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同化型⑦
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それから、何度か喫茶店に通って。ルポスへの道も覚えてきた頃だった。翔を始めとした友人たちも誘ったため、魅力は広まっただろう。静かな時間が流れる場所は居心地がいい。またすぐにでも行きたいものだ。
いつも通りの休み時間、持ってきた菓子をひとつ頬張って。幸福感を顔いっぱいに浮かべ、四方田くんは唇を開く。
「直くんがくれるお菓子って、なんか特別な味するっていうかさー。語彙力ねーからあれなんだけど、めっちゃ美味いんだよねー!」
「ほんと? 新しいお菓子いろいろ買ってみてるんだけど、当たりが多いのかも。今日は新作とかじゃないけど」
「あね! ……なんか食ったら眠くなってきた……でも食いたい……」
納得したように頷くと、欠伸を漏らす。俺の机に突っ伏すように腕に顔を埋め、眠たげな声を発した。バイトも部活もこなしている彼のことだ、きっと疲れが溜まってしまっているのだろう。
「大丈夫? バイトとか部活とかで疲れてるんじゃない?」
「そうかもー……」
また欠伸をひとつ。眠たげな瞳を擦ったが、名残惜しそうに視線は菓子へ向けられた。
「ねー、直くん……口ん中入れて……食いたい……」
あー、と口を開けている。雛鳥みたいで笑ってしまう。
お疲れのようだし、彼の要望を叶えてあげることにしよう。口元まで運んで、菓子を放す。僅かに指を動かした瞬間。指先に触れる、生暖かく柔らかい感触。四方田くんが大きく目を見開く。
「────は……」
「わーっ!! ごめんごめんごめん、触っちゃった!! ほんとごめん!!」
舌に触れてしまった。慌てて手を引き抜く。四方田くんはというと、時が止まったかのように動かなくなってしまった。あまりのショックに動けなくなってしまったのだろうか。
しばらくぼうっとしていたかと思うと──は、と我に返ったように息を吸って。慌てて口の中のそれを咀嚼し飲み込み、手のひらをこちらに向けてぶんぶんと横に振った。
「え、いやマジ全然気にしねーから! むしろごめんね!? 手ぇ洗ってきな!?」
「四方田くんも口洗った方がいいよ!! マジで汚いから!!」
「そこまで言う!? いやホント気にしないから行ってきな!!」
「ごめん、じゃあちょっと行ってくる!!」
躓かぬように、教室を後にする。ああもう、彼にも悪いことをした。気にしないとは言っていたが──驚愕をあらわにしたあの表情はただ事ではなかった。
変な禍根が残らないといいけれど。
そう祈りながら、気まずくならないことを願いつつ廊下を小走りで進んで行った。
***
ばたばたと忙しい足音を立て、遠ざかっていく後ろ姿を呆然と見つめながら。青年は、口内に残る味の余韻に身を小さく震わせた。
ぽつり、ぽつりと。周りには届かないほど小さな声量で。揺らぐ声を発する。
「自分で買っても、あんなに美味くない。……直くんが、食べさせてくれたから? ……直くんの、指を舐めたから?」
口もとを覆って。熱い息を漏らす。
「……食べたい、なあ」
細めた目は、昏い欲望で淀んでいた。
いつも通りの休み時間、持ってきた菓子をひとつ頬張って。幸福感を顔いっぱいに浮かべ、四方田くんは唇を開く。
「直くんがくれるお菓子って、なんか特別な味するっていうかさー。語彙力ねーからあれなんだけど、めっちゃ美味いんだよねー!」
「ほんと? 新しいお菓子いろいろ買ってみてるんだけど、当たりが多いのかも。今日は新作とかじゃないけど」
「あね! ……なんか食ったら眠くなってきた……でも食いたい……」
納得したように頷くと、欠伸を漏らす。俺の机に突っ伏すように腕に顔を埋め、眠たげな声を発した。バイトも部活もこなしている彼のことだ、きっと疲れが溜まってしまっているのだろう。
「大丈夫? バイトとか部活とかで疲れてるんじゃない?」
「そうかもー……」
また欠伸をひとつ。眠たげな瞳を擦ったが、名残惜しそうに視線は菓子へ向けられた。
「ねー、直くん……口ん中入れて……食いたい……」
あー、と口を開けている。雛鳥みたいで笑ってしまう。
お疲れのようだし、彼の要望を叶えてあげることにしよう。口元まで運んで、菓子を放す。僅かに指を動かした瞬間。指先に触れる、生暖かく柔らかい感触。四方田くんが大きく目を見開く。
「────は……」
「わーっ!! ごめんごめんごめん、触っちゃった!! ほんとごめん!!」
舌に触れてしまった。慌てて手を引き抜く。四方田くんはというと、時が止まったかのように動かなくなってしまった。あまりのショックに動けなくなってしまったのだろうか。
しばらくぼうっとしていたかと思うと──は、と我に返ったように息を吸って。慌てて口の中のそれを咀嚼し飲み込み、手のひらをこちらに向けてぶんぶんと横に振った。
「え、いやマジ全然気にしねーから! むしろごめんね!? 手ぇ洗ってきな!?」
「四方田くんも口洗った方がいいよ!! マジで汚いから!!」
「そこまで言う!? いやホント気にしないから行ってきな!!」
「ごめん、じゃあちょっと行ってくる!!」
躓かぬように、教室を後にする。ああもう、彼にも悪いことをした。気にしないとは言っていたが──驚愕をあらわにしたあの表情はただ事ではなかった。
変な禍根が残らないといいけれど。
そう祈りながら、気まずくならないことを願いつつ廊下を小走りで進んで行った。
***
ばたばたと忙しい足音を立て、遠ざかっていく後ろ姿を呆然と見つめながら。青年は、口内に残る味の余韻に身を小さく震わせた。
ぽつり、ぽつりと。周りには届かないほど小さな声量で。揺らぐ声を発する。
「自分で買っても、あんなに美味くない。……直くんが、食べさせてくれたから? ……直くんの、指を舐めたから?」
口もとを覆って。熱い息を漏らす。
「……食べたい、なあ」
細めた目は、昏い欲望で淀んでいた。
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