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EX4 蠢く歪モルガン・ル・フェイ
しおりを挟む王国アヴァロン第二王女モルガン・ル・フェイ。
彼女は目の前に広がる凄惨たる有り様に困惑した。
本来であれば、そこは大理石で造られ荘厳かつ優雅な雰囲気を放つ白亜のテラス。今から数刻経てば、朝日に包まれ彩るように置かれた花や緑に蝶や小鳥が舞うことだろう。
そんな幻想的とも言える光景が広がっていたはずだ。
そのはずなのに目の前に広がるそれは見る影もなかった。この一区画のみ廃墟と言っても過言ではない状態だった。
「言葉が出ないとはこういうことをいうんですね」
油断はなかった。
慢心はなかった。
驕りはなかった……わけでもないか。ほんの少しだけしかなかった。しかし所詮は未開世界の猿と侮っていた節があったのは否めない。
それでも十分すぎるほどの体制で臨んでいた。
考えうる中で最大限の体制で望んでいたはずだ。魔術による遠隔監視。城中に配置された騎士鎧ゴーレム。洗脳にも近い魔術印象操作。とにかく厳重な体制だったのは誰が見ても間違いない。
「だいたいあの勇者が魔剣を手に入れているのも意味不明です。遠見により監視させていたはずなんですがね」
王女モルガン。実は彼女、この王国において随一の魔術使いだったりする。異世界召喚という歴史的偉業も彼女の功績が大きいと噂されるほどだ。
つまり並大抵の魔術や技術では彼女の監視体制を搔い潜るのは不可能ということだ。いくら勇者とはいえ、平和ボケした日本から異世界召喚された高校生にそんなこと出来るわけもない。
状況を一つずつ間違えることなく精査しモルガンは一つの結論に辿り着いた。
「ふぅむ内通者ですか。しかも恐ろしいぐらい魔術に精通した人間がいますね」
モルガンの遠隔監視を問題ないと錯覚するようにわざわざ偽装した。こんな無駄に丁寧で面倒な芸当を出来る人間に心当たりは一人しかいない。
「まさかマーリンですか? あんのクソアバズレ生きていやがったんですね」
モルガンはマーリンについて考えることをやめた。なにせ知りうる中では一番のろくでなしだ。考える時間のほうが勿体ない。そう判断した。
「まぁマーリンは放っておくとして問題は勇者です。というかなんですかあれ。意味不明です。反則にもほどがあります」
モルガンは何とも可愛らしく眉をひそめ頬を膨らませた。
何度も言うが体制は万全だった。これはまぎれもない事実だ。
問題だったのは相手のイカれ具合だ。聖剣をまさかそんな阿呆みたいな使い方をするなんて彼女は夢にも思わなかった。
敵を屠るでもなく自己を守るわけでもない。聖剣で空を飛ぼうなど正気の沙汰でない。もちろん歴代の勇者でそんなことをした阿呆は存在しない。
そもそも異世界転移三日目にして逃亡するなんて誰が想像しようものか。つい先日までこの世界の存在すら認知していなかったような存在だ。
そんなイカれた行動するとか予想するのが無理ゲーだ。初見殺しのクソゲー。
「ハッ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!!!!!」
モルガンはこの状況があまりにも可笑しく感じてしまったのか。ついには脇目もふらず狂ったように笑い出してしまった。恐怖を感じるほど目を見開き大口を空けた嗤い方。淑女の嗜みもクソもない。
「おっと、これは淑女にあるまじき行為でしたね。オーケーオーケー完全に冷静になりました。大丈夫です問題ないです極めて良好です」
今更感あるが。
彼女は急に嗤いだしたかと思えば、今度は急に冷静になった。とても問題ないようには見えない。そもそも自分以外誰もいない空間で独り言を吐き続ける異常者である。
「とはいえ。とはいえですよ」
そして一息。
「ここまで虚仮にされたのは久方ぶりですよ明星影人ォ!!!!!」
今現在この空間に彼女以外の人は存在しない。しかしもしこの光景を誰かが見たらこう思うだろう。彼女のその形相は心の底から仇敵を憎むようにも、白馬の王子をみつけた恋する乙女のようにも見えるものだった。
とにもかくにも彼女に目の敵にされてしまったであろう明星某には同情せざるえなかった。
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