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第2章 秘めし小火と黒の教師編
17.クランと初めての友達
しおりを挟む「うーん……どこ行っちゃったんだろう……」
クロノス魔法学園の西側の出入り口を出たすぐ先の道端で、ウィンが茂みの中をかき分けたり、転がっている大きな石をひっくり返したり、花壇に植えてある綺麗な花々の隙間を目を凝らして見つめている。そのウィンは何やら困った表情を浮かべており、今にも泣き出しそうであった。
「……困ったなぁ、やっぱり家から来る途中で落としたのかなぁ……」
「…………ウィンディ!!…………よかった、追いつけて…………」
「ん?……クラン?どうしたの、そんなに息切らせて」
「………あの、その………コレ。ウィンディのかなって、思って………」
先ほどベンチで見つけた鮮やかな緑色の羽根のペンダントをウィンに差し出す。
クランは、ペンダントを見たウィンの反応を恐る恐る見る事しかできなかった。
「え?………ああああああああ!!!!」
「!?」
「それ!無くしたと思って、ずっと探してたんだよ~!!拾ってくれてありがと、クラン!」
「………そんなに、大切な物なの………?」
「うん!このペンダントね、ママから誕生日に貰った大事な宝物なんだ!………ホント見つかって良かったぁ~………」
見つかった嬉しさと安堵で気が抜けてしまったのだろう、ウィンはその場に座り込んでしまった。そんなウィンの様子を見ると、このペンダントがそれ程までに大事な物だったと言うことがわかる。
羨ましい。こんな素直に困ったり、焦ったり、驚いたり、喜んだりできるウィンが羨ましい。
わたしだって、昔は今よりずっと素直で、無邪気で、明るかったはずなのに"あんな事"があったせいでそんな感情の作り方を忘れてしまったのかと思うほど、上手く笑えたりできなくなってしまった。
だから、人と関わるのがこんなにも臆病になってしまったのだろう。関わらなければ悲しまずに済む、繋がらなければ苦しまずに済む。
でも、そう思うたびに昔大切な人に言われた言葉を思い出すのだ。
『クラン。あなたは、いつだって一人きりじゃないのよ。手を伸ばせばいつだって大切だと思ってくれる人が必ず差し伸べてくれるわ。だから、信じて。“あなたは一人じゃない”』
クランは身体を前に屈みながら、座り込むウィンに向かって手を差し伸べる。
いつものようにクールな表情ではあるが、その差し出した手は震え、額からは汗が滲み出すほど緊張していたが、ちっとも嫌な感じでは無かったのが不思議であった。
「あ……ありがとう。クラン」
まさかクランが手を差し伸べてくれるとは思っていなかったので、最初は驚いた顔のウィンだったが助けてくれた好意が嬉しくて自然と笑顔になっていた。
クランは、今しかないと勇気を振り絞る。変わらなくちゃいけないのだと決心する。
そして、ウィンの目を真っ直ぐ見つめ、怖くて震える唇をどうにか開かせる。
「………ウィンディ………あの、えっと………一緒に、帰らない………?」
ウィンがまた驚いた表情を浮かべる。先ほど手を差し伸べた時とは段違いの本当に驚いた顔であった。
だが、そのすぐ後にいつもの彼女の笑顔とは段違いのとびっきりの笑顔に変わる。
「え?………うん!アタシも、クランと一緒に帰りたい♪」
「………ありがとう、ウィンディ」
「それと、アタシのことは”ウィン“いいよ!友達なんだから♪」
「………友達?」
「うん!クランも、ファイもフリッドもみんな友達でしょ?少なくとも、アタシはそう思ってるよ♪あ、ついでに先生も!」
「………レイヴンも?」
「うん!」
「………ふ」
「ふ?」
「………フフ、先生も友達なんて、変わってるね……」
「えー、そんなに変わってるかな~?」
「うん、フフ………でも、あなたらしくていいと思う………」
「むぅ~、変わってるのがアタシらしいって言われるのは、府に落ちないですけど~」
「ごめん……フフ」
「もぅ!……アハハハ」
二人は暫くの間、笑顔で笑い合っていた。それは、偽りの笑顔や愛想笑いなどではない、ただただ素直な感情であった。
「いこっか、クラン!」
「……うん、”ウィン“!」
とある家のキッチンにウィンと30代後半くらいの男性が一緒に料理を作っていた。
その男性はウィンと同じ緑色の髪を短髪にしており、肌は日に焼けていた。また、トレーニングしているのか体つきがよく、顎には剃り忘れたのか無精髭が生えておりとてもワイルドな顔つきをしていた。
「ル~~、ルルル~~、ルンルンル~~~♪」
「ご機嫌だな、ウィンディ。学校でいいことでもあったのか?」
「うん!ま~ね~♪」
「そうか、そいつはよかったなぁ。お前には、”俺たち“のことで色々迷惑かけてるからな……本当、楽しそうで良かったよ」
「パパ!それは言わないって約束でしょ?」
「悪い悪い。……授業の方はどうだ?ついていけてるのか?」
「う……それは、その~……」
「お前は昔の俺に似て勉強は苦手だからなぁ。でも、ちゃんと勉強しなきゃだめだぞ?」
「は~い」
また別のとある家のリビングに静かに夕飯を食べている2人の姿があった。
今晩の夕飯のメニューは、帰宅途中にお店で買ってきた野菜を適当に切って盛り合わせただけのサラダと、近所の人に作りすぎたから良かったら食べてと言われ、お裾分けでもらった具が沢山入っているスープと、これまた買ってきたパンというシンプルな物であった。
「何かいいことでもあったのか?」
「………なんで?」
「いつもより嬉しそうだなと思っただけだ」
「………内緒」
「なんだそれ。………まぁ、お前が機嫌がいいならなんでもいいか」
「………ねぇ」
「ん?どうした?」
「………ちょっとだけ、興味もてるかも………」
「………そうか。そりゃ、よかった」
時刻は朝の7時を少し過ぎた頃、クロノス駅を出てすぐの学園へと繋がる急な坂道を歩く、クランの姿があった。
周りには他の生徒の姿はおらず、そのおかげで朝の風で揺れる木々の音や、その木にとまって休んでいる鳥の囀りだけが聞こえて来る。そんな清々しい空気が割と好きでいつもこの時間に登校しているのだ。
キュィィィィーーーーーン!!!
「?」
後方からどこかで聞いた事がある甲高い風を切り裂くような音が聞こえて来る。しかも、その音は徐々に大きくなりこちらに近づいてきているのだとわかる。
「ーーーーーってー!ーーーーーーってばー!」
「………なんだろう」
「言うことーーーーー!!聞きなーーーーーー!!」
「……………もしかして」
クランの予想は的中していた。なぜなら、この甲高い風を切り裂くような音は、レクリエーションで先生の背後を取ろうとした時に聞こえた音と全く一緒であったからだ。
「ーーーあぶなーーい!!!ーーーどいてどいてーー!!!」
「………マッド・バインド!!」
ーーーーーグニュ~~ン!
物凄い速さで突っ込んでくるウィンの身体を受け止めたのは、無口な学友、ではなくとても柔らかい”何か“であった。
その”何か“はぶつかった衝撃を全て吸収すると、静かに地面の中に消え、その中から苦しそうにもがいているウィンが姿を現した。
「………う~ん。アレ?全然痛くない!」
「………朝から元気だね、ウィン」
「あれ?クラン!おっはよー♪」
「おはよ………大丈夫?」
「うん!そっか、クランのおかげで助かったんだね、ありがとう♪」
「………友達だもん。助けるのは、当たり前………」
クランは座り込んでいるウィンにまた手を差し伸べる。昨日のような
差し伸べられた手をしっかりと握り、ウィンは立ち上がる。目線が同じ高さになり向かい合うと、お互いに笑顔になりとても嬉しい気持ちに溢れていた。
「………一緒に教室までいこ……ウィン」
「………うん!!」
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