39 / 63
ハンカチ
しおりを挟む
「キングズリー先生、ハンカチ受け取って貰えませんか? 」
色んな場所でハンカチ合戦が行われており、その結果を目撃してしまうのが気まずく人通りのない道を通っていたらこんな場面に遭遇。
その場から離れるべきなのに、足が動かない。
「授業の課題のハンカチですね? 大切になさい」
「ハンカチの意味、知ってますよね? 」
相手の女性は以前のキングズリーに秘密のメッセージを送った人物ではない。
キングズリーは想像以上に生徒……女子生徒に人気らしい。
「……ん? 学生間の催しに教師が介入すべきことではないかな」
優しく諭す姿は教師そのもの……
その優しさは女子生徒にとっては拒絶そのもの。
「先生が好きです、私と……婚約して頂けませんか? 」
「自由を好む学生にとって、学園は閉ざされた環境。解放されたいと強く願う者は一つの手段として教師との疑似恋愛で発散する」
「私は本気です」
「教師と生徒という立場抜きで話すのであれば……私は貴族社会に疎く、侯爵家の恩恵はあまりありませんよ」
「侯爵との繋がりが欲しいわけじゃありません。私は先生が好きなんです。この三年間ずっと先生を見てきました。先生も気付いていましたよね? 私の気持ちに」
「……君の気持ちに応えることは出来ません。ハンカチは別の人に贈りなさい」
女子生徒を置き去りにキングズリーは去って行く。
彼が女子生徒のハンカチを受け取らなかった事より、生徒との恋愛は一切望んでいないことに打ちのめされた。
私が立ち聞きした事は気付かれていないはず。
静かに立ち去った。
「ハンカチ……」
元々誰かに贈る予定はなかったが、余計に行き場を失くす。
「んっんん」
誰かの咳払いに視線を上げると、久しぶりの人物が目の前にいた。
会話をする関係ではないので、私としては反応を見せる事なく通り過ぎる。
「シャルロッテ……」
何故私を呼び止めるのか理解できない。
足を止めようかと悩んだが、そのまま通り過ぎる事を選択。
「待ってくれ、シャルロッテ」
何故彼は私の事を呼び止める?
そもそも何故シャルロッテと呼ぶ?
「何? 離してほしいんだけど」
会話をする気もなく彼の横を通り過ぎれば腕を掴まれたので、返事をしてしまう。
「今までのことを謝罪したい」
「結構です。それと、私達は婚約解消したのでシャルロッテと呼ぶのは遠慮して頂けますか? 」
私を呼び止めたのは、元婚約者のジャイルズ・アンダーソン。
「あっそれは、すまない。アイゼンハワー令嬢、少し話がしたいんだ」
「今さら私達が話すような事ありますか? 婚約解消したのですから尚更会話は不要です」
「エヴァリーンの事はすまない。もう別れた」
別れた?
なんとも呆気ない。
「私に関係ない事なので失礼しますね」
「待ってくれ、俺と婚約してくれ」
婚約?
しつこいと思ったら突然の婚約宣言。
今日は婚約宣言日和なのか?
「お断りいたします」
「俺はシャ……君を傷付けてしまった事を反省した。できるなら挽回の機会をもらえないだろうか? 」
恋人と別れて、再び婚約だなんて……
私が公爵の娘という事で考え直したのだろうか?
「私は貴方と再度婚約するつもりはありません。他の方にその行動力を向けた方が有意義ですよ」
「……剣術大会で良い成績を残したら、君のハンカチが欲しい」
「お断りいたします」
「……剣術大会後に、もう一度願いに来る」
「勝手に話を進めないでください、迷惑です」
アンダーソンは自分の言いたいことだけ言い去って行く。
最後の私の言葉が彼に届いたのか不明だ。
都合のいい耳をしていそう。
「いい成績を残したところで……」
私が彼にハンカチを誰かに贈る事は無い。
理由は二つ。
一つ目は、彼と婚約したくないから。
二つ目は、あのハンカチの刺繍を誰にも見られたくないから。
「絶対に誰にもやるもんですか」
色んな場所でハンカチ合戦が行われており、その結果を目撃してしまうのが気まずく人通りのない道を通っていたらこんな場面に遭遇。
その場から離れるべきなのに、足が動かない。
「授業の課題のハンカチですね? 大切になさい」
「ハンカチの意味、知ってますよね? 」
相手の女性は以前のキングズリーに秘密のメッセージを送った人物ではない。
キングズリーは想像以上に生徒……女子生徒に人気らしい。
「……ん? 学生間の催しに教師が介入すべきことではないかな」
優しく諭す姿は教師そのもの……
その優しさは女子生徒にとっては拒絶そのもの。
「先生が好きです、私と……婚約して頂けませんか? 」
「自由を好む学生にとって、学園は閉ざされた環境。解放されたいと強く願う者は一つの手段として教師との疑似恋愛で発散する」
「私は本気です」
「教師と生徒という立場抜きで話すのであれば……私は貴族社会に疎く、侯爵家の恩恵はあまりありませんよ」
「侯爵との繋がりが欲しいわけじゃありません。私は先生が好きなんです。この三年間ずっと先生を見てきました。先生も気付いていましたよね? 私の気持ちに」
「……君の気持ちに応えることは出来ません。ハンカチは別の人に贈りなさい」
女子生徒を置き去りにキングズリーは去って行く。
彼が女子生徒のハンカチを受け取らなかった事より、生徒との恋愛は一切望んでいないことに打ちのめされた。
私が立ち聞きした事は気付かれていないはず。
静かに立ち去った。
「ハンカチ……」
元々誰かに贈る予定はなかったが、余計に行き場を失くす。
「んっんん」
誰かの咳払いに視線を上げると、久しぶりの人物が目の前にいた。
会話をする関係ではないので、私としては反応を見せる事なく通り過ぎる。
「シャルロッテ……」
何故私を呼び止めるのか理解できない。
足を止めようかと悩んだが、そのまま通り過ぎる事を選択。
「待ってくれ、シャルロッテ」
何故彼は私の事を呼び止める?
そもそも何故シャルロッテと呼ぶ?
「何? 離してほしいんだけど」
会話をする気もなく彼の横を通り過ぎれば腕を掴まれたので、返事をしてしまう。
「今までのことを謝罪したい」
「結構です。それと、私達は婚約解消したのでシャルロッテと呼ぶのは遠慮して頂けますか? 」
私を呼び止めたのは、元婚約者のジャイルズ・アンダーソン。
「あっそれは、すまない。アイゼンハワー令嬢、少し話がしたいんだ」
「今さら私達が話すような事ありますか? 婚約解消したのですから尚更会話は不要です」
「エヴァリーンの事はすまない。もう別れた」
別れた?
なんとも呆気ない。
「私に関係ない事なので失礼しますね」
「待ってくれ、俺と婚約してくれ」
婚約?
しつこいと思ったら突然の婚約宣言。
今日は婚約宣言日和なのか?
「お断りいたします」
「俺はシャ……君を傷付けてしまった事を反省した。できるなら挽回の機会をもらえないだろうか? 」
恋人と別れて、再び婚約だなんて……
私が公爵の娘という事で考え直したのだろうか?
「私は貴方と再度婚約するつもりはありません。他の方にその行動力を向けた方が有意義ですよ」
「……剣術大会で良い成績を残したら、君のハンカチが欲しい」
「お断りいたします」
「……剣術大会後に、もう一度願いに来る」
「勝手に話を進めないでください、迷惑です」
アンダーソンは自分の言いたいことだけ言い去って行く。
最後の私の言葉が彼に届いたのか不明だ。
都合のいい耳をしていそう。
「いい成績を残したところで……」
私が彼にハンカチを誰かに贈る事は無い。
理由は二つ。
一つ目は、彼と婚約したくないから。
二つ目は、あのハンカチの刺繍を誰にも見られたくないから。
「絶対に誰にもやるもんですか」
748
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした
柚木ゆず
恋愛
行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。
お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……?
※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果
柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。
姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。
ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。
婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?
柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。
わたしには、妹なんていないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる