病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

文字の大きさ
32 / 68

同化型④

しおりを挟む
 最後のホームルームの終了を知らせる鐘が鳴り、んん、と伸びをする。今日も授業で疲れてしまった。……午後の授業に至っては、ほとんど寝かけてしまった。反省する。
 放課後になって。翔たちには共に帰れないことを話しておいた。というのも──二階堂くんから以前誘われていた喫茶店へと、彼と共に行く約束をしていたからだ。彼のおかげで参宮くんの暴走を抑えられた。なにか奢ってあげたいものだ。二階堂くんと落ちあい、学校を出て。どこか楽しげな彼の後ろに続いて足を進めていれば、それはふと止まった。

「喫茶店、ここです!」

「わ……こんなとこ、あったんだ」

 スマホで位置を確認していた二階堂くんが、顔を上げてとある方向を指さす。通りに面してはいるがなんだか他の建物よりもひっそりとしていて、言われなければ気が付かなかっただろう。
 レトロな小さい電光看板。それによれば喫茶店は「ルポス」という名前らしい。どんな意味なのだろう、と思いながら扉を開けた。からん、とベルの音が鳴る。

「いらっしゃいませー!」

 出迎えてくれたのは、聞いたことのある声。そちらを見れば──明るい髪の友人が、そこに立っていた。

「え、四方田くん?」

「あれ、田山くんじゃん! 友だち?」

 落ち着いた制服に身を包んでいる。目を丸くしてから、ぱあっと顔を明るくして。後ろにいた二階堂くんを見て、不思議そうに声を発した。

「あはは、そう。可愛い後輩」

「一年の二階堂です。よろしくお願いします」

「おわ、礼儀正し! 二年の四方田、よろしくねー」

 生真面目な二階堂くんと、派手やかで一見チャラい印象を与える四方田くん。なんだか正反対なふたりだ。だけど、仲良くなれそうな気もする。簡単に挨拶を交わし、四方田くんはトレーを片手に俺たちを案内した。

「こちらへどーぞ!」

 案内されたのは、奥の席だ。周りにお客さんは数組ほど。みな和やかに談笑をしている。木目調のテーブルや椅子。茶色を基調としたそれらは目に優しく、時計の秒針が刻む音がなんともゆったりとした感じで落ち着く。
 腰を落ち着けてから、メニューを開く。手書きのそれは温かみを感じ、定番のものが揃えられていて悩んでしまう。だが、食べすぎたら夕飯が入らなくなってしまう。ケーキ辺りが無難だろう。

「二階堂くんは何が食べたい?」

「ええと……ショートケーキ、かな。でもチーズケーキもいいですね……うーん……」

 彼もどうやらケーキを頼みたいようだ。難しい問題集を相手にしたときよりも悩ましげに、眉根を寄せて呟いている。可愛らしいその姿に、思わず吹き出しそうになった。

「っはは、じゃあ俺がチーズケーキ頼むから、分けよう」

「……いいんですか?」

「もちろん」

 もともと俺の奢りだ。ショートケーキの苺もきっと彼が食べたいだろうし。……いちご大福といい、段々と彼の好みがわかってきた気がする。
 飲み物はアイスティーでいいようだ。俺は……メロンソーダにしよう。すみません、と少しだけ声を張って呼べば、四方田くんが飛んできてくれた。

「はーい、ご注文は?」

「ショートケーキとチーズケーキ。あとアイスティーと、メロンソーダで!」

「はーい、かしこまりました! 少々お待ちくださーい!」

 元気な声があがる。周りのお客さんは常連なのだろうか、「ほんと元気ねえ」とひと組の老夫婦がくすくすと控えめに笑っていた。四方田くんはどうやら元気な従業員として親しんでいるらしい。……なんとも彼らしくて、微笑ましい。
 視線を戻し、二階堂くんと視線を合わせた。周りが気になるのだろうか。なんだかそわそわとしているようだ。

「誘ってくれてありがとうね」

「いえ、そんな……僕が来たかっただけで……」

「いや、本当にありがとう。メッセージくれたおかげで助かったから」

 本心からそう言えば、彼は不思議そうな表情を浮かべて。

「助かった? ……なにが──ああ、」

 空気が変わった、ような気がした。まずい。言わなければよかったと後悔したところで、時すでに遅し。自分の迂闊さが憎くなる。なんだか最近はこういうことばっかりだ。

「あの不良ですか」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ
BL
アイドル好きの姉4人の影響で男性アイドル好きに成長した主人公、雨野明(あめのあきら)。(高2) 学校にバイトに毎日頑張る明が今推しているアイドルは、「ラヴ→ズ」という男性アイドルグループのメンバー、トモセ。 そんなトモセのことが好きすぎて夢の中で毎日会えるようになって・・・。 攻めアイドル×受け乙男 ラブコメファンタジー

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

処理中です...