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第3章 秘めし小火と級友の絆編
40.大公と円卓の間
しおりを挟む「大公殿下、定刻でございます」
「うむ」
ここ、"王城センテリュオ"の6階にある"円卓の間"は、主に国の行く末を決める時などに使われる所謂、会議室のような所である。
そして、今この"円卓の間"には、この国の政治に携わる名だたる大臣たちや、国中から集められた優秀な領主など総勢20名が、“円卓“の名の通りの大きな丸いテーブルに備え付けてある豪華な椅子に腰掛けている。
その中でも、まるで玉座のような一際豪華な椅子に足を組み、肘掛けに肘を立てて頬杖をつきながら偉そうに座る男が居た。
白みがかった金髪を、オールバックにしている30代前半の男性。元から細いせいか目つきが悪く、その目に睨まれようものなら凄まじい威圧力で動けなくなってしまいそうであった。
"グロウ・シャイニール"。ブライト前国王の腹違いの弟であり、現在大公と言う地位でこの国を動かしている、事実上の"支配者"である。
しかし、支配者と言っても生前にマーレ王妃が残した遺言により、国王に強大な権力が集中しないように、グロウ大公が指揮する王国軍と、"賢者クライメット"が中心となっている魔道管理局、さらに国民代表として"ボルグ・カーランド"が"ギルドマスター"として経営している"ギルド"と勢力を3つに分けることにより国王による独裁的な支配ができなくなっている。
さらに、国の行く末に関する重大な決めごとの際には、こうした会議で決めることとなっているため、国民に対しての無理な課税や、過剰な軍事力の強化なども大公だけでは勝手に決めることすらできないのだ。
「これより、"シャイニール王国緊急事態対策会議"を行う!!皆の者、忌憚のない意見を交わそうではないか」
グロウ大公が立ち上がり、会議の開始を宣言する。そのあと、すぐさま王座の如く豪華な椅子へと再び腰掛け、先ほどと全く同じ姿勢に戻るのであった。
「今回、皆に集まってもらったのは他でもない。今回の議題は、あるテロリスト集団についてだ」
「あるテロリスト集団………でごいますか?」
「そのテロリスト集団の名は、"朧月"。指名手配犯が多数確認されている、恐ろしき者たちよ」
グロウ大公は、あたかも偉そうに踏ん反り返っていた姿勢から、目の前のテーブルに両肘を立てて寄りかかり、指を組んだ両手を口元に持ってくるポーズを取っており、その表情は怖いほど真剣であった。
「先日、ギルバートがその"朧月"と思われるテロリストを拘束してな………まだ取り調べの途中だがまず間違いないだろう」
「しかし、それは本当なのですか?多数の目撃情報はあれど、捕まえることなどできなかったあの"朧月"を………」
「…………その件に付いては、“その者“から説明してもらおう」
そう言うと、グロウ大公がレイヴンの方を見つめる。それにより、その場に居る全員の視線が彼に注がれることは言うまでもなかった。
「えー………お、じゃない。私は、“クロノス魔法学園“で教師をしておりますレイヴンと申します。以後、お見知り置きを」
「ふむ。それで、レイヴンよ。其方がギルバートが来る前に対峙したとされる輩は、本当に“朧月“であったのか?」
「はい。指名手配中であった凶悪犯、“狂気の科学者“である"ブルート・シェーヴル"が"朧月"合成獣研究室の室長と名乗っていたので、間違いないかと」
「確か、ギルバートが拘束した者たちの中に、そんな奴が居た気がするな。では、やはりあの者たちは“朧月“に間違いなさそうだな」
それを聞いたグロウ大公が目を瞑り、しばらくの間思考を巡らせはじめた。なにせ、我々の脅威とも言える凶悪テロリスト集団がこの国の影で暗躍していると言う事実を目の当たりにしたのだ。国を導く者としては、至極当然の反応であった。
「それと、この“王都フラッシュリア“の闇市で違法に売買されている“月の雫“も、奴らの資金源であることも、その“狂気の科学者“が申しておりました」
「うーむ………その“月の雫“と言われておる薬物が、この王都に蔓延っているのは知っておったが、まさかそれも“朧月“の仕業であったとは」
すると大公は、レイヴンの話で新たに判明した新情報を整理するべく、再度閉じていた目を見開いた次の瞬間、専用の豪華な椅子から突然立ち上がり、力強く右手を目の前にかざしこう言ったのであった。
「この“グロウ・リュウール=シャイニール“が命じる。王国軍、総司令官のギルバートよ!」
「はっ!!」
「直ちに王国軍を総動員させて“月の雫“の回収に当たるのだ。抵抗する者は容赦なく処罰せよ!」
「ははぁっ!!仰せのままに」
突如下された“月の雫“の回収命令を聞くや否や、グロウ大公の隣に座っていたギルバートが徐に立ち上がり、胸に手を当てて“敬礼“のポーズを取るのであった。
そして、早速その準備のためか、そのまま“円卓の間“を足早に退出すると部屋の外に待機させていた数人の部下たちへ指示を出しているギルバートの声が微かに聞こえてきていた。
「さて、レイヴンよ。他にその“狂気の科学者“が言っていたことはあるか?些細なことでも良いのだが」
「いえ、他には何も」
「そうか………話は変わるのだが、其方。以前、我とどこかで会ったことはないか?」
「恐れながら、私はどこにでも居る“ただの教師“。それゆえ、こうして殿下にお会いしたのも初めてでございます」
「ふむ、我の思い違いであったか」
若干ではあるが納得していない大公であったが、これ以上議題から脱線した話で大事な会議を長引かせるわけにはいかないと判断したのか、それ以上の追求をすることはなかった。
「レイヴンよ、報告ご苦労。それと、さきの“朧月“捕縛への協力、大儀であったぞ」
「ははっ!身に余るお言葉、恐縮至極に存じます」
レイヴンは胸に手を当て、少しだけ頭を下げた後、ゆっくりと席についたのであった。国の権力者たちから眼差しでよほど緊張していたのか、席についた彼は安堵の表情を浮かべていた。
「次に、今後の“朧月“に対しての対策だが。各地域の領主たちはーーーーーーーー」
その後、会議は2時間ほど続いた後、無事何事もなく解散となった。
結局のところレイヴンが発言したのは、“朧月“の1人であるブルートとのやり取りでの証言のみであったが、城を出る頃には疲れ果てた表情を浮かべている彼と、その隣を
「今日は、すまんかったの」
「何だよ急に?」
「本来なら、ワシだけ来れば良かったものの、急にお主も参加することになってしまったからの」
「別にいーさ。今日は、退院の手続きで病院に行くとこだったが、別に明日でも問題ないしな」
「そうか………"あの子"の様子はどうじゃ?」
「だから、明日退院するから心配は………」
「そうではない。普段の様子のことじゃ」
そう言って不意に立ち止まった校長の表情は、いつも通りの誰にでも優しく微笑んでいる顔とは違い、"賢者"としての凄みを感じるほどに真剣な面持ちであった。
「元気だよ。ちゃんと勉強もしてるし、いい子にしてる」
「………そうか」
「たまには顔を見に来ても良いんじゃないか?”実の孫娘"なんだからよ」
「………そ、そうじゃな」
しかし、レイヴンからの思わぬ切り返しにより、校長は急に歯切れが悪くなってしまった。おまけに、明らかにばつが悪い表情を浮かべており、先ほどの凄みは嘘のように消えてしまっていたのであった。
「さて、ワシはこれから行くところがあってのぉ。悪いが、ここで失礼するぞ」
「あぁ、俺もそろそろ帰るよ。これから学園に戻っても対してやることないしな」
「さらばじゃ」
別れを告げると、雲のようにモコモコした物体が校長の体を包み込む。そして、全身を覆い尽くすと、そのモコモコした物体はそのままはるか空の彼方へと飛んでいってしまったのだ。
「………"戒め"て言うやつ、なのかねぇ。誰も望んでいないのに、ホント悪い"賢者"様だぜ」
レイヴンは静かにそう呟くと、帰宅ラッシュで賑わいを見せ始めた街の中へと消えて行ったのであった。
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