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一ノ瀬アリスさんはマジぱない①
しおりを挟む明星影人選手、つまり俺のいらない子疑惑が浮上した数刻後。
俺達は未だに同じ場所であるこの開けた平原にいた。
その場所はほどほどに開けた空間が広がっており、大した凹凸もない。通常であれば草木が生い茂り、そこを吹き抜ける風は解放感を与えてくれるものだったのだろう。
まぁこんな話を唐突にしだすってことはそれが見る影もないってことだ。目の間に広がる光景には草木なんてろくに視認出来ず茶色一色だし、鼻腔を刺激する空気は無駄に獣臭い。
「ブルル!」
「ブルルル!!!」
「ブルルルルルルルルルッ!!!!!!」
その原因はもはやお馴染みと言っていいほどに顔を会わした魔角猪だ。猪を一回り大きくした体躯に頭部から生えた強固な一本角。そんな存在がこの平原を埋め尽くすように跋扈していた。ざった見たところ一〇〇体近い数はいるだろう。
もはや魔獣蹂躙だ。冒険者ギルドの依頼には大量繁殖と記載されてはいたが限度ってものがあるだろ。現代日本でこんなのいたら怖くて夜も眠れないまである。
彼らの狙いはもちろん俺達だ。アリスのレベルアップの為にチマチマとはぐれ魔角猪を狩っていたら群れの怒りを買ってしまい現在に至るわけである。テヘ☆ペロ。
「愚鈍がいくら集まったところで有象無象であることに変わりはないわ」
対して迎え撃つは華奢な体をした一人の少女だ。
しかし彼女、一ノ瀬アリスの顔に恐れは一片足りとも存在しなかった。その流麗とも言える黒長髪を風になびかせて悠然と立っていた。なんか俺よりも無駄に格好良くてなんか悔しんんですけど。
「結構な数がいるけど一人で大丈夫?」
「誰にものを言っているのかしら? この程度朝飯前どころか起床にも至らないわ」
流石に心配になったので一応声をかけてみる。よく意味が分からないが余裕ということか。
まぁ、今の彼女ならこの数の魔角猪を相手にしても余裕と言って差し支えないだろう。
「いくわよ。準備はいいかしら?」
『おうさアリス嬢。こっちはいつでもいいぜ!』
彼女の意気込みに応えるのは世にも奇妙な喋る魔導本だ。
魔導本はアリスの左手に収まると、その意気込みを示すように表紙に刻まれた魔術陣が怪しげな光を放った。
「炎下級魔術!」
アリスの言葉を起動音に右手より火球が形成され勢い良く放たれた。
しかし最下級魔術と侮るなかれ。アリスの右手より放たれたそれは下級でありながら、三メートル大にも及ぶ火球だ。
その威力たるや凄まじいもので、複数体の魔角猪を巻き込み絶命させた。
「範囲炎中級魔術!!」
次に彼女が発動させた魔術は地面から複数噴き出す火柱だった。計六つ。大した予兆もなく火山の噴火のように噴き出すそれは少なくない魔角猪の命を刈り取った。
「炎上級魔術!!!」
最後に彼女が唱えた魔術は明確な殺意の塊と言っていいものだった。大気すらも焦がし全てを灰燼に帰す勢いすらある炎嵐。
「ブモオオオオオオォォォ!?!?!?」
全てを飲み込むように魔角猪の群れに襲い掛かったそれは、彼らの全てを消し炭すら残らない勢いで焼き尽くした。
「ふぅ、ざっとこんなもんかしら」
『流石アリス嬢だ。この俺様が見込んだ女だけはあるぜ』
魔角猪を全て殲滅したとみてアリスは一息ついた。
しかし上級魔術というものを初めてこの目で見たがなんとも凄まじいものだった。その証拠に辺りはそれはもう酷い状況だ。ハッキリ言って焼け野原といっても差し支えないレベル。
『マスター』
聖剣ちゃんが端的に俺を呼んだ。
その言葉にいつもの巫山戯た雰囲気は一切ない。こいう時はだいたい、
ズサアアアアア
『あ、なんか出てきた』
魔剣ちゃんが声を上げた。
俺の予想が正しかったと証明するように地面が盛りあがり一体の魔角猪が出現した。
「ブモオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
出現した魔角猪は群れの中でも一際大きい個体だった。全長で五メートルぐらいはありそうだ。主か。
どうやらアリスの上級魔術を地面に潜り逃れたらしい。賢いな。
「ッ!?」
巨大魔角猪はそのままアリス目掛けて特攻するべく駆け出した。
不味いな。どうにも下級魔術で倒せそうな相手ではない。かといって中級以上の魔術は溜がいる。
「いいよ一ノ瀬。俺が前に出る」
俺は一ノ瀬を制止させ突進する巨大魔角猪の前に飛び出した。
今、俺の手には聖剣どころか魔剣すらない。だがなにも進歩したのはアリスだけではない。
「影刃!」
アリスがレベルアップに勤しむ間、俺もスキルの練習をチマチマと積み重ねていたのだ。
形成されしは空中に浮かぶ影の刀身。
このスキルはしかるべき魔力を込めれば鉄より軽く鉄以上の強度を持ち、その刀身を肥大させていく。
ありったけの魔力を込めたその刀身はゆうに五メートルを超えていた。
「そぉい!!」
そのまま俺は影の刀身をその手に掴むことなく操作し、薙ぎ払うように振り切った。
ズパンッッッッッッッッッッ!!!!!
「プギ……イ……ィ……」
そして巨大魔角猪は大した抵抗も出来ず横から真っ二つに切断され絶命してしまった。
「助かったわ。お疲れ様」
「そっちもこの数を一網打尽なんて大したもんだよ」
微笑を浮かべて近づいて来たアリスと軽くハイタッチ。彼女との関係も随分と気楽なものへと変化したものだ。
「これで一応終わりかな?」
「えぇそのようね」
アリスの声音はどこか満足げだ。
改めて平原に視線を送る。視界に映る光景はやはり焼け野原であり、あれだけ溢れかえっていた魔角猪は一体たりとも生き残っていなかった。アリスさんマジぱねぇ。
ところでこれ俺のいらない子疑惑が更に増してない?
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