たな鉱山が見つかったので鉱石の検査と仰っていました」
「ふぅん、鉱石ねぇ。それより、店はどこがいい? 色々あるけど俺のおすすめでいいか? 」
「はい」
テオバルドのおすすめのお店に向かい食事をした。
彼との会話は楽しい……
なのに、その間もキングズリーの事が頭の片隅にある。
どうして私は彼との食事の約束をしてしまったんだろうか……
「さっきの男が気になるの? 」
「えっ? 」
「なんだか上の空だから」
テオバルドは優しい微笑みだが目が怖い。
「そんな事……」
「分かるよ、俺はシャーリンの事しか見てないから」
「……ごめんなさい」
目の前にいる彼に申し訳なくて謝罪してしまう。
「あいつが彼氏……ではなさそうだけど」
「教師と生徒。それ以上でもそれ以下でもありません」
「恋人になりたいとは思わないの? 」
「恋人……わからないです」
「わからない? 」
「教師として助けてくれた優しさを、私は恋だと勘違いしているのかもしれない……好きかどうか分からないです」
「ふぅん、そんな感じだ。なら、俺の事どう思ってる? 」
「……私に興味がある? 」
「俺の君に対しての思いじゃなくて、シャーリン自身が俺をどう思っているのかを聞きたい」
「テオバルド様は……一定の距離を保ち、私を尊重してくれているのが好感を持てます」
「なら、互いをもっと知る為に付き合う? 」
付き合う……
付き合うって皆、そんな簡単にするものなんだろうか?
そういう経験のない私は、『お付き合い』というものに夢を見ているのかもしれない。
相手の事が好きで、相手も自分の事が好きになってから付き合うものなんじゃないの?
お付き合いしてから、相手を好きになるのかな?
それでも、今の私は……
「……今の気持ちでは付き合えないと思います。これはテオバルド様のせいではなく、私自身の問題です」
「真面目……だけど、いいね。相手の事を知らないで付き合ってって言われても困るよな……」
「……それは、自分の事? 」
「ふっ。誰かに何か聞いた? 」
あ、しまった。
バイト先の女店主から聞いた彼の過去を思い出して口にしてしまった事を後悔する。
「……噂を……少し」
「そっか……。以前付き合っていた彼女には、俺以外にも恋人がいたんだ。彼女は貴族に憧れていた。貴族と結婚して、俺を愛人に……彼女としては、貴族となった自分が俺を囲えば俺も金に困ることがないって……その提案は皆が幸せになれる、と本気で語っていた。実際に平民と貴族の生活は雲泥の差だ。だけど俺は、彼女の浮気を知るまでそんな風に考えている人だとは思わなくて……彼女の本音を聞いたら、感情が冷めて別れたんだ。それから色んな女性に誘われたけど、ふとした瞬間に彼女の言葉が頭を過って誰とも付き合えなくなった」
彼は外見が良いから、女性を振ることはあっても振られることはないんだろうなぁと勝手に決めつけていた。
外見なんて関係なく、誰かに裏切られれば傷つく……
彼も私も一緒だ……
「そうなんですね……」
「この町で見慣れないシャーリンに声を掛けたのは、俺の噂を知らないと思ったからなんだ。それに、君も昔の彼女と同じなんじゃないかとどこか思っていた」
「試したということですか? 」
「ごめん」
正直者だな。
「それで結果はどうでした? 」
「君は彼女とは違ったよ」
「そうですか」
「今日一緒に過ごせてよかった。またお店に行くよ」
多分、私達にこれ以上はない。
「はい」
「これからは本気で行くから」
ん?
本気?
何に?
「え? 」
「約束通り、君には手を出さなかった事をお姉さん達にも証明できたから」
「証明……」
「今日、一日中お姉さんとその彼氏が付いて来ただろう? 」
「あっ」
マキシーとエイジャックスの存在に気付かれていた。
「今度は保護者抜きで会いたい……じゃぁなっ」
耳元で囁かれテオバルドにドキッとしたが、次の瞬間には爽やかな笑みで去って行かれた。
モテる人は自然と駆け引きというか、近付いたと思ったら急にいなくなって心をかき乱すのが上手い。
私達が解散すると、保護者二人が合流。
「お嬢様、問題ありませんでしたか? 」
「うん、平気」
「では、お屋敷に戻りましょうか」
「うん」
私の保護者見守りの初デェトは終わった。
本日の一言日記。
これ以上キングズリーに思いが向かないよう、私はテオバルドを好きになりたかったんだと思う……結果は……
バイトは休みだが、定食屋に向かっている。
この日マキシーは一緒ではない……
一緒ではないが、後方でエイジャックスと一緒に私の後を付けている。
だからなのか不安はない。
テオバルドとは知り合ってばかり。
見た目は素敵だし、強引でないとこは好ましい……
だけど、それだけ。
好きという感情は今のところない。
人生で一度でいいからデェトというものをしてみたかっただけ。
……それと……あの人を忘れられたらと思っていた。
「デェト前日に会っちゃうなんて……」
別に悪い事しているわけではないのに……
知られたくないと思ってしまった。
こういう時の予感というものは当たってしまいそうで怖い。
「アイゼンハワー、今日はこれからなのか? 」
「えっあっ今日はお休みで……」
会ってしまった。
お昼時に定食屋の前で待ち合わせしていたら、あってしまう可能性は高い。
こうなると分かっていたら、待ち合わせ場所を別の場所にしていたのに……
キングズリーには早くお店に入ってほしい。
それかテオバルドが遅刻していてほしいのだが、お店の前にはそれらしき人物の姿が見えてしまった。
「シャーリン」
私を見つけると名前を呼びながら近づいてくる。
無視も出来ずに動けずにいる私に、隣のキングズリーは『シャーリン? 』と呟く。
親しい相手にだけ呼べるシャルロッテの愛称と思われそうだが、ただの偽名。
彼には本名など伝えていないと言い訳したいが、彼が近づいてきているのでそれもできない。
私一人気まずさを感じているが、二人は何も気にすることなく対面している。
「シャーリン、この人は? あっお兄さんとか? こんにちは」
本気なのかわざとなのか分からない彼の質問。
「私はただの知り合いです。偶然お会いしただけなので、それでは」
キングズリーは私の事など興味なさげにお店に入って行く。
「……ふぅん、この辺じゃ見ない顔だな」
テオバルドはキングズリーの後姿に語り掛ける。
「あぁ……あの方は、王都でお世話になった……先生です」
「王都の先生? こんなところまで生徒を指導しに来たのか? 」
「私じゃなくて、新たな鉱山が見つかったので鉱石の検査と仰っていました」
「ふぅん、鉱石ねぇ。それより、店はどこがいい? 色々あるけど俺のおすすめでいいか? 」
「はい」
テオバルドのおすすめのお店に向かい食事をした。
彼との会話は楽しい……
なのに、その間もキングズリーの事が頭の片隅にある。
どうして私は彼との食事の約束をしてしまったんだろうか……
「さっきの男が気になるの? 」
「えっ? 」
「なんだか上の空だから」
テオバルドは優しい微笑みだが目が怖い。
「そんな事……」
「分かるよ、俺はシャーリンの事しか見てないから」
「……ごめんなさい」
目の前にいる彼に申し訳なくて謝罪してしまう。
「あいつが彼氏……ではなさそうだけど」
「教師と生徒。それ以上でもそれ以下でもありません」
「恋人になりたいとは思わないの? 」
「恋人……わからないです」
「わからない? 」
「教師として助けてくれた優しさを、私は恋だと勘違いしているのかもしれない……好きかどうか分からないです」
「ふぅん、そんな感じだ。なら、俺の事どう思ってる? 」
「……私に興味がある? 」
「俺の君に対しての思いじゃなくて、シャーリン自身が俺をどう思っているのかを聞きたい」
「テオバルド様は……一定の距離を保ち、私を尊重してくれているのが好感を持てます」
「なら、互いをもっと知る為に付き合う? 」
付き合う……
付き合うって皆、そんな簡単にするものなんだろうか?
そういう経験のない私は、『お付き合い』というものに夢を見ているのかもしれない。
相手の事が好きで、相手も自分の事が好きになってから付き合うものなんじゃないの?
お付き合いしてから、相手を好きになるのかな?
それでも、今の私は……
「……今の気持ちでは付き合えないと思います。これはテオバルド様のせいではなく、私自身の問題です」
「真面目……だけど、いいね。相手の事を知らないで付き合ってって言われても困るよな……」
「……それは、自分の事? 」
「ふっ。誰かに何か聞いた? 」
あ、しまった。
バイト先の女店主から聞いた彼の過去を思い出して口にしてしまった事を後悔する。
「……噂を……少し」
「そっか……。以前付き合っていた彼女には、俺以外にも恋人がいたんだ。彼女は貴族に憧れていた。貴族と結婚して、俺を愛人に……彼女としては、貴族となった自分が俺を囲えば俺も金に困ることがないって……その提案は皆が幸せになれる、と本気で語っていた。実際に平民と貴族の生活は雲泥の差だ。だけど俺は、彼女の浮気を知るまでそんな風に考えている人だとは思わなくて……彼女の本音を聞いたら、感情が冷めて別れたんだ。それから色んな女性に誘われたけど、ふとした瞬間に彼女の言葉が頭を過って誰とも付き合えなくなった」
彼は外見が良いから、女性を振ることはあっても振られることはないんだろうなぁと勝手に決めつけていた。
外見なんて関係なく、誰かに裏切られれば傷つく……
彼も私も一緒だ……
「そうなんですね……」
「この町で見慣れないシャーリンに声を掛けたのは、俺の噂を知らないと思ったからなんだ。それに、君も昔の彼女と同じなんじゃないかとどこか思っていた」
「試したということですか? 」
「ごめん」
正直者だな。
「それで結果はどうでした? 」
「君は彼女とは違ったよ」
「そうですか」
「今日一緒に過ごせてよかった。またお店に行くよ」
多分、私達にこれ以上はない。
「はい」
「これからは本気で行くから」
ん?
本気?
何に?
「え? 」
「約束通り、君には手を出さなかった事をお姉さん達にも証明できたから」
「証明……」
「今日、一日中お姉さんとその彼氏が付いて来ただろう? 」
「あっ」
マキシーとエイジャックスの存在に気付かれていた。
「今度は保護者抜きで会いたい……じゃぁなっ」
耳元で囁かれテオバルドにドキッとしたが、次の瞬間には爽やかな笑みで去って行かれた。
モテる人は自然と駆け引きというか、近付いたと思ったら急にいなくなって心をかき乱すのが上手い。
私達が解散すると、保護者二人が合流。
「お嬢様、問題ありませんでしたか? 」
「うん、平気」
「では、お屋敷に戻りましょうか」
「うん」
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