54 / 63
急展開
しおりを挟む
「シャルロッテ・アイゼンハワー公爵令嬢に婚約を申し込みに来ました」
先触れはあった。
試験翌日は一日中睡眠を取り、夕食で父から『明日お客様がみえる、同席しなさい』と事前にあった。
相手やどのような内容かは知らされていなかったので、相手が到着するまで呑気に構えていた。
試験という難関を終え気が抜けていた。
「シャルロッテ、私は彼が婚約者となることに反対は無い。後はシャルロッテが決めなさい」
「私は……その……」
あまりの突然の事でどうしたらいいのか分からない。
何故急に婚約を申し込まれたのか……
「少し、二人で庭を散歩でもするかい? 」
結論を出せないでいると父に提案される。
「はい」
私が同意すると、相手も頷き二人で庭を散歩する。
周囲には私達だけ。
婚約者不在の人間が二人でいると何が起きるか分からない。
だけど私だけでなく、父も相手を信頼している。
なので周囲に見張りを置くような事は無い。
「あの……どうして急に? 」
「以前公爵から話があった。聞いてないか? 」
「聞きました……聞きましたが、もしかして私が公爵令嬢で父の提案を拒絶できずに仕方なく……ですか? 」
「そんなわけあるか。我が家は侯爵で格下だが、断る権利くらいある」
「それなら何故? だって……選び放題じゃないですか? 」
令嬢達に人気で、婚約を申し込まれるような人。
そんな人が、わざわざ悪評だらけで記憶喪失にまでなった公爵令嬢は面倒でしかないのに……
「選び放題だから選んだ」
「……私を? 」
「そうだ」
ここは怒るべきところなんだろうけど、何故私が選ばれたのかいまいちピンとこない。
「あの姿も見ごたえはあるが、今の方が断然いいな」
「えっあっせっせい? 」
頬に添えられた大きな手。
男の人の手は知らないけど、指が長くて綺麗。
彼の手に手を重ね、頭を傾け彼の手を挟む。
「もう、あまり無茶はするなよ」
「はい」
「心配したんだからな」
「すみませっ……んっ」
唇を親指で撫でられる。
男性に唇に触れられるのも、誰かに唇を撫でられるのも初めて。
「この唇……柔らかかったな」
「……え?」
それは……どういう意味?
「キスしてほしいって可愛く強請ったのはアイゼンハワーの方だろう? 」
「えっ? 私っそんな事……あっ……え? あれは夢じゃ……」
確かに夢でキングズリーに抱き着いてそんな発言をしたような……
あれは夢だったのでは?
だって、夢じゃなかったら……私……私……
「ふっ」
「あの時……」
夢だと思って……
私は確か、すすすす好きって言ってしまったような……
それだけでなく、強引に言わせたような気がしなくもなく……
それから……それから……
私はキスを強請った気がしなくもなくて……
「どうした? 」
「わわっわわわあ……」
あれが夢ではなく現実だと受け入れた瞬間、顔が熱くて堪らず腕で顔を隠す。
私の人生初めてのキス。
過去も今も、初キッスを経験してしまった。
「告白してくれたのに、俺と婚約したくないのか? 」
俺?
いつも先生は、自身の事を『私』って言っていたのに。
それになんだか、以前までと違い男の表情に見える。
「そんなっ違います。先生が私の事どう思っているのか分からず、私の一方的な感情で婚約を申し込んでは迷惑になると思ったから……そうだっ、先生私の事どう思っているんですか? 教えてください」
「この前、言ったろ? 」
「い、い、い、今、教えてください」
「なら、寝ぼけてない今の状態で俺の事をどう思っているのか教えてくれ」
「わっ私から? 」
「そうだ」
「わっ私は……先生の事……先生の事……」
私、気が付いた。
人生で告白した事無い。
これは試験以上に緊張する。
「ロヴァルト、俺の名前」
なっ名前?
「ロ……ヴァルト先生?」
「ロヴァルト」
「ロヴァルト先生……」
「今は先生じゃなく、ロヴァルトだ」
「ロヴァルト……様?」
「まぁ、それでいいか。続けて」
「……続き。私は……ロヴァルトせ……様の事…………きです……」
「なんだ? 」
キングズリーはわざとらしく私の口元に顔を近づけ距離を縮める。
「……きです」
声が震えてしまう。
「聞こえない」
もう、私の気持ちなんて伝わっているはずなのに。
言わせようとするキングズリー。
「もうっ好きですっ」
恥ずかしさを誤魔化す為に、叫んでしまった。
「……俺も」
「……んっ」
キングズリーの唇が触れていた……
先触れはあった。
試験翌日は一日中睡眠を取り、夕食で父から『明日お客様がみえる、同席しなさい』と事前にあった。
相手やどのような内容かは知らされていなかったので、相手が到着するまで呑気に構えていた。
試験という難関を終え気が抜けていた。
「シャルロッテ、私は彼が婚約者となることに反対は無い。後はシャルロッテが決めなさい」
「私は……その……」
あまりの突然の事でどうしたらいいのか分からない。
何故急に婚約を申し込まれたのか……
「少し、二人で庭を散歩でもするかい? 」
結論を出せないでいると父に提案される。
「はい」
私が同意すると、相手も頷き二人で庭を散歩する。
周囲には私達だけ。
婚約者不在の人間が二人でいると何が起きるか分からない。
だけど私だけでなく、父も相手を信頼している。
なので周囲に見張りを置くような事は無い。
「あの……どうして急に? 」
「以前公爵から話があった。聞いてないか? 」
「聞きました……聞きましたが、もしかして私が公爵令嬢で父の提案を拒絶できずに仕方なく……ですか? 」
「そんなわけあるか。我が家は侯爵で格下だが、断る権利くらいある」
「それなら何故? だって……選び放題じゃないですか? 」
令嬢達に人気で、婚約を申し込まれるような人。
そんな人が、わざわざ悪評だらけで記憶喪失にまでなった公爵令嬢は面倒でしかないのに……
「選び放題だから選んだ」
「……私を? 」
「そうだ」
ここは怒るべきところなんだろうけど、何故私が選ばれたのかいまいちピンとこない。
「あの姿も見ごたえはあるが、今の方が断然いいな」
「えっあっせっせい? 」
頬に添えられた大きな手。
男の人の手は知らないけど、指が長くて綺麗。
彼の手に手を重ね、頭を傾け彼の手を挟む。
「もう、あまり無茶はするなよ」
「はい」
「心配したんだからな」
「すみませっ……んっ」
唇を親指で撫でられる。
男性に唇に触れられるのも、誰かに唇を撫でられるのも初めて。
「この唇……柔らかかったな」
「……え?」
それは……どういう意味?
「キスしてほしいって可愛く強請ったのはアイゼンハワーの方だろう? 」
「えっ? 私っそんな事……あっ……え? あれは夢じゃ……」
確かに夢でキングズリーに抱き着いてそんな発言をしたような……
あれは夢だったのでは?
だって、夢じゃなかったら……私……私……
「ふっ」
「あの時……」
夢だと思って……
私は確か、すすすす好きって言ってしまったような……
それだけでなく、強引に言わせたような気がしなくもなく……
それから……それから……
私はキスを強請った気がしなくもなくて……
「どうした? 」
「わわっわわわあ……」
あれが夢ではなく現実だと受け入れた瞬間、顔が熱くて堪らず腕で顔を隠す。
私の人生初めてのキス。
過去も今も、初キッスを経験してしまった。
「告白してくれたのに、俺と婚約したくないのか? 」
俺?
いつも先生は、自身の事を『私』って言っていたのに。
それになんだか、以前までと違い男の表情に見える。
「そんなっ違います。先生が私の事どう思っているのか分からず、私の一方的な感情で婚約を申し込んでは迷惑になると思ったから……そうだっ、先生私の事どう思っているんですか? 教えてください」
「この前、言ったろ? 」
「い、い、い、今、教えてください」
「なら、寝ぼけてない今の状態で俺の事をどう思っているのか教えてくれ」
「わっ私から? 」
「そうだ」
「わっ私は……先生の事……先生の事……」
私、気が付いた。
人生で告白した事無い。
これは試験以上に緊張する。
「ロヴァルト、俺の名前」
なっ名前?
「ロ……ヴァルト先生?」
「ロヴァルト」
「ロヴァルト先生……」
「今は先生じゃなく、ロヴァルトだ」
「ロヴァルト……様?」
「まぁ、それでいいか。続けて」
「……続き。私は……ロヴァルトせ……様の事…………きです……」
「なんだ? 」
キングズリーはわざとらしく私の口元に顔を近づけ距離を縮める。
「……きです」
声が震えてしまう。
「聞こえない」
もう、私の気持ちなんて伝わっているはずなのに。
言わせようとするキングズリー。
「もうっ好きですっ」
恥ずかしさを誤魔化す為に、叫んでしまった。
「……俺も」
「……んっ」
キングズリーの唇が触れていた……
1,065
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした
柚木ゆず
恋愛
行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。
お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……?
※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。
婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。
ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果
柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。
姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。
ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。
婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?
柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。
わたしには、妹なんていないのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる